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第5話「誤算! 伝説の黄金スライムと四つの光点」

『了解シマシタ。デハ、第3区画「士官用食堂」及ビ「居住ブロック」ヘ案内シマス』


 アイオンが先導し、一行は艦内を進んだ。

 たどり着いた食堂で提供されたのは、パレットの想像通り……いや、それ以上に無機質な「半透明のキューブ」だった。


「……これ、ご飯?」

完全栄養食パーフェクト・レーションデス。1個デ成人男性ガ1日ニ必要ナカロリー、ビタミン、ジルコン親和性物質ヲ摂取可能デス』


 恐る恐る口にしたパレットだが、意外にも目は輝いた。


「あ、味がない! 食感はグミ! ……でも、なんか元気出るかも!」

「効率的だが、食事の楽しみは皆無だな……」


 ロジックは嘆きつつも、空腹には勝てず胃に収めた。

 一方、ポワンは案内された居住ブロックのベッド――カプセル状の睡眠装置――を見るなり、「わぁ、棺桶みたいで落ち着きますぅ」と即座に爆睡モードに入った。


     * * *


 休息を取り、体力を回復した翌朝。

 ロジックは改めてアイオンに向き直った。


「さて、アイオン。昨晩の話の続きだ。この艦を再稼働させるには『ゼロ・ジルコンの解放』と『エネルギー充填』が必要だと言っていたな。具体的にはどうすればいい? 必要なエネルギー源の場所や、充填方法は?」


 ロジックは具体的かつ建設的に、次のステップへ進もうとしていた。この巨艦を動かすという目的のために。

 しかし、アイオンの回答は無情なものだった。


『……申シ訳アリマセン、艦長(キャプテン)。昨晩、詳細ナ自己診断(セルフ・チェック)ヲ行イマシタガ、訂正スベキ重大ナ事実ガ判明シマシタ』


 アイオンが空中に艦体の立体映像(ホログラム)を投影する。艦尾部分が赤く点滅している。


『本艦ハ、数千年前ノ戦闘ニヨル被弾、及ビ長期間ノ漂流ニヨル腐食・脱落ニヨリ、次元潜行機関ディメンション・ドライブ及ビ動力炉ヲ物理的ニ喪失シテイマス。タトエエネルギー(ジルコン)ヲ充填シタトシテモ、ソレヲ出力ニ変換スル動力炉ソノモノガ存在シマセン。再稼働ハ構造的ニ不可能デス』


