次の戦いへ
——翌日。
「もう一度、あれをやる」
「‥‥わかりました」
ソフィアとエレオノールは、砦の会議室にて二人向き合って座っていた。
「来週までには準備しておきます」
「助かるよ」
そう二人が言葉を交わしたところで、会議室のドアノブがガチャとひねられた。そして、開かれた先に姿を現したのはセドリックだった。
「来たか」
「どうだって?」
反対側の席へ向かうセドリック。それを目で追って、ソフィアは口を開く。
「いいそうだ」
「‥‥そうか」
セドリックの引いた椅子はギィと鳴って、彼が座るのに伴い軋む音を立てた。
「すまんな」
セドリックの言葉に、エレオノールは黙って首を振る。
「私にできることであれば。勝つためでしょう」
口元は優しく微笑んで、瞳は前髪に隠れたまま。
「それで、セドリックさん。数の方は‥‥」
「五十だな」
机上に広がる地図へ目を落として、セドリックは静かに応える。
「人選はそっちで頼む。前回同様、怪我の重い奴からでいい」
「はい」
傾むいた日が窓辺に差し込む。長く伸びる陽光は、中央に座す三人を朱色に照らし出していた。
その後も三人は、今後の戦いについて入念に話し合った。
その間に日は沈み、月が昇り始めていた。
会議室には照明が灯る。
「今日はここまでにしておこう」
ソフィアのその一言で、セドリックとエレオノールは大きく息を吐いた。
「お二人はこの後何かご用事が?」
「私は少しやらなければけないことがある」
ソフィアは、そう言って立ち上がると、セドリックの方を見下ろした。
「こいつはどうせ暇だろうがな」
セドリックはそれに、「暇で悪かったな」と言ってあくびを噛み締めた。
「じゃ、じゃあ。セドリックさん、お茶はいかがです? 私、疲れに効く薬、じゃないや。お茶を持ってきたんですよ」
エレオノールの言葉に、セドリックはぐっと伸びをして応える。
「ああ、頂くことにするよ」
そうして三人は、会議室を後にして、エレオノールとセドリックは、食堂へと向かった。
食堂に人はまばらで、その隅の席に二人は対面で座った。
木のコップから湯気が昇り、芳ばしい香りが立つ。
「あ、あの——」
「なあ。オレリアはどんな様子だ」
被った声。机に置かれた蝋燭の明かりが、首を傾げるエレオノールを映す。
「オレリア、さん?」
「ほら、金髪の女騎士いるだろ。確かあいつ、怪我がひどくて向こうにいるんじゃ」
「ああ」と合点がいくようにエレオノールは頷いた。
「彼女でしたら、確かにいたと思います。元気なご様子でしたよ」
その言葉に、セドリックはほっと安心した表情を浮かべた。
「それなら、良かったよ」
そうして彼は一口、お茶を飲む。コップを置き漏れた安堵の溜め息が、蝋燭と共に、その先にある湯気までも乱した。
「‥‥そうですね。皆さんの無事が一番、ですよね——」
「あ、やべ」
そう言って、セドリックはぐっと勢いよくコップを傾けると、突然立ち上がった。
「すまん、ちょっと用事思い出しちまった」
「え、ええ」
「じゃ」とセドリックはそのまま、食堂を後にした。
置かれた空のコップを、前髪を介してエレオノールの瞳はまじまじと捉えていた。




