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今日も彼は誰かを救っている  作者: 楪 一歩


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12/18

失ったもの

 砦奪還の成功。

 それは、町の人々に希望と勇気を与えた。

 ただ、その引き換えに、数多くのものが失われた。


 「‥‥シモン」


 オレリアは十字架の前で微笑む。

 その十字架は、オレリアよりも背が高く、墓地に一際大きく立っていた。


 「勝ったぞ。‥‥また、あいつに助けられたが。確かに勝ったぞ」


 オレリアはそう言って、拳を突き出す。トンと墓標に優しく当てれば、彼女は振り返りその金髪が揺れる。

 包帯に巻かれた右手。未だ彼女の傷は癒えないままでいた。

 足の引きずるまま、兵舎へと戻る彼女には、新たな傷跡が左手の内に刻まれた。くっきりとした爪の痕が——。


 陽光は、ただ明るく大地へと降り注いでいた。


 そして、白昼に影を落とすのは、彼女だけではない。

 セドリックもまた、窓から差し込む日を浴びて、背中に影を伸ばす。

 黄昏るように、彼は砦から外を眺めていた。


 「休む間などないぞ」


 「‥‥知ってるよ」


 セドリックは僅か振り向きソフィアに応える。

 そして、一つ息を吐いてから、彼女の方へと歩み寄った。そのまま彼は、ソフィアの肩に優しく手を置くと、静かに口を開いた。


 「次の作戦会議でもしようか」


 セドリックは低い声で言った。


 「ああ、そうだな」


 セドリックの手は、ソフィアの肩を力強く握っていた。その手を放す時、すました横顔のソフィアを、セドリックは鋭い目つきで一瞥した。


 砦の攻略から三日が経っていた。

 そこでは、崩れ落ちた壁をはじめとした設備の修復や、兵士の配備、物資の運搬等が急ぎ行われていた。

 既に血は雨に流れ、ぬかるんだ地面も乾きあがっていた。


 「これが?」


 「ああ。大規模魔法陣の要となる魔法石だ」


 セドリックとソフィアの前には、翡翠色の透き通った石。赤子の体よりも小さい位のそれは、内から妖しく淡い光を出していた。

 暫く眺めた後、ソフィアは台座に置かれた魔法石に黒く厚い布を被せた。


 「でだ。進軍の準備はあとどれくらいかかりそうなんだ」


 「早くて二週間ってところだな」


 「そうか」


 ソフィアは顎に手を当て、机に広がる地図を眺めた。


 「次はどこかで一度、陣を築かなければな」


 セドリックも地図を見つつ口を開く。


 「この辺りか?」


 彼の指さすのは、川の手前。その渡った先に次の砦が控える。

 ソフィアは「そうだな」と頷いたが、口を歪めた。


 「ただ、やはり魔獣がな‥‥」


 その言葉に、セドリックはゆっくりと顔を上げて、森の方を見た。

 そして、彼は静かに言う。


 「エレオノールにも、聞いてみよう」


 ソフィアは地図上に視線を置いたまま、「ああ、そうだな」と応えた。

 窓辺の陽光は、二人の立つ手前で線を引くように切り取られていた。

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