第8話「決着! 黄金のペットとリボンの機械蟹」
パレットが持ち上がらない『アヒル型運搬容器』と格闘し、ロジックが「だから言っただろう」と説教を始めようとした、その時だった。
「まあまあ、お二人とも。そんなに力ずくで考えなくてもいいじゃないですかぁ」
ポワンがおっとりとした声で割って入った。
「この金色の液体さんだって、元々は機械とくっついていたところを助けてもらったんですから、きっと私たちに感謝しているはずですぅ。だから、丁寧にお願いすれば、言うことを聞いてくれるかもしれませんよ」
「は? 液体に話しかけるのか? スライムは生物だったが、あれはもうただの物質だぞ?」
ロジックは眉をひそめ、完全に非科学的な提案に懐疑的な目を向けた。
しかし、パレットの反応は違った。
「なるほど! ペットにするってことだね! いいじゃん、金ピカのスライム、連れて歩いたら絶対に人気者だよ!」
「ペットではないと思いますが……」
ポワンは困ったように微笑みながらも、『黄金の揺り籠』の縁にちょこんとしゃがみ込んだ。そして、まるで池の鯉に話しかけるように、優しく語りかけ始めた。
「こんにちは、金色の液体さん。わたくし、ポワンと申しますぅ。あなたは、長い間暗くて怖い場所に閉じ込められて、とっても寂しかったんですねぇ。でももう大丈夫。私たちが助けてあげましたから」
ポワンの声は、まるで母親が赤子をあやすような、穏やかで慈愛に満ちた声色だった。
「もしよかったら、私たちと一緒に行きませんか? 外には、暖かくてキラキラしたお日さまや、綺麗な色の花がたくさん咲いていますよぉ。きっと、ここよりもずっと楽しいです」
パレットも隣にしゃがみ込み、目を輝かせながら会話に参加する。
「そうだよ! 私がもっと君をカラフルにしてあげるし、ロジックっていう歩く計算機がおやつのカロリー計算もしてくれるよ!」
「僕はペットシッターじゃない!」
ロジックはツッコミを入れつつも、どこか呆れたようにその光景を見守っていた。液体に話しかけてどうなるというのか。
その時だった。
ポワンが語りかけていた黄金の液体が、その表面を「ぷるん」と震わせたのだ。
「え?」
ロジックが目を疑う。
黄金の液体は、ゆっくりとその一部を盛り上がらせると、まるでアメーバのように、にゅるりと触手のようなものを伸ばし始めた。
その触手は、ポワンの足元まで伸びると、ポワンの靴の先を、まるで子犬がじゃれつくように、優しくツンツンと突いた。
「あらあら、くすぐったいですよぉ。ふふっ、懐いてくれたみたいですね。いい子いい子」
ポワンは怖がるどころか、嬉しそうにその黄金の触手をそっと撫でた。
「すごい! 本当に生きてる! よーし、君の名前は今日から『キンピカ』だ!」
パレットが勝手に命名する。
キンピカ(仮)は、まるで言葉を理解したかのように、嬉しそうに全体をぷるぷると震わせた。そして、水たまりの状態からゆっくりと形を変え、パレットが作った『アヒル型運搬容器』の中に、自らすっぽりと収まったのだ。
「うわ、自分で入った! お利口さん!」
パレットがバケツの取っ手を掴むと、今度は嘘のように軽々と持ち上がった。どうやら、キンピカ自身が浮力のようなものを発生させ、自重を軽減しているらしい。
こうして、一行は運び出せないはずだった莫大なお宝を、「ペット」として手なずけることに成功した。
「信じられない……」
ロジックは、バケツの中で嬉しそうに揺らめく黄金の液体――キンピカを前に、計算盤付き携帯端末をカチカチと鳴らしながら唸っていた。
「純粋な金属質量の塊だと思っていたが、意思疎通が可能で、さらには自己浮遊能力まで有している。これは既存の物理法則にも、ジルコン工学の理論にも当てはまらない。一体どんな原理なんだ……?」
ロジックは懐から携帯用の分析キットを取り出すと、おそるおそるキンピカに近づいた。
「ちょっとサンプルを採取させてもらうぞ。痛くはしないからな……多分」
ロジックが採取器具を伸ばすと、キンピカはまるでくすぐったがるようにぷるんと身をよじり、ロジックから距離を取った。