「……動力炉が無い、だと?」


 ロジックが眉をひそめる。


「ジルコン切れなら補充すればいいと思っていたが、動力炉自体がなければどうにもならないな」


 ロジックは短く溜息をつき、動かぬ巨艦を労るように壁面を撫でる。


「残念だ。この古代の叡智が大海原を征く姿を見てみたかったが……。まあいい、十分な休息が取れる宿としては十分に役立ってくれた。それだけでも感謝すべきだろう」


 ロジックは冷静に考えを切り替えた。


「パレット、ポワン、出発の準備だ。『アーク・ノア』で移動するという目論見は外れたが、ここに留まっていても仕方がない」

「えーっ! もう終わり? せっかくのお城みたいなとこだったのに!」


 パレットが残念そうに声を上げた。


「ご飯とベッドは助かったけどさぁ……」


 そこでパレットは、ハッとしたように我に返った。


「っていうか! そもそもアタシたち、『無限増殖する黄金スライムが峡谷に生息してる』って噂を聞いて旅に出たんだよね!?」


 ロジックが呆れたように呟く。


「スレートが指す目的地に向かって来ただけだぞ。もっとも、そこにあったのは黄金スライムではなく、この艦だったわけだが」


 パレットは、きょとんと目を瞬かせた。


「おかしいなぁ。アタシの心のコンパスは、こっちがお宝の方角だって告げてたんだけど!」


 ポワンもまた、他人事のようにぽかんとした顔で首を傾げる。


「あらぁ? 黄金スライムを探してたんですかぁ? 私、てっきりパレットさんが急に海が見たくなったから、みんなで海水浴に来たんだと思ってましたぁ」

「あはは! なんだー、そうだったのか!」


 パレットはケラケラと笑い飛ばした。


「ま、いいじゃん! 結果的に面白い艦も見つかったし、結果オーライ!」

「ふふっ、パレットさんのおかげで、いいお散歩でしたぁ」

「まったく……このポジティブさは、解析不能だな」


 三人は顔を見合わせて笑った。

 だが、パレットはすぐに真剣な顔(といっても目は欲望で輝いている)に戻る。


「でもでも! 『一匹捕まえれば一生遊んで暮らせる』はずが、まだ一文無しってことは大問題! どうすんのこれー!」


 そんな最中さなかアイオンが反応し、ピクリと首を傾げる。


『……質問。「無限ニ増殖スル黄金ゴールドスライム」トハ、何デスカ?』

「え? 知らないの? 今言った通りだよ! 金ピカで、勝手に増えて、すごい価値があるヤツ!」


 アイオンは数秒間沈黙し、青い瞳を点滅させた。検索処理を行っているようだ。


『……該当データ検索。……推測。貴女ガ言及シテイルノハ、古代ノ自己増殖型希少資源セルフレプリケーション・リソース、通称『黄金の揺り籠(ゴールド・クレイドル)』ノ可能性ガアリマス』


「ゴールド・クレイドル?」


 ロジックが聞き返す。


『ハイ。眩イ黄金色(こんじき)ノ輝キヲ放チ、指定条件下デ無限ニ増殖ヲ続ケル特殊流体デス。ソノ外見ハ、金ピカニ輝ク不定形粘性体(スライム)ニ酷似シテイマス』

『当時ノ文明ニオイテモ、極メテ重要カツ貴重ナ「資産」トシテ扱ワレテイマシタ』


「それだ!!」


 パレットとロジックが同時に叫んだ。


「無限に増える! 金ピカに輝く! しかも貴重な資産! 絶対それだよ! ねえアイオン、それどこにあるの!?」


『オ待チクダサイ』


 アイオンはロジックの手にあるスレートにアクセスした。

 スレートの画面が切り替わり、大陸全土の立体地図が立体映像(ホログラム)として浮かび上がる。


『コノ「コンパス」ハ、世界中ニ点在スルジルコン管理施設ノ座標ヲ表示スルコトガ可能デス』


 しかし、そこに描かれているのは現在の大陸とは微妙に地形が異なる、数千年前の姿だった。


『記録上、当該ユニットガ運用、マタハ保管サレテイタ可能性ガ高イ拠点ハ以下ノ4ツデス』


 アイオンが地図上に4つの光点を灯す。

 ロジックは感心したように頷いた。


「なるほど。この艦は動かずとも、その頭脳データは使えそうだな」


 ロジックはスレートに表示された古代の地図を覗き込んだ。


「地形が変わっているが、座標を現在の地図と照らし合わせれば……場所の特定は可能だ」


 パレットは、よだれを垂らしそうな勢いで立体映像(ホログラム)地図に食らいついている。


「うっひょー! 見てよロジック! お宝のありかが4つも! これはもう、億万長者になるためのボーナスステージじゃん!」

「落ち着けパレット。どの場所も一筋縄ではいかない確率が百パーセントだ。アイオンの情報と僕の知識を統合すると、選択肢はこうだ」


 ロジックはテープで補修したメガネを押し上げ、冷静に各候補地を分析し始めた。


 一つ目は、大陸中央部に輝く「黄金の光」。旧文明の資源管理センターであり、現在は欲望とネオンが渦巻く巨大不夜城(ネオン・シティ)が栄えている土地。

 二つ目は、北部に広がる「緑の光」。環境再生実験プラントの跡地で、今は誰も足を踏み入れない『北の未開の森』の奥深くに眠っている。

 三つ目は、この海岸からそう遠くない東の沿岸部を示す「赤の光」。古代の兵器格納庫があった場所で、今は凶悪な魔物の巣窟となっている『洞窟の奥地』。

 そして四つ目は、西の峡谷で明滅する「点滅する光」。そこは、パレットたちがこの『FREEDOM(フリーダム)』での冒険を開始した、まさにあの場所だった。


「……最後のは、つまり……」


 パレットが恐る恐る尋ねる。


「ああ。我々が黄金スライムの噂を信じて最初に降り立ち、そして君の勢い任せで何も調べずに飛び出してきた、あの『無駄に反響エコーする峡谷』だ」

「うわあああん! まさかの灯台下暗し!? アタシたち、お宝をスルーしてここまで来ちゃったってことー!?」


 パレットが頭を抱えて崩れ落ち、ポワンが「あらあら、良いお散歩になりましたねぇ」と慰めているのか煽っているのか分からない言葉をかける。


『御決断ヲ、艦長(キャプテン)


