失ったもの
砦奪還の成功。
それは、町の人々に希望と勇気を与えた。
ただ、その引き換えに、数多くのものが失われた。
「‥‥シモン」
オレリアは十字架の前で微笑む。
その十字架は、オレリアよりも背が高く、墓地に一際大きく立っていた。
「勝ったぞ。‥‥また、あいつに助けられたが。確かに勝ったぞ」
オレリアはそう言って、拳を突き出す。トンと墓標に優しく当てれば、彼女は振り返りその金髪が揺れる。
包帯に巻かれた右手。未だ彼女の傷は癒えないままでいた。
足の引きずるまま、兵舎へと戻る彼女には、新たな傷跡が左手の内に刻まれた。くっきりとした爪の痕が——。
陽光は、ただ明るく大地へと降り注いでいた。
そして、白昼に影を落とすのは、彼女だけではない。
セドリックもまた、窓から差し込む日を浴びて、背中に影を伸ばす。
黄昏るように、彼は砦から外を眺めていた。
「休む間などないぞ」
「‥‥知ってるよ」
セドリックは僅か振り向きソフィアに応える。
そして、一つ息を吐いてから、彼女の方へと歩み寄った。そのまま彼は、ソフィアの肩に優しく手を置くと、静かに口を開いた。
「次の作戦会議でもしようか」
セドリックは低い声で言った。
「ああ、そうだな」
セドリックの手は、ソフィアの肩を力強く握っていた。その手を放す時、すました横顔のソフィアを、セドリックは鋭い目つきで一瞥した。
砦の攻略から三日が経っていた。
そこでは、崩れ落ちた壁をはじめとした設備の修復や、兵士の配備、物資の運搬等が急ぎ行われていた。
既に血は雨に流れ、ぬかるんだ地面も乾きあがっていた。
「これが?」
「ああ。大規模魔法陣の要となる魔法石だ」
セドリックとソフィアの前には、翡翠色の透き通った石。赤子の体よりも小さい位のそれは、内から妖しく淡い光を出していた。
暫く眺めた後、ソフィアは台座に置かれた魔法石に黒く厚い布を被せた。
「でだ。進軍の準備はあとどれくらいかかりそうなんだ」
「早くて二週間ってところだな」
「そうか」
ソフィアは顎に手を当て、机に広がる地図を眺めた。
「次はどこかで一度、陣を築かなければな」
セドリックも地図を見つつ口を開く。
「この辺りか?」
彼の指さすのは、川の手前。その渡った先に次の砦が控える。
ソフィアは「そうだな」と頷いたが、口を歪めた。
「ただ、やはり魔獣がな‥‥」
その言葉に、セドリックはゆっくりと顔を上げて、森の方を見た。
そして、彼は静かに言う。
「エレオノールにも、聞いてみよう」
ソフィアは地図上に視線を置いたまま、「ああ、そうだな」と応えた。
窓辺の陽光は、二人の立つ手前で線を引くように切り取られていた。




