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今日も彼は誰かを救っている  作者: 楪 一歩


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17/18

牢獄

 血にまみれた部屋。錆の香を漂わせる鉄格子。

 その内には、食い荒らされた肉片が落ちる。

 ガシャンと錠が外れ落ち、それが薄暗い牢獄に響いた。

 ムシャムシャと、依然、肉へ食いつく者の視線が、ふと背後へ向く。


 「仕事だ」


 鉄格子を挟み魔人がそう言った。

 そうして、彼が入り口を開けたその時——。


 「アヴッ!」


 魔人の喉元を鋭い爪が襲う。

 だが、彼はそれを容易く片手で受け止めて、掴んだ手首を力強く握った。


 「アアアッ!!」


 牢獄の鉄を揺らす叫び。

 その主は、人間。


 だが、伸びる髪は獣のたてがみの様相をして背まで覆う。また、爪、牙が鋭く生えそろい、瞳孔は長細く真紅に染まっていた。


 「お前の敵は私ではないぞ」


 魔人の言葉に、その人間は呻き睨み上げた。

 彼の首元には、鉄の輪。そして、蝋燭の明かりにそこへ刻まれた文字が浮かび上がった。

 ——0-150。 


 「ヴゥゥ。うるさいっ。離せ」


 0-150は低い声でそう言うと、今度は彼の左手が微かに動く。

 が、——ドォン!! という轟音と共に、鉄格子が大きく曲がった。すると、その傍に伏すからだが一つ。

 天井から滴る水が、0-150の体へと落ちた。


 「いいか。死にたくなければ従え」


 充血しきった眼が、0-150を見下ろす。

 赤黒の腕にはくっきりと筋が浮かび上がり、パキパキと力んだ指が軋む音を出す。

 逆立った毛の影が0-150へ寄ると、その手はがっしりと彼の首元を掴み上げた。


 「さあ、どうする。死にたいか?」


 魔人の爪は首輪を裂くままに、0-150の肌へ食いんで、血が垂れる。

 細かく震える0-150の体。次第に顔は赤くなっていき、とうとう彼は首を大きく横に振った。


 「そうか」


 そう言って、魔人はぱっと手を離すと、手首を確かめるように回した。

 パラパラと崩れた鉄の首輪の元、0-150は両膝着いて俯くままに、喉を押さえせき込んでいた。


 「では、早速だがお前には第二砦へ行ってもらう」


 「‥‥第二、砦?」


 まだ、息の整わない様子で、0-150が訊いた。

 それに対し魔人は、「ああ、そうだと」と応える。


 乾いた咳が牢獄内に散り、暗闇へと飲まれて行く。


 0-150は重たく立ち上がると、大きく息を吐いた。そうして落ち着いた呼吸をして、彼はただ真っすぐ魔人を見た。


 「喜べ。久しぶりに旧友と会えるぞ」


 魔人は、不敵な笑みを浮かべそう言った。


 「何のことだ」


 「行けばわかるさ」


 応えて魔人は、薄地にこげ茶色をしたローブを差し出した。

 0-150は、勢いよく奪うように手に取ると、それを大きくはためかせて羽織る。

 コツコツと足音を重ね、二人は闇の内に紛れていった。

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