 アイオンが、ロジック……ではなく、なぜかパレットの方をじっと見つめて、決断を促す。どうやらこの自律人形(オートマタ)は、このチームの真の意思決定者が誰であるかを見抜いたらしい。


「うーん、うーん……」


 パレットは腕を組み、立体映像(ホログラム)地図に浮かぶ四つの光点を睨みつけた。不夜城(ネオン・シティ)、未開の森、魔物の洞窟、そして出発点だった峡谷。どれも一癖も二癖もありそうだが、パレットの脳天気な思考回路は、最もシンプルで刺激的な結論を弾き出した。


「決めた! 次はこの『洞窟の奥地』! ここから一番近いし、魔物の巣ってことは、お宝を守るボスがいるってことでしょ? これぞ冒険の王道じゃん!」


 パレットは東の海岸線を示す「赤の光」をビシッと指差した。


「確率論で言えば、最短ルートは最も遭遇リスクが高いルートだぞ。しかも相手は、アイオンのデータベースにも不確実な情報しかない魔物だ。準備もなしに突撃するのは無謀だ」


 ロジックが眉間の皺を深くするが、パレットの勢いは止まらない。


「洞窟、いいですねぇ。ひんやりしていて、きっとよく眠れますよぉ。魔物さんの鳴き声が子守唄代わりですね」


 ポワンのマイペースな賛同が、パレットの決意をさらに固めさせた。


『御決断、承知シマシタ』


 アイオンが静かに頷くと、艦橋(ブリッジ)のメインスクリーンに「第07ユニット格納庫」の旧設計図と、予測される現在の状況を表示した。


『当該エリアハ、旧文明時代ニオイテ海中戦闘用自律兵器オートノマス・ウェポンノ開発・配備ヲ行ッテイタ拠点デス。記録ニヨレバ、当時ノ防衛システムガ暴走・変異シタ海洋性魔獣ト融合シ、独自ノ生態系ヲ形成シテイル可能性ガ高イデス。推奨装備ハ、耐圧・耐腐食性装甲デス』


「耐圧装甲? 上等じゃん! ロジック、君の服に『カニの甲羅』を描いてあげるよ! 真っ赤でカッコいいやつ!」

「遠慮する! ハサミまで描かれたら日常生活に支障が出る!」


 目的地も決まり、三人はアーク・ノアを後にする準備を始めた。アイオンは餞別として、携帯保存食(レーション)である「完全栄養食パーフェクト・レーションキューブ」をポーチ一杯に提供してくれた。


「アイオン君、お世話になりました! 君も一緒に行かない?」


 パレットが誘うが、アイオンは静かに首を横に振った。


『当機ハ本艦トリンクシテイマス。ココヲ離レルコトハ不可能デス。……艦長(キャプテン)・パレット、及ビクルーノ皆様。御武運ヲ』


 少年型自律人形(オートマタ)は、初めて浮かべた微かな笑みと共に、三人の背中を見送った。巨大な金属の扉が閉まるその瞬間まで、アイオンは少しだけ寂しそうな瞳で手を振り続けていた。


     * * *


 再び『FREEDOM(フリーダム)』の荒涼とした海岸線に戻った三人は、スレートが示す東の方向へと歩き始めた。

 鉛色の空の下、奇妙な形をした岩々が林立し、潮風が運んでくる錆と磯の匂いが鼻をつく。時折、陸地に打ち上げられた海棲魔物の死骸や、正体不明の古代兵器の残骸が転がっており、この土地の過酷さを物語っていた。


 半日ほど歩き続けた頃、彼らの目の前に巨大な崖が立ちはだかった。そして、その崖の中腹に、まるで巨大な獣が抉り取ったかのような、不気味な洞窟がぽっかりと口を開けていた。


