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第7話「合体! 必殺の人間ドリルと重すぎる欲望」

「鉄は熱いうちに! スライムは眩んでるうちに叩く! これ、勇気の国(ブレイブ)の新しいことわざ!」


 パレットはそう宣言すると、回転鏡球(ミラーボール)の光が作り出すカオスな空間を突っ切った。ロジックが「そんなことわざはなーい!」と叫ぶが、パレットの耳には入っていない。


「見てなさい、芸術アートは爆発だけじゃない! 物理的な『衝撃』もまた芸術なんだよ! 必殺!『幸福衝撃粉砕ハッピー・インパクト・クラッシャー』!!」


 パレットがギガ・ブラシで振り向き様に描いたのは、巨大なハンマーだった。しかし、それは屈強な戦士が使うような物々しい戦鎚ではない。持ち手はピンク色、叩く部分は星の形をしており、全体的に丸みを帯びたデザインの、巨大な「玩具槌(ピコピコハンマー)」だった。


「ハンマーだと!? なぜもっと貫通力の高い武器を描かないんだ! しかもなんだそのフザけたデザインは!」


 ロジックがツッコむのと、パレットがその巨大なオモチャを振りかぶり、目眩まし状態のスライムの側面、機械部品が集中している箇所に叩きつけるのは、ほぼ同時だった。


 ピコンッ!

 空気が突き抜ける、間の抜けた音が洞窟に響き渡った。


 次の瞬間。

 ゴシャァァァァッ!

 玩具槌(ピコピコハンマー)が接触した部分の装甲が、まるで卵の殻のように粉々に砕け散った。見た目の可愛らしさとは裏腹に、パレットのジルパワーが乗った一撃は、凄まじい破壊力を秘めていたのだ。スライムの巨体が大きく揺れ、内部に取り込まれていた機械部品が火花を散らす。


『ギ……ギャアアアアアア!!』


 スライムの中から、苦痛に満ちた絶叫が響き渡った。もはや混乱ではない、明確な「痛み」と「怒り」に満ちた声だ。


『イ……イタ……イ……コロ……ス……!』


 光の乱反射に眩んでいた無数の赤い眼が、一斉に敵意の色を灯し、その照準をパレット、ロジック、ポワンの三人に合わせた。


 ビシュン! ビシュン! ビシュン!

 回転鏡球(ミラーボール)のディスコライトに混じって、殺意を秘めた本物の赤い熱光線(レーザー)が、眼から一斉に発射された。


「わわわっ!?」


 パレットは咄嗟にハンマーを盾にして防ぐが、熱光線(レーザー)は岩壁に着弾し、爆発を起こす。


「まずい! 攻撃を当てたことで、逆に敵の攻撃能力を覚醒させてしまった! 全方位からの集中砲火だ!」


 ロジックは岩陰に飛び込み、頭を抱える。


「あらあら、今度は花火大会ですかぁ。綺麗ですねぇ」


 ポワンだけが、飛び交う熱光線(レーザー)の軌跡をうっとりと眺めている。


 洞窟は、回転鏡球(ミラーボール)の光と殺人熱光線(レーザー)が乱れ飛ぶ、危険極まりない舞踏会場(ダンス・フロア)へと変貌した。スライムは怒りに任せて、無差別に熱光線(レーザー)を乱射している。このままでは、いずれ誰かに直撃するだろう。


「うわわわっ、あぶなっ!」


 パレットが頭を下げると、すぐ上を赤い熱光線(レーザー)が通り過ぎ、背後の壁を溶かした。スライムの無差別な反撃は苛烈を極め、洞窟内はもはや逃げ場のない射撃場と化している。回転鏡球(ミラーボール)の光と殺人光線が入り乱れ、目がチカチカして敵の位置すら正確に掴めない。


「だめだ、熱光線(レーザー)の数が多すぎる! 確率的にもう詰んでいる!」


 ロジックは岩陰に身を伏せたまま、絶望的な計算結果を弾き出す。

 その時、これまで優雅にワルツを踊っていたポワンが、ふぅ、と一つ息をついた。


「もう、ダンスの邪魔ですよぉ。静かにしてくださいな」


 ポワンはそう呟くと、いつも抱きしめている巨大な枕を、盾のように前に構えた。仲間たちは知っている。それがただの寝具ではなく、平和の国(ピースフル)でも指折りの職人が作り上げた、規格外の性能を秘めた「枕型ジルコンギア」であることを。


 ビシュンッ!

