第9話「発進! 禁断の魔改造と海を駆ける暴走族」
「えー、じゃあどうすんのさ! このキンピカ、重いし(自己浮遊がなければ)、食べられないし、このままじゃ宝の持ち腐れだよ!」
パレットが頬を膨らませて不満を漏らすと、ロジックは腕を組んで深く考え込んだ。
「安全に、そして正当な対価でこれを換金するには、相応の知識を持つ相手と、取引のための安全な場所が必要だ……。自由の国『FREEDOM』の裏社会に精通した情報屋か、あるいは栄光の国『GLORY』まで戻って、僕の実家のコネを……いや、それも危険すぎる……」
ロジックが様々な選択肢を計算しては、そのリスクの高さに頭を抱える。
その時、パレットが「あっ!」と声を上げた。まるで天啓を得たかのように、パレットの目がキラリと輝く。
「そうだ! アイオンに聞こうよ!」
「アイオン? あの『アーク・ノア』の自律人形か。だが、アイオンは古代の遺物だ。現代の経済や市場について詳しいとは思えんが……」
「詳しいかどうかじゃないよ! アイオンは物知り博士なんだから、何か知ってるかもしれないでしょ! 『このお宝を一番喜んでくれそうなのは、どんな人?』とか、『古代にはこういうのをどうやって運んだの?』とか聞けば、何かヒントをくれるかもしれないじゃん!」
パレットの理屈は単純明快だが、ロジックも他に有効な手がない現状では、藁にもすがる思いだった。
こうして一行は再び巨大艦「アーク・ノア」へと舞い戻り、艦橋で待つアイオンと再会した。新しい仲間であるキンピカとカニタを自慢げに紹介した後、パレットは本題を切り出した。
「それでね、アイオン! このキンピカなんだけど、古代の人たちは、こういうお宝を手に入れたらどうしてたの? 安全に運んだり、何かと交換したりする方法って、記録に残ってない?」
アイオンはパレットの問いかけに、数秒間沈黙した。アイオンの電子頭脳の中で、膨大なデータが検索・照合されているようだ。
やがて、アイオンは艦橋のメインスクリーンに、一枚の古びた地図を映し出した。
『……記録照会。旧文明時代、「黄金の揺り籠」等ノ高価値物質ヲ安全ニ取引スル際、ソノ価値ヲ保証スル「鑑定印」ヲ発行スル特殊ナ機関ガ存在シマシタ』
アイオンは地図上の一点を拡大する。
『ソノ機関ノ本部ハ、「知ノ都」ト呼バレタ学術都市ニ設置サレテイマシタ。当時ノ最高権威デアル『賢者の組合』ガ管理シ、彼ラノ鑑定印ガ押サレタ物質ハ、国家間取引ニオイテモ絶対的ナ価値ヲ持ツコトガ保証サレテイタ模様』
「賢者の組合……」
ロジックが息を呑む。『GLORY』の歴史書にも記述が残る、伝説的な古代の組織だ。
『現在、ソノ都市ガどうなっているかハ不明。シカシ、ソノ跡地周辺デ活動スル者タチノ中ニハ、ギルドノ知識ヤ技術ヲ一部継承シテイル者ガイル可能性ハ否定デキマセン』
「その『知の都』って、今のどこにあるの?」
パレットが尋ねる。
アイオンが示した座標を、ロジックが現在の地図と照らし合わせる。
「……この場所は……『GLORY』の首都から、西へ三日ほど馬車を走らせた場所にある、古い港町『古き港』だ。今は寂れた貿易港だが、昔は学術都市として栄えていたという伝説が残っている。まさか、その伝説が本当だったとは……」
アイオンは続けた。
『モシ、ソノ町ニギルドノ末裔ヤ、彼ラノ知識ヲ受ケ継グ「鑑定士」ガイルナラバ、「黄金の揺り籠」ノ価値ヲ正当ニ評価シ、あるいは安全な取引相手ヲ紹介スルコトガ可能カモシレマセン』
それは、確実な情報ではなかった。だが、無法地帯である『FREEDOM』で闇雲に買い手を探すより、遥かに希望の持てる道筋だった。
故郷である『GLORY』の、しかも伝説に彩られた古い港町。ロジックにとっても、全く見当がつかない場所ではない。
「鑑定士のおじいちゃんを探す冒険! なんだか探偵みたいでワクワクするじゃん!」
アイオンが示した古代の地図と、ロジックの解説を聞き終えるやいなや、パレットは瞳をキラキラと輝かせた。
「よし、次の目的地は決定! その『古き港』って町に行こう! 伝説の鑑定士を見つけ出して、キンピカの本当の値段を教えてもらうんだ!」
パレットは高らかに宣言し、『アヒル型運搬容器』を掲げてみせた。中ではキンピカが「私も賛成!」というかのように、ぷるんと揺れる。
「待て、パレット。まだ決まったわけでは……」
ロジックが慎重論を述べようとするが、パレットの勢いは誰にも止められない。
「うんうん、港町、いいですねぇ。潮の香りがして、きっとよく眠れますよぉ。美味しいお魚が食べられるなら、私も大賛成ですぅ」
ポワンがパレットの意見にふわりと乗っかる。
「……はぁ。僕の故郷……『GLORY』か……」