「あれだ……。スレートの光点が、あの洞窟の奥を指している」


 ロジックがスレートを掲げると、赤い光が洞窟の闇の先で強く輝いていた。

 洞窟の入り口周辺には、かつて防衛施設であったことを示すように、崩れた監視塔の残骸や、古代文字で「警告:レベル4以上の汚染区域」と刻まれたプレートが転がっている。

 そして、洞窟の奥からは、ゴウゴウという風の音に混じって、何かが蠢くような、ぬめるような不気味な音が絶え間なく響いてきていた。


「うわー、見るからにヤバそうな雰囲気! でも、こういう場所ほどスゴいお宝が眠ってるんだよね!」


 パレットはギガ・ブラシを握りしめ、目を爛々と輝かせている。


「……この空気、湿度90%以上、塩分濃度は海水の三倍。通常の生物が生息できる環境じゃない」


 ロジックが警戒を強める。


「あらぁ、素敵な天然の加湿器ですねぇ。お肌に良さそうですぅ」


 ポワンは枕をギュッと抱きしめ、洞窟の闇を覗き込んだ。


「よし、準備はいい? いざ、洞窟探検……」


 パレットが意気揚々と一歩踏み出そうとした、その時だった。パレットの隣から、のそりとポワンが前に出た。


「まあまあ、パレットさん。こういう時はまず、礼儀正しくご挨拶からですぅ」


 そう言うと、ポワンは両手をメガホンのように口元に当て、洞窟の暗闇に向かって、朗々とした声を響かせた。


「ごめんくださーい、どなたかいらっしゃいますかぁ? わたくしたち、通りすがりの冒険者です。少しだけ、そちらのお宝を譲っていただきに上がりましたぁ」


 その場にいた全員の動きが固まった。


「待てポワン! 何を言っているんだ君は! 強盗の事前予告じゃないか、それは!」


 ロジックが血の気の引いた顔で叫ぶが、時すでに遅し。

 ポワンの礼儀正しい(しかし内容は強欲な)挨拶は、洞窟の奥深くまで響き渡り、そして、最悪の形で返答が来た。


 グォォォォォォッ!!


 それは、ただの咆哮ではなかった。地獄の釜が開いたような重低音と、金属を無理やり引き裂くような高音が混じり合った、不快極まりない絶叫であった。洞窟全体がビリビリと震え、入り口の天井から砂埃がパラパラと降り注ぐ。その音圧だけで、内臓が揺さぶられるような感覚に陥った。


「わっ、すごい! 元気いっぱいのお返事だね!」


 パレットだけが、鼓膜が破れそうな轟音の中、呑気に手を叩いて喜んでいる。


「……計算終了。友好的対話の可能性、ゼロ。即時撤退を推奨する」


 ロジックは顔面蒼白でガタガタと震えている。

 ポワンはというと、小首をかしげてにこやかに微笑んでいた。


「ふふっ、きっと人見知りなんですねぇ。それか、お昼寝を起こされてご機嫌ななめなのかもしれません。もう一度お願いしてみましょうか?」

「やめろ! 次は洞窟が崩れる!」


 ロジックの制止が早いか、洞窟の闇の奥から、複数の何かが這い出してくる音が響くのが早いか。

 カシャ、カシャカシャッ!

 湿った岩肌を、金属の爪が引っかくような音。その音は瞬く間に数を増し、暗闇から赤く光る単眼がいくつも現れた。

 姿を現したのは、拳ほどの大きさの、カニに似た機械仕掛けの魔物だった。錆びついた金属の甲殻に、生々しい触手のような足が融合しており、その一つモノアイで獲物であるパレットたちを捉えている。


「まずい、あれは斥候スカウトタイプの合成魔獣(キメラ)だ! 警報を鳴らされる前に数を減らさないと、奥から本体が出てくるぞ!」


 ロジックが叫ぶ。その言葉を証明するかのように、機械ガニたちは甲殻の一部を開き、甲高い警戒音を発しようとアンテナのような器官を伸ばし始めた。

 数は十数体。素早く、そして厄介な敵であることは間違いない。

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コナミ「PROJECT ZIRCON」の二次創作です。

©Konami Digital Entertainment

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