「おっと、嫌がっているみたいだぞ、ロジック。繊細なんだから、もっと優しくしないと!」
パレットがキンピカの代弁をする。
「まあまあ、ロジックさん。キンピカさんは、きっと注射が嫌いなお子様なんですよぉ」
ポワンがなだめるように言う。
「科学的探求心に対する冒涜だ……」
ロジックはぶつぶつ言いながらも、今度は採取器具ではなく、小さな音叉を取り出した。
キィィィン……
音叉を鳴らしてキンピカに近づけると、黄金の液体は、その音の周波数に共鳴するように、表面に美しい波紋を描き出した。
「……なるほど。音や振動には反応を示すのか。もしかすると、この液体はそれ自体が巨大な感覚器官で、特定のジルコン波を『意思』として認識しているのかもしれない。ポワンの穏やかな声の持つ波長が、彼の警戒心を解いた……? いや、そんなオカルトじみたことが……」
ロジックがさらなる分析のため、今度は色付きのライトを当てて光への反応を試そうとした、その時だった。
パレットたちが激戦を繰り広げた広間の一角、崩れ落ちた機械部品の瓦礫の山が、ガラガラと音を立てて崩れた。
「!?」
三人が警戒してそちらを向くと、瓦礫の中から、一体の機械蟹が這い出してきていた。
それは、パレットが最初に流砂で飲み込んだ斥候タイプの一体だった。どうやら一体だけ、流砂から逃れて生き延びていたらしい。その赤い眼は、他の仲間たちの残骸と、主である巨大スライムの末路を静かに見つめていた。
そして、その眼がゆっくりとこちらを向く。しかし、その目には敵意は感じられなかった。
カシャ、カシャ……
機械蟹は、おぼつかない足取りでパレットたちの元へ近づいてくると、バケツの中のキンピカの前にちょこんと座った。
そして、小さなハサミのアームで、キンピカの体を優しく撫で始めた。
キンピカもまた、その機械蟹に小さな触手を伸ばし、まるで旧友と再会を喜び合うかのように、その甲羅をそっと包み込んだ。
「……なんだ? あいつら、仲間だったのか?」
パレットが驚きの声を上げる。
「おそらく、あの斥候たちは元々、暴走した『黄金の揺り籠』を『監視』、あるいは『鎮静』させるために配置されていた小型ユニットだったのかもしれない。だが、同じシステム暴走に巻き込まれ、侵入者を無差別に攻撃するようになっていた……」
ロジックが推測する。
「それが、私たちがボスを倒したことで、本来の主従関係というか……プログラムを取り戻した、ということか」
「あらあら、感動の再会ですねぇ。ちょっぴり泣けてきますぅ」
ポワンがハンカチ(枕カバーの切れ端)で目元を押さえる。
どうやら、一行は思わぬ形で、二人目(?)のペットを手に入れてしまったようだ。
目の前で繰り広げられる、黄金の液体と錆びた機械蟹の感動(?)の再会。
ロジックがその関係性を冷静に分析し、ポワンがそっと涙ぐむ中、パレットの頭の中では全く別の直感が爆発していた。
「かわいい……! なんだか分からないけど、すっごくかわいいコンビじゃない!」
パレットはガタガタと震える機械蟹に駆け寄ると、その小さな頭(らしき部分)をわしわしと撫で始めた。
「キミ、えらい! 主人のこと、ずっと心配してたんだね! よし、決めた! キミの名前は今日から『カニタ』だ! 異論は認めない!」
「ギッ……?」
戸惑うカニタ(命名完了)の意思を無視して、パレットはギガ・ブラシを取り出した。
「キンピカとカニタは、今日からズッ友だよ! お揃いのオシャレをして、友情を深めないとね!」
パレットはまず、キンピカが入っているバケツの取っ手に、真っ赤で巨大なリボンの絵を描き足した。取っ手がリボンになったことで、バケツは格段に持ちにくくなったが、パレット的には可愛さがアップしたので問題ない。
次に、パレットはカニタに向き直った。
「はい、カニタはじっとしててねー」
パレットはカニタの錆びついた甲羅の上に、キンピカとお揃いの、少し小さめの赤いリボンを描き始めた。
「キ、キキキ……!?」
カニタは未知との遭遇にパニックを起こし、ハサミを振り回して抵抗するが、パレットはひょいひょいとそれをかわしながら、器用にお絵描きを続けていく。
