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今日も彼は誰かを救っている  作者: 楪 一歩


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11/18

破れる

「ねえ、一平。その、高校は‥‥どうするの?」


 ドア越しに、一平の母親が続ける。


 「お母さんは、さ。どこでもいいから、行ったらいいんじゃないかなって、思ってるんだけど‥‥」


 ——ガシャンッ。という大きな音と共に、ドアに衝撃が走った。

 母親の肩は微かに動き、ドアノブに掛かっていた手は、ゆっくりと離れる。

 ドアの向こうには、壊れたゲームのコントローラーが転がっていた。ボタンは飛散し、中の基盤が覗く。

 一平は、荒い呼吸で、モニターを凝視していた。


 「‥‥ごめんね」


 小さく震えた声で母親は言った。

 一枚の板が、二人を隔てる。

 母親は、静かに階段を下っていった。


 一方、一平は机に向かっていた。手元には、いつものノートがあった。

 開かれたページには、影喰。

 ただ、その黒い毛並みは濡れて滲んでいた。


 ノートには、ぽたり、ぽたりと涙が落ちる。

 握りしめた鉛筆が、その上を裂いた。ぐしゃぐしゃに、ボロボロに、ページは削れ影喰は消えていく。


 一平は搔きむしるように、鉛筆を走らせた後に、そのページを元から切り離した。そして、ぎゅっと握りつぶして、彼はそれをゴミ箱の中へと投げつけた。

 黒の狼はただの紙くずとなった。


 影喰が死んだ‥‥。


 ゴミ箱を見つめ、一平は固まった。潤んだ瞳に噛み締められた唇。そして口が開き、大きく息が吸われる。


 「ゔっ」


 歯を食いしばって、堪えられた叫びは嗚咽となって漏れた。 

 肩を震わせて、一平は乱暴な足取りで机へ戻る。

 そして、袖で思い切り目元を拭うと、鉛筆を手に取り、続くノートのページへまた、何かを描き始めた。

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