破れる
「ねえ、一平。その、高校は‥‥どうするの?」
ドア越しに、一平の母親が続ける。
「お母さんは、さ。どこでもいいから、行ったらいいんじゃないかなって、思ってるんだけど‥‥」
——ガシャンッ。という大きな音と共に、ドアに衝撃が走った。
母親の肩は微かに動き、ドアノブに掛かっていた手は、ゆっくりと離れる。
ドアの向こうには、壊れたゲームのコントローラーが転がっていた。ボタンは飛散し、中の基盤が覗く。
一平は、荒い呼吸で、モニターを凝視していた。
「‥‥ごめんね」
小さく震えた声で母親は言った。
一枚の板が、二人を隔てる。
母親は、静かに階段を下っていった。
一方、一平は机に向かっていた。手元には、いつものノートがあった。
開かれたページには、影喰。
ただ、その黒い毛並みは濡れて滲んでいた。
ノートには、ぽたり、ぽたりと涙が落ちる。
握りしめた鉛筆が、その上を裂いた。ぐしゃぐしゃに、ボロボロに、ページは削れ影喰は消えていく。
一平は搔きむしるように、鉛筆を走らせた後に、そのページを元から切り離した。そして、ぎゅっと握りつぶして、彼はそれをゴミ箱の中へと投げつけた。
黒の狼はただの紙くずとなった。
影喰が死んだ‥‥。
ゴミ箱を見つめ、一平は固まった。潤んだ瞳に噛み締められた唇。そして口が開き、大きく息が吸われる。
「ゔっ」
歯を食いしばって、堪えられた叫びは嗚咽となって漏れた。
肩を震わせて、一平は乱暴な足取りで机へ戻る。
そして、袖で思い切り目元を拭うと、鉛筆を手に取り、続くノートのページへまた、何かを描き始めた。




