牢獄
血にまみれた部屋。錆の香を漂わせる鉄格子。
その内には、食い荒らされた肉片が落ちる。
ガシャンと錠が外れ落ち、それが薄暗い牢獄に響いた。
ムシャムシャと、依然、肉へ食いつく者の視線が、ふと背後へ向く。
「仕事だ」
鉄格子を挟み魔人がそう言った。
そうして、彼が入り口を開けたその時——。
「アヴッ!」
魔人の喉元を鋭い爪が襲う。
だが、彼はそれを容易く片手で受け止めて、掴んだ手首を力強く握った。
「アアアッ!!」
牢獄の鉄を揺らす叫び。
その主は、人間。
だが、伸びる髪は獣のたてがみの様相をして背まで覆う。また、爪、牙が鋭く生えそろい、瞳孔は長細く真紅に染まっていた。
「お前の敵は私ではないぞ」
魔人の言葉に、その人間は呻き睨み上げた。
彼の首元には、鉄の輪。そして、蝋燭の明かりにそこへ刻まれた文字が浮かび上がった。
——0-150。
「ヴゥゥ。うるさいっ。離せ」
0-150は低い声でそう言うと、今度は彼の左手が微かに動く。
が、——ドォン!! という轟音と共に、鉄格子が大きく曲がった。すると、その傍に伏すからだが一つ。
天井から滴る水が、0-150の体へと落ちた。
「いいか。死にたくなければ従え」
充血しきった眼が、0-150を見下ろす。
赤黒の腕にはくっきりと筋が浮かび上がり、パキパキと力んだ指が軋む音を出す。
逆立った毛の影が0-150へ寄ると、その手はがっしりと彼の首元を掴み上げた。
「さあ、どうする。死にたいか?」
魔人の爪は首輪を裂くままに、0-150の肌へ食いんで、血が垂れる。
細かく震える0-150の体。次第に顔は赤くなっていき、とうとう彼は首を大きく横に振った。
「そうか」
そう言って、魔人はぱっと手を離すと、手首を確かめるように回した。
パラパラと崩れた鉄の首輪の元、0-150は両膝着いて俯くままに、喉を押さえせき込んでいた。
「では、早速だがお前には第二砦へ行ってもらう」
「‥‥第二、砦?」
まだ、息の整わない様子で、0-150が訊いた。
それに対し魔人は、「ああ、そうだと」と応える。
乾いた咳が牢獄内に散り、暗闇へと飲まれて行く。
0-150は重たく立ち上がると、大きく息を吐いた。そうして落ち着いた呼吸をして、彼はただ真っすぐ魔人を見た。
「喜べ。久しぶりに旧友と会えるぞ」
魔人は、不敵な笑みを浮かべそう言った。
「何のことだ」
「行けばわかるさ」
応えて魔人は、薄地にこげ茶色をしたローブを差し出した。
0-150は、勢いよく奪うように手に取ると、それを大きくはためかせて羽織る。
コツコツと足音を重ね、二人は闇の内に紛れていった。




