決戦前夜
森の上に広がる灰色の雲が、城壁手前の平野まで伸びる。
そんな中、陽光は、訓練場で汗を流す兵士たちを鼓舞するように照り付けていた。
「いいかっ。明日の戦いはこれまで以上に熾烈だ。周りの敵は全て自分でやるしかないと思えっ」
「おおぅ!!」
セドリックの言葉に、皆が応える。
彼らは、腰辺りまでの高さの木版に模擬剣を叩きつけ、カコン、カコンと小気味良い音を鳴らしていた。
会議から一週間ほど経ち、結果としてソフィアの案が採用された。
そして、その決行を翌日に控えた今日——、兵士たちは奮い立っていた。
目はギラギラと鈍く光り、落ち着かぬ呼吸で彼らは剣を振るう。その中でも、一際その眼光を鋭く力一杯に模擬剣を叩きつける者が一人——。
「はあっ」
バゴンッと木版が砕け散った。それは、金の髪と共に舞った。
「やりすぎだ」
コツンと、セドリックはオレリアの頭を優しく叩いた。
「‥‥すみません。つい」
すると、セドリックは続けてその大きな掌で彼女を撫でた。
「明日は頼んだぞ」
その声は、普段のセドリックからは出てこない、低く真面目なものだった。
オレリアはまっすぐ前を見つめ、黙って首肯した。
芝は抉れ、覗いた土に汗が落ちる。
怒号と打撃音が絶え間なく訓練場を埋め、殺気は次第に膨れ上がっていった。
そこで、パンパンと二度手が叩かれた。
「今日はここまでとするっ。明朝早くに出発だっ。しっかりと準備をしておけっ」
「はい!」
兵士たちはぞろぞろと兵舎へ戻ると、それぞれの部屋で剣や鎧を磨いた。
その晩、 食堂には豪勢な食事が並んだ。
肉、魚、野菜のスープ。また、一人一杯だけだが、酒が注がれていた。
その場は簡易病床から食事場へと戻り、晩餐の風景へと様変わりした。しかし、どちらにせよ、元の食堂ではなくなっていた——。
「お父さん、お母さん、アリス、皆。行ってくるね」
星空の下に並ぶおびただしい数の十字架。
その前で、合わさる手。瞑った瞳が開けば、青く月光に光る。
オレリアは、パン一切れに食事を済まして、墓地へとやって来ていた。
そこに眠るのは戦死した兵士たち。そして、彼女の手の中には、装飾の焦げたブローチ。
彼女がもう一度目を瞑り夜風に浸れば、遠くで城門が開き行進の音が響く。
「‥‥うん。絶対に取り戻すから。だから待ってて」
虫の声もしない、ただ数本の木々が揺れてざわめくだけ。
オレリアは軽く身震いをした。気温はそこまで低くはなかった。
踵を返して、兵舎に戻る。背には多くの十字架を背負って。
彼女の瞳は燃えていた。青の奥に真っ赤な炎が宿っていた。