 一体の眼から放たれた熱光線(レーザー)が、一直線にポワンへと向かう。


「ポワン、頼んだ!」

「任されましたぁ」


 シュゴォォォォッ!

 ポワンは枕を、信じられないほどの速度で回転させ始めた。それはまるで、高速で回転する円盤か、あるいは小規模な竜巻そのものだ。

 ジルパワーが解放され、枕の表面に淡い翠色の光膜が展開される。

 そして、驚くべきことに、枕に当たった熱光線(レーザー)は、ズボッ、という奇妙な音を立てて、光膜の中に吸い込まれて消滅してしまったのだ。


「出た! ポワンの枕バリア! 相変わらず、どんな攻撃も吸い込んじゃうんだから!」


 パレットとロジックは、その異常な防御力を頼りに、すぐさまポワンの背後へと駆け込んだ。三人が枕の影に収まると、あれほど激しかった熱光線(レーザー)の嵐が嘘のように静かになった。


「ちょっと熱くなってきましたねぇ。温かい枕でよく眠れそうですぅ」


 ポワンは平然と言いのける。この枕は、受けたエネルギーを熱に変換し、内部に溜め込む性質があるのだ。


 しかし、攻撃が通じないと分かった巨大スライムは、次の行動に移った。

 ズズズ……と地響きを立て、スライムの巨体そのものが動き始めたのだ。熱光線(レーザー)では埒が明かないと判断し、物理的に圧し潰そうと、ゆっくりとこちらへ向かって前進してくる。


「まずい! いくら熱光線(レーザー)を防げても、あの質量攻撃を受けたらひとたまりもないぞ!」


 ロジックが叫ぶ。

 ポワンの枕バリアは完璧だが、あくまでその場を凌ぐためのもの。巨大な壁となって迫り来るスライム本体には対処できない。


「ただ防いでるだけじゃジリ貧だよ! こうなったら、最強の盾は最強の矛にもなるってこと、教えてあげる!」


 ポワンの背後から顔を出したパレットは、不敵な笑みを浮かべて叫んだ。


「ポワン! その枕、回したまま私に貸して! 合体攻撃の時間だよ!」

「合体攻撃? 何を言っているんだ、この状況で!」


 ロジックが叫ぶが、パレットは聞く耳を持たない。


「名付けて、『人間回転錐(ヒューマン・ドリル)戦法』! ポワンがそのまま、あの金ピカスライムに突っ込むの!」

「無茶を言うな! ただの枕で突撃してどうする! 弾き返されて終わりだ!」

「だから、『ただの枕』じゃなくするんじゃない!」


 パレットはロジックの制止を振り切り、回転する枕のすぐそばに躍り出た。そして、高速で回転する布地の表面に、ギガ・ブラシで絵を描き始めたのだ。


「芸術は一点突破! 『超巨大螺旋棘ギガンティック・スパイラル・スパイク』!!」


 パレットが描いたのは、巨大で、禍々しく、そしてなぜか虹色に輝く巨大な「トゲ」だった。その絵は、ポワンの枕が回転する遠心力に引かれるように、あっという間に枕全体に広がり、実体化した。

 シュインシュインシュイン!

 次の瞬間、ただの防御用の枕は、表面から無数のドリル状のトゲを生やした、殺意の塊のような凶悪な破壊兵器へと変貌を遂げた。回転するそれは、もはや岩盤すら貫く巨大なドリルにしか見えない。


「きゃー、素敵! 私の枕が、なんだかパンクロックみたいになりましたぁ。カッコいいですぅ」


 ポワンは、自分のジルコンギアが凶器になったにもかかわらず、嬉しそうに声を弾ませる。


「いくよ、ポワン! 狙いはヤツのどてっ腹!」

「はいはーい。では、行ってまいりますぅ〜」

「待て、待て待て! そんなものを回転させて突撃したら、衝撃でポワンの身体が……!」


 ロジックの悲痛な叫びは、ポワンが地面を蹴った轟音にかき消された。


「枕、発進ゴーですぅ!」


 ズガガガガガガガガガッ!


