立ちはだかる壁
山の頂上。高く積みあがった石壁は、森に大きく影を落とし、上には白の狼たちが後光の内に立つ。
その毛並みが風になびき、天へ口を広げる。
「アオオーーン」
遠吠えが青空へ響いた。
たちまち熱気が湧き立つ。
——火の玉。
横一列に並ぶ狼たちの口元には、火炎が装填されていた。
そして、次第に膨れ上がり——、一斉に森へと放たれる。
緑に朱色が落ちた。
燃え上がる炎は、次々と森を飲み込んでいく。太く巻きあがる黒煙は空を濁す。
木々はバチバチと悲鳴を上げ、灰へと化す。
火の海が、砦の下に広がった。
だが、そんな中を砦へ向かう影があった。
熱の檻にて、灰を踏みしめ進む者たち。
「放てっ!!」
厚い黒煙を貫いて、城壁に迫るのは水の矢。
パンッと一つ、壁に弾けた。
その飛沫は陽光に輝き、地を濡らす。
狼たちは、皆そちらを見た。
すると、黒煙にまた穴が開いた。それも無数の穴。
——パパパンッ。
飛沫が上がった。それは、赤く染まっていた。
白の毛皮が石壁と擦れザーと音を立てる。ドサッと狼が地に落ちれば、灰が舞い上がった。力ない四肢。その腹の突き抜けた痕からは、血が垂れていた。
そして、雪崩れるように、他の狼たちもそれに続いた。
白波が城壁を撫でた。
「行くぞお!!」
さらにもう一つ、波が城壁へ押し寄せる。
銀色に青空を映して、黒煙を突き破り迫る波——騎士団。
彼らは焼けた山肌を一気に駆け上った。
そして、城壁へ辿り着く一歩手前、騎士たちはが剣を抜き、その背後からドオンと大砲が放たれる。
バゴォンという地響きと共に、砲弾が着弾。石が弾け飛び城壁が崩れ落ちた。
その勢いのままに、騎士たちが砦へと進攻しようとしたその時——、
爆発がまた起こった。
伴って大きな土煙が巻き上がり、騎士の前にもう一つの壁が現れた。
灰と炭の混じった砂の臭いが、麓まで駆け抜ける。
薄れゆく土煙の内には、ぼやけた影。
「グルルッ」
「おい。少しは落ち着いていられないのか」
舞う砂の晴れた先に姿を現したのは、獣の様相をした人間——。
さらに、砦上空に黒い翼をはためかせる魔人。
鋭い眼光が、騎士へ向く。騎士たちも皆、握る手に力が入る。
一方、魔人は大きくあくびを噛み締めていた。
「ん?」
魔人が突然眉をひそめた。彼の髪が数本浮き立っていた。
そして、彼が背を逸らすように見上げると、そこには大きな魔方陣が紫色の光を放っていた。
目を大きく見開いて、魔人は「ほお」と吐息を漏らす。
——白飛びする森。空を裂き、轟音が青空を渡る。
巨大な雷が、降り注いだ。
砦にいた魔獣は、そのほとんどが黒く焼け焦げた。
「俺の相手はそっちだな」
そんな中、直に喰らったはずの魔人は、口角を上げ、山の中腹辺りを見つめていた。
すると、その手がすっと持ち上がり、指先が真っすぐ伸びた。
彼の瞳の捉える先には、魔術師——。
一直線に閃光が走った。
ガンッと、弾ける音が響き放たれた光線が止まる。
魔術師たちを透明な壁がドーム状に覆っていた。その内で、彼らは歯を食いしばり手を上へ向ける。
ギリギリと歯ぎしりで敷き詰められたドームの中、ローブの袖から覗く腕には皆血管を浮かばせていた。
だが、その懸命さも意味をなさぬかのように。次第に盾は削れ、ひびが入り——。
「があああっ」
光線は貫通した。
減衰していたものの、威力はすさまじく、魔術師たちは散り散りに吹き飛んだ。
それを見降ろし、魔人は依然として笑っていた。




