外交
「こちらは首尾よく進んでおります」
「よろしい。では、今後も頼んだぞ」
「はい」
直方に伸びた水色のクリスタルが放つ光がポンと途切れた。
その前で、小麦色の長髪がさらりと流れる。
「ノーラ様。客人がお見えです」
「通せ」
「はっ」
長い耳がぴんと立ち、その瞳は金色に輝く。
エルフの女王——ノーラ。
大樹の城の広間にて、彼女は一段高い玉座に座す。
「失礼します」
そうして開いた扉。
二人のエルフに挟まれて、眼鏡をかけた男が姿を見せた。
彼は、一歩、二歩、玉座の前へ赤のカーペットを進むと、片膝をつき頭を垂れる。
「お久しぶりでございます。ノーラ様。常々の支援、感謝しております」
「ああ。久しぶりだなヒューゴ殿。なに、あれぐらいのこと、造作もない」
そう言ってノーラは「ほら、顔を上げよ」と微笑んだ。そして彼女は、ヒューゴを見下ろし続ける。
「して、早速だが今日は何の用か」
「はい、実は——」
そこで切ってヒューゴは背広の胸元に手を入れた。その時、
「——ひっ」
キラリと白刃が輝く。
ヒューゴの横に立つエルフが剣を抜き、彼の前に刃を向けた。
「ジン、よい」
「はっ」
ノーラの一言で、ジンは剣を収める。
一方ヒューゴは、一瞬固まった後に胸元から一枚の包を取り出し、「これを」と恐る恐るジンへ渡した。そして、それはジンの手からノーラへ渡る。
三つ折りになった紙が開かれ、鋭い瞳が文字を追った。
風が吹き、森の木々が揺れる。木漏れ日差し込む広間に、その音はさざ波の様に響いた。
「なるほど。物資が足りないと」
「はい」とヒューゴは頷きつつ、彼の喉が微かに動いた。
ノーラは顎に手を当て俯く。そして、僅かの沈黙の後に口を開いた。
「うん。まあ、よいだろう。これくらいであれば」
「ほ、本当ですかっ」
目を見開き、ヒューゴの口元が緩む。
そんな彼に、ノーラは微笑む。
「対価もすぐでなくてよい。私達は魔王と戦う仲間であろう?」
「あ、ありがとうございますっ」
高揚した様子で、ヒューゴは頭を下げた。
ヒューロロロと、小鳥の陽気な鳴き声が森に響いた。
「では、もう一つの援軍の方も——」
ヒューゴが頭を上げそう言うと、その瞳は震えた。加えて、彼の身はすくむ。
「何か言ったか?」
そのノーラの声は、先刻よりも穏やかでいた。
「い、いえ。何でもございません」
ヒューゴは、大きく首を横に振った後、落ち着かない手つきで眼鏡の位置を直した。
「そうか。それなら良いが‥‥」
「はい。物資の支援。非常にありがたく存じます」
「うむ。貴国の健闘を祈っているよ」
ヒューゴは、それに「はい」と応えると「では、私はこれで」と立ち上がった。しかし、それを「待て」と、ノーラが止めた。
「海を渡っての長旅に疲れたろう。今日はここに泊っていってはどうだ」
「い、いえ。すぐにでも報告に帰らなければ。段取りもございますし」
その言葉にノーラは「それもそうか」と漏らし続けた。
「お前の様な働き者がいて、羨ましい限りだよ」
「ははは」と彼女は声を出して笑った。
ヒューゴは「あはは」と苦笑を浮かべ、「それでは、失礼いたします」と足早にそこを後にした。
その間も、ノーラは笑い続けていた。