 虹色の人間ドリルと化したポワンは、凄まじい破壊音を立てながら巨大スライムへと突貫した。

 黄金色(こんじき)のゼリー状の巨体は、回転する無数のトゲによって、いともたやすく引き裂かれ、抉られていく。黄金の飛沫と、内部に取り込まれていた機械部品の残骸が、辺り一面に撒き散らされた。


『ギ……ギギ……ギギィィィィィィィアアアアアアアアア!!』


 巨大スライムは、これまでとは比較にならない、断末魔のような絶叫を上げた。その巨体はバランスを崩し、大きく後ろへとのけぞる。


「やった! めっちゃ効いてる!」


 パレットが拳を突き上げる。

 しかし、スライムはまだ倒れていなかった。

 致命的なダメージを受けたことで、その身体に変化が起きる。自己防衛本能か、あるいは暴走か。抉られた傷口を中心に、黄金色の身体がピキピキと音を立てて硬質化し始めたのだ。

 そして、大きく開いた傷口の奥。これまでゼリー状の身体に隠されていた、スライムの本当の中心部が、赤い光を明滅させながら姿を現した。

 それは、複数の機械部品が融合した、心臓のような「制御コア」だった。


「あれだ! あれが本体のコアだ!」


 ロジックがいち早く弱点を見抜いて叫ぶ。

 どうやら、最後の一撃を叩き込むべき場所は定まったようだ。


「コアが剥き出しだ! 今だ、一気に決めるぞ!」


 ロジックは、人間ドリルと化したポワンの一撃によって一時的にこじ開けられた、スライムの傷口の奥に輝く制御コアを発見し、即座に叫んだ。しかし、コアはすぐにスライムの自己修復機能によって再び覆われ始めており、残された時間はわずかしかない。


「でも、どうやって!? あそこまで届かないよ!」


 パレットが叫ぶ。コアは巨体の中央深くにあり、直接攻撃を加えるのは困難だ。

 その時、ロジックは天井で輝き続ける、忌々しくも今や希望の光となった回転鏡球(ミラーボール)を見上げた。


「パレット、聞け! あの回転鏡球(ミラーボール)はただの散乱光だが、もしあの光を一点に収束できれば……! 天井のジルコン結晶、座標シータ7の反射角と、スライムのコアの現在位置、予測移動ベクトルを計算すると……!」


 ロジックは計算盤を猛烈な勢いで弾き、常人には理解不能な計算を瞬時に完了させた。


「パレット! 君の真上、高さ15メートルの空間に、直径3メートルの凸レンズを描け! 傾斜角は北東へ17.3度! 焦点距離を正確に合わせるんだ!」

「とつ……? れんず……? 何それ、おいしいの?」


 パレットが首をかしげる。突然の専門用語は、パレットの理解を越えられない。


「ああ、もう! 巨大な虫眼鏡だよ! 子供の頃、太陽の光を集めてアリを焼いたりしたアレだ! あの回転鏡球(ミラーボール)の光を、コアっていうアリに向かって、一本の『殺人光線』にするんだよ!」


 ロジックの必死で分かりやすい(そして物騒な)説明に、パレットの目がカッと見開かれた。


「なるほど! アリさん、ごめんねビームだね! 任せなさい!」


 やっと理解したパレットは、ロジックが指し示した空間に狙いを定め、ギガ・ブラシで巨大な円を描き始めた。


「届け、私の直感インスピレーション! 『一点集中・灼熱レンズフォーカス・バーニング・レンズ』!!」


 パレットが描き上げた巨大なレンズが、空中で実体化し、キラリと輝いた。

 その瞬間、洞窟内をカオスに乱舞していた何百本もの七色の光線が、まるで巨大な磁石に吸い寄せられる砂鉄のようにレンズへと吸い込まれていく。

 無数の光はレンズの中で屈折し、一つに束ねられ、一本の白く輝く、極光の光の槍(レイ・ランス)と化した。

 これまで洞窟を満たしていた喧騒が嘘のように、全ての音がその光に吸収されたかのような、一瞬の静寂が訪れる。


 そして、その光の槍(レイ・ランス)は、自己修復しかけていたスライムの傷口を再びこじ開け、中央の制御コアを正確に貫いた。


 ピシッ……!

