表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も彼は誰かを救っている  作者: 楪 一歩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

決戦前夜

 森の上に広がる灰色の雲が、城壁手前の平野まで伸びる。

 そんな中、陽光は、訓練場で汗を流す兵士たちを鼓舞するように照り付けていた。


 「いいかっ。明日の戦いはこれまで以上に熾烈だ。周りの敵は全て自分でやるしかないと思えっ」


 「おおぅ!!」


 セドリックの言葉に、皆が応える。

 彼らは、腰辺りまでの高さの木版に模擬剣を叩きつけ、カコン、カコンと小気味良い音を鳴らしていた。


 会議から一週間ほど経ち、結果としてソフィアの案が採用された。 

 そして、その決行を翌日に控えた今日——、兵士たちは奮い立っていた。


 目はギラギラと鈍く光り、落ち着かぬ呼吸で彼らは剣を振るう。その中でも、一際その眼光を鋭く力一杯に模擬剣を叩きつける者が一人——。


 「はあっ」


 バゴンッと木版が砕け散った。それは、金の髪と共に舞った。


 「やりすぎだ」


 コツンと、セドリックはオレリアの頭を優しく叩いた。


 「‥‥すみません。つい」


 すると、セドリックは続けてその大きな掌で彼女を撫でた。


 「明日は頼んだぞ」


 その声は、普段のセドリックからは出てこない、低く真面目なものだった。

 オレリアはまっすぐ前を見つめ、黙って首肯した。


 芝は抉れ、覗いた土に汗が落ちる。

 怒号と打撃音が絶え間なく訓練場を埋め、殺気は次第に膨れ上がっていった。

 そこで、パンパンと二度手が叩かれた。


 「今日はここまでとするっ。明朝早くに出発だっ。しっかりと準備をしておけっ」


 「はい!」


 兵士たちはぞろぞろと兵舎へ戻ると、それぞれの部屋で剣や鎧を磨いた。

 その晩、 食堂には豪勢な食事が並んだ。

 肉、魚、野菜のスープ。また、一人一杯だけだが、酒が注がれていた。


 その場は簡易病床から食事場へと戻り、晩餐の風景へと様変わりした。しかし、どちらにせよ、元の食堂ではなくなっていた——。


 「お父さん、お母さん、アリス、皆。行ってくるね」


 星空の下に並ぶおびただしい数の十字架。

 その前で、合わさる手。瞑った瞳が開けば、青く月光に光る。

 オレリアは、パン一切れに食事を済まして、墓地へとやって来ていた。


 そこに眠るのは戦死した兵士たち。そして、彼女の手の中には、装飾の焦げたブローチ。

 彼女がもう一度目を瞑り夜風に浸れば、遠くで城門が開き行進の音が響く。


 「‥‥うん。絶対に取り戻すから。だから待ってて」


 虫の声もしない、ただ数本の木々が揺れてざわめくだけ。


 オレリアは軽く身震いをした。気温はそこまで低くはなかった。

 踵を返して、兵舎に戻る。背には多くの十字架を背負って。


 彼女の瞳は燃えていた。青の奥に真っ赤な炎が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