ロジックは少しだけ浮かない顔をしたが、他に選択肢がないことも理解していた。
「……分かった。それが最も現実的で、成功確率の高いルートだろう。僕の知識も活かせるはずだ」
こうして、一行の次なる目的地は、大陸側に位置する栄光の国『GLORY』の港町『古き港』に正式に決定した。
「アイオン、ありがとう! すごく助かったよ!」
パレットが礼を言うと、アイオンは静かに頷いた。
『御武運ヲ。……マタ、いつでも帰還シテクダサイ。ココハ、アナタ方ノ母港デス』
無機質な自律人形の口から紡がれた温かい言葉に、三人は少しだけ胸を熱くした。
再びアーク・ノアを後にした一行だったが、そこでパレットはハタと足を止めた。
「……ところでさ」
パレットは、目の前に広がる鉛色の海と、自分たちが立っている無法の島国『FREEDOM』を見回して、首を傾げた。
「どうやって『GLORY』まで行くの? ここ、海に囲まれてるんでしょ? 泳いで渡るの?」
その、あまりにも根本的な疑問に、ロジックはこめかみをピクピクさせながら答えた。
「……君は、どうやってここへ来たか忘れたのか? あの方法は二度と使えんぞ」
「えー、だってあの時、『PEACEFUL』から『BRAVE』行きの定期貨物船にこっそり忍び込んだら、途中で巨大な嵐に遭って、船がバラバラになって……気づいたら樽か何かにしがみついて、この島に流れ着いてたんだもん! あれは事故だよ、事故!」
パレットはケラケラと笑う。
「計画性のない密航の結果、遭難しただけだ。九死に一生を得た幸運は、二度は続かん。いずれにせよ、帰り道は自分たちの力で確保しなければならない」
「神様が、私たちにキンピカさんたちと出会うための試練を与えてくださったのですねぇ」
ポワンはのんびりとお茶をすすりながら、遭難すらもポジティブに解釈していた。まて、そのお茶、枕から出してなかったか?
ともかく、来た時と同じ方法は使えない。彼らは、この無法の島から大陸へ渡るための、新たな「船」を手に入れる必要があった。しかし、周囲を見渡しても、都合よく船が手に入るような港は見当たらない。
「ああもう、どうすればいいのさ!」
パレットが頭を抱えていると、ロジックが不意に、希望と絶望が入り混じったような声で呟いた。
「……いや、手がないわけじゃない。だが、どれもリスクが高すぎる」
「そうなの!? どんな手!?」
「一つは、この海岸線を歩いて、無法者たちが寄り集まる密輸港を探し出すことだ。そこで交渉するか……力ずくで船を奪うか。どちらにせよ、まともな取引になるとは思えん」
ロジックは続ける。
「もう一つは……君のそのジルパワーで、イカダか何かを描き出すことだ。だが、この『FREEDOM』近海の海は荒れているし、海棲魔物も多い。君の描く乗り物の信頼性を考えると、大陸に着く前に海の藻屑になる確率が90%を超える」
「むっ、私の船をバカにしたな!」
まともな船を奪うのも、自作の船で渡るのも、どちらも非常に危険な賭けだった。
その時、パレットが「あっ!」と天啓を得た顔になった。
「分かった! もっと安全で、もっとすごい方法があるよ! 私たちには、最強の助っ人がいるじゃない!」
パレットは振り返り、今出てきたばかりの巨大な艦、アーク・ノアを指差した。
「やっぱりアイオンしかいない! またアーク・ノアに戻ろう!」
「戻ってどうするんだ。艦は動かないと結論が出たばかりだろう」
「艦が動かなくたって、アイオンはいるじゃない! あの船、元々はすっごいヤバい船だったわけでしょ? ってことはだよ? 絶対に、緊急事態のための『脱出ポッド』とか『小型潜水艇』みたいなのが、どこかに隠してあるはずなんだよ! 私の冒険家としての勘が、ビンビンにそう告げてる!」
それは、ただの願望であり、希望的観測だった。しかし、パレットの根拠のない自信には、妙な説得力がある。
「……旧文明の次元潜行艦に、現代でも運用可能な脱出艇が搭載されている確率……限りなくゼロに近い。だが……」
ロジックは考え込む。
「……ゼロではない、か。試してみる価値はあるかもしれんな。港で無法者と交渉するよりは、確かに安全だ」
「それに、アイオン君ともう少しお話しできるなら、私は賛成ですぅ」
ポワンもにこやかに同意した。
方針が決まれば話は早い。一行は三度、アーク・ノアの巨大なゲートをくぐった。
艦橋で彼らを迎えたアイオンは、僅かな時間で二度も顔を合わせることになった主たちを見て、その青い瞳をわずかにパチクリさせた。
『……御帰還ヲ歓迎シマス。……何かオ忘レ物デモ?』
「アイオン君! 大変なんだ! 私たち、大陸に帰る船がないの!」