 コアにガラスのような亀裂が走る。


『……認証失敗(エラー)……認証失敗(エラー)……論理回路……致命的……損傷……システム……永久……凍結(フリーズ)……』


 スライムの中から響いていた合成音声が、ブツリと途絶えた。

 すると、あれほど巨大だった黄金(こんじき)の巨体は、その形を保つ力を失い、まるで溶けるように崩れ始めた。内部に取り込まれていた機械部品はガラガラと音を立てて崩れ、禍々しい赤い眼は光を失っていく。

 そして、本体であった黄金色のスライムは、泥のように濁った部分と、純粋な黄金色に輝く部分へと分離し、やがて綺麗な上澄みだけが、キラキラと輝く巨大な水たまりとなって残った。


 戦いは、終わった。

 洞窟には、勝利を祝福するかのように回転鏡球(ミラーボール)の七色の光が降り注ぎ、中央には莫大な富を約束する、純粋な黄金(ゴールド)の液体だけが静かに揺らめいている。


「……やった……! 私の……勝ちだーっ!」


 パレットはへなへなとその場に座り込み、それでも満足げにVサインを掲げた。

 ロジックは汗を拭い、大きく息をついた。


「……成功確率、1.2%。奇跡だ」


 そして、ドリルと化した枕の回転を止めたポワンが、キラキラと輝く黄金(ゴールド)の水たまりを見て、ぽつりと呟いた。


「まあ、とっても綺麗な色のゼリーですねぇ。食べられるんでしょうか」


 その言葉が、パレットの最後の理性のタガを外した。


「そうだ! お宝ゲットー! 一番乗りは私だーっ!」


 パレットはガバッと立ち上がると、助走もつけずに黄金の液体に向かって飛び込もうとした。


「黄金のお風呂で、金ピカになってやるー!」

「待て待て待て、馬鹿かっ!」


 パレットがダイブする寸前、背後からロジックが必死の形相で飛びつき、パレットを羽交い締めににした。


「離せー! ロジック! 私とお宝の仲を邪魔するなー!」

「するに決まってるだろ! あれがどんな物質か分かっていないんだぞ! 触れた瞬間に身体が溶ける毒物かもしれないし、アリジゴクみたいに底なしの液体かもしれない! そもそも、あれは『金』だ! 水より遥かに重い! 飛び込んだら最後、二度と浮き上がれないぞ!」


 ロジックが死に物狂いで押さえつける。

 その横で、ポワンが冷静に付け加えた。


「あらあら、パレットさん。もしあれが水飴みたいにベトベトだったら、抜け出せなくなりますよぉ。黄金漬けのパレットさん、なんだか美味しそうですねぇ」

「美味しそう言うな!」


 三人がそんなコントを繰り広げている間にも、黄金の液体は静かに、しかし圧倒的な価値を放ちながらそこにあり続けた。

 なんとかパレットを落ち着かせたロジックは、改めて目の前の「お宝」を前にして、頭を抱えた。


「……それで、どうするんだこれは。液体状の富だぞ。どうやってここから運び出す? 袋か? 樽か? そもそも、これだけの量を安全に保管できる容器なんて持ち合わせていない」

「ふっふっふ、ロジック君。君はまた、私の天才的なひらめきにひれ伏すことになる!」


 パレットは自信満々にギガ・ブラシを構えた。


「容器がないなら、描けばいいじゃない! しかも、とびっきり可愛いやつをね!」


 パレットは地面に、巨大な「アヒルの形をしたバケツ」を描き始めた。首の部分が持ち手になっている、独創的すぎるデザインだ。

 実体化した『アヒル型運搬容器(ダック・バケツ)』を両手で掴み、黄金の液体をすくい始める。


「見てなさい! これで一気に……!」


 液体をなみなみと満たしたパレットが、バケツを持ち上げようとした、その瞬間。


「……ん?」


 ピクリとも動かない。


「んんんんんんんっ!」


 パレットが顔を真っ赤にして、全体重をかけても、アヒルバケツは地面に根が生えたように微動だにしない。


「お、重っ! 全然持ち上がらない! なにこれ、岩より重いよ!」

「だから言っただろ、金は重いんだ。見た目は液体でも、その密度は鉄以上だ。その量だと、大型の竜でも運べるかどうか……」


 ロジックが呆れ果てて溜息をつく。

 せっかくボスを倒してお宝を手に入れたというのに、それを運び出せないという、なんとも間抜けな問題に直面してしまった。

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コナミ「PROJECT ZIRCON」の二次創作です。

©Konami Digital Entertainment

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