「できた! 二人とも、すっごくキュートになったよ!」
描き上がったリボンは、カニタの無骨で機能的なデザインとは全く合っておらず、シュールな光景を生み出している。
ロジックは額を押さえた。
「……偵察・警備用の自律兵器にリボンを描く人間の思考は、僕の計算能力の限界を超えている……」
「いいじゃないですかぁ、お洒落は戦場でも大事な嗜みですぅ。カニタさん、とってもお似合いですよ」
ポワンだけが、にこやかにその光景を肯定していた。
カニタはしばらく自分の甲羅のリボンを小さなアームで触っていたが、やがて何かを諦めたかのように、再びキンピカのそばにちょこんと寄り添った。まんざらでもないのかもしれない。
こうして、一行のパーティには「黄金の液体ペット『キンピカ』」と、「その護衛兼友人である機械蟹『カニタ』」という、奇妙キテレツなメンバーが正式に加わったのだった。
「新しい仲間もできたことだし、さあ、凱旋だ!」
パレットは高らかに宣言すると、リボンが付いて格段に持ちにくくなった『アヒル型運搬容器』を片手でひょいと持ち上げた。中ではキンピカが嬉しそうにぷるぷると揺れている。
「カニタ、君は私の肩ね! 特等席だよ!」
パレットはもう一方の手で、甲羅にリボンを描かれたカニタをそっと拾い上げ、自分の肩に乗せた。カニタは小さな金属の足で器用にパレットのつなぎ服にしがみつくと、赤い眼で周囲をキョロキョロと見回し始めた。その姿は、まるで海賊の船長が肩に乗せるオウムのようだ。
「よし! これでお宝も仲間もゲット! 私たちは無敵の冒険家チームだ! 目指せ、お菓子でできたお城の建設!」
パレットは意気揚々と、洞窟の出口に向かって歩き始めた。
「待て、パレット。まず、そのバケツを揺らすな。こぼれたら何が起こるか分からん。次に、肩に乗せた偵察ドローンが突然暴走する確率も考慮しろ。何より……」
ロジックは深い溜息をついた。
「自ら発光する液状の莫大な富を、これ見よがしに運び出し、おまけに古代兵器をペットとして連れ歩く三人組だぞ。自由の国『FREEDOM』にいる全ての盗賊や賞金稼ぎにとって、これ以上ないほど魅力的な『カモ』だ。僕らの生存確率は、洞窟に突入する前より遥かに低下した」
「あらあら、賑やかな旅になりそうですねぇ。キンピカさんとカニタさんも、初めて見る外の世界にきっとワクワクしていますよ」
ポワンは、のんびりとおにぎりを頬張りながら(いつの間にか用意していた)、新しい仲間たちとの旅路に思いを馳せていた。
一行は、激戦の痕跡が残る洞窟を抜け、再び『FREEDOM』の荒涼とした海岸へと戻ってきた。
鉛色の空と、寂れた潮風が三人(+二匹)を迎える。しかし、洞窟に入る前とは決定的に違うことが一つあった。彼らは今や、計り知れない価値を持つ「お宝」を手にしているのだ。
パレットは大きく伸びをすると、キンピカが揺れないようにそっとバケツを地面に置いた。
「よーし! それで、ロジック! 一番近い『なんでも高価買取ショップ』はどっちの方角?」
「そんな便利な店が、この無法地帯にあるわけないだろう」
ロジックは首を振った。
「『黄金の揺り籠』は、ただの金塊じゃない。古代の自己増殖型資源、いわば伝説級の物質だ。そこらの闇市に持ち込んだところで、価値が分かる鑑定士がいるとは思えん。最悪の場合、価値が分からないまま買い叩かれるか、あるいはその価値に気づいた瞬間に、僕らは命を狙われるかの二択だ」
「えー、じゃあどうすんのさ! このキンピカ、重いし(自己浮遊がなければ)、食べられないし、このままじゃ宝の持ち腐れだよ!」
パレットが頬を膨らませる。
「安全に、そして正当な対価でこれを換金するには、相応の知識を持つ相手と、取引のための安全な場所が必要だ……」
ロジックが腕を組んで考え込む。
一行は、お宝を手に入れた瞬間、「どうやってそれを富に変えるか」という、新たな問題に直面したのだった。
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