パレットは単刀直入に切り出した。
「それでね、お願いがあるんだけど! このアーク・ノアに、ちっちゃくてもいいから、海を渡れるような船とかボートとか、隠してない?」
パレットの無茶なお願いに、アイオンは数秒間、完全に沈黙した。アイオンの電子頭脳の中で、膨大な艦内データと、パレットの要求が照合されているようだ。
やがて、アイオンはゆっくりと首を横に振った。
『……残念ナガラ、本艦ニ搭載サレテイタ小型機ハ、数千年前ノ戦闘デ全テ射出、マタハ破壊サレテイマス。現在、使用可能ナ状態デ残ッテイルモノハ……』
アイオンの言葉に、パレットたちはがっくりと肩を落とした。やはり、そう甘くはなかったか。
だが、アイオンは言葉を続けた。
『……ゼロ、デハアリマセン』
「えっ!?」
『第7格納庫ニ、一基ダケ、緊急事態用ニ保管サレタユニットガ残存シテイマス』
アイオンがメインスクリーンに、第7格納庫の内部映像を映し出した。
そこに映し出されていたのは、船というよりは、巨大な魚のような、あるいは鳥のような、奇妙な流線型のフォルムを持つ、一人乗りの小型機だった。その機体は鈍い銀色に輝いており、パレットたちの知識にはない、未知のテクノロジーで作られていることが一目で分かった。
『コレハ「 ジルコン噴射騎乗機」。アーク・ノアノ主力艦載機ダッタ小型戦闘機デスガ、大災ノ竜トノ最終決戦デ殆ドガ失ワレ、コノ一基ダケガ奇跡的ニ残存シテイマシタ』
「なにそれ、カッコいい!」
パレットの目が、これまでで一番の輝きを放った。船を探していたはずが、予想の斜め上を行く「小型戦闘機」が出てきたのだ。
しかし、ロジックは冷静に疑問を呈した。
「待て、アイオン。そのマシンは『一人乗り』と言わなかったか? 我々は三人、いや、キンピカとカニタを含めれば五人(?)だ。どうやって全員が乗るんだ?」
その問いに、アイオンはあっさりと答えた。
『解決策ハ、二ツ』
『一ツ。諦メル』
『モウ一ツハ……』
アイオンはパレットの持つギガ・ブラシと、ロジックの持つ「スレート」を交互に見た。
『艦長・パレットノ創造能力ト、スレートニ秘メラレタ設計データヲ応用シ、三人乗リニ魔改造スル』
アイオンが提示した、常識外れの解決策。
『諦める』か、あるいは『魔改造する』か。
その二択を聞いた瞬間、パレットの瞳がカッと見開かれ、太陽のように輝き始めた。
「魔改造ぅ!? いい響きじゃん! やるやる! 私、そういうの得意中の得意だよ!」
パレットはピョンと飛び跳ね、完全にやる気になっていた。古代の小型戦闘機を改造するという、本来であれば恐ろしくて誰も手を出さないであろう行為が、パレットにとっては最高の創作活動にしか見えていない。
「あらあら、魔改造ですかぁ。なんだか、『GLORY』の闇市で売っている、違法改造車みたいで、ワクワクしますねぇ」
物騒極まりない例えだったが、ポワンの顔は心底楽しそうだった。
「待て待て待て! 君たち正気か!?」
ロジックの悲鳴が、ようやく艦橋に響き渡った。
「古代の、しかも『小型戦闘機』だぞ!? 素人が下手にいじって、海の上で爆発でもしたらどうするんだ! 生存確率がマイナスに振り切れるぞ!」
当然の、極めて真っ当な反対意見。しかし、今のパレットには届かない。
「細かいことはいいの! アイオン、その格納庫ってどこ!? 早く案内して! 私の創作意欲が、この艦を塗りつぶしちゃう前に!」
アイオンは、パニックに陥るロジックと、目を輝かせるパレットを交互に見比べた後、静かに結論を下した。
『……ロジック様ノ懸念ハ合理的デス。シカシ、コノ状況ヲ打開スル現在唯一ノ選択肢デモアリマス』
そして、パレットに向き直る。
『……案内シマス。第7格納庫ヘ、ドウゾ』
こうして、古代の小型戦闘機を三人乗りに魔改造するという、前代未聞のプロジェクトが始動した。
「やったー! 行くぞ、冒険と改造の海へ!」
先頭を意気揚々と歩くパレット。
「どんな乗り心地になるんでしょうねぇ」
楽しそうに後を続くポワン。
「僕の胃が、マッハで穴が開きそうだ……」
頭を抱えながら、それでも二人を見捨てられないロジック。
そして、その三人を、表情一つ変えずに案内する自律人形のアイオン。
一行は、アーク・ノアの深部、第7格納庫へと向かうのだった。
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コナミ「PROJECT ZIRCON」の二次創作です。
©Konami Digital Entertainment
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