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第4話「激走! 荒野のロシアン・シュークリームと眠れる方舟」

 パレットは地平線の彼方から猛スピードで迫ってくる土煙を見つけ、目を輝かせた。


「ロジック、計算して! あの煙の規模と速度から、中に『空調完備の移動住居エアコンつきキャンピングカー』と『冷えたジュース』がある確率は?」

「……計算不能だが、あんな乱暴な運転をする集団だ。十中八九、自由の国『FREEDOM(フリーダム)』の『武装隊商(キャラバン)』か、タチの悪い『暴走集団』だろう。接触するのは危険だ、隠れよう」


 ロジックは岩陰に身を隠そうとするが、パレットは道のド真ん中へと躍り出た。


「何言ってるの! せっかくの(タクシー)を逃す手はないよ! 『FREEDOM(フリーダム)』は『実力主義』の国なんでしょ? なら、度胸を見せたもん勝ちだよ!」


 パレットはギガ・ブラシを構え、空中に巨大な「親指」を描き出した。


「必殺、究極便乗合図アルティメット・ヒッチハイク・サイン!!」


 実体化した高さ3メートルはある巨大な虹色の親指が、砂煙に向かって突き立てられる。それはヒッチハイクの合図というより、挑発的な「サムズアップ」に見えなくもない。


 キキキーッ!!

 ズザザザザッ!


 巨大な親指に驚いたのか、あるいは単に面白がったのか、爆走していた集団が急ブレーキをかけた。

 砂煙が晴れると、そこにはパレットの想像していたキャンピングカーとは程遠い、凶悪な改造車両の列が停まっていた。装甲板を継ぎ接ぎしたトラック、巨大なスピーカーを積み込んだバギー、そして車体には毒々しいスプレーアートと、「GAMBLE(博打)」「DESIRE(欲望)」といった『FREEDOM(フリーダム)』らしいスローガンが描かれている。


「ほらね、止まってくれた! 親切な人たちだよ!」


 パレットが手を振ると、先頭のトラックのドアが乱暴に開き、中から運転手が降りてきた。

 モヒカン頭にゴーグル、そして首にはジャラジャラと「高純度のジルコン原石」をネックレスにして下げた男だ。


「あぁん? どこの命知らずだ? 俺たちの進路を塞ぐデカい指なんぞ描きやがって……。轢き潰されたいのか?」


「こんにちは! 私たちは『伝説の冒険家チーム(仮)』です! 北東の海岸まで乗せてってくれない? お礼に、お兄さんのトラックをもっとカッコよくペイントしてあげる!」

 パレットが屈託なく提案する。


 モヒカン男は呆気にとられた表情を浮かべたが、すぐにニヤリと下卑た笑みを浮かべた。


「ペイントだぁ? そんなもんで腹は膨れねえよ。ここは『FREEDOM(フリーダム)』だ。対価は『ジルコン』か『食料』、あるいは……」


 モヒカン男はパレットたちの装備、特にロジックが大事に抱えている「スレート」と「黒いジルコンの欠片」に目をつけた。


「その珍しそうな古代遺物(レリック)と引き換えなら、乗せてってやらんでもないぜ?」


「これは渡せない! 世界を揺るがす危険なものだ!」

 ロジックが慌てて背後に隠す。


「けっ、ケチな野郎だ。金もねえ、ブツも出せねえなら、交渉決裂だな。……おい野郎ども! こいつらの身ぐるみ剥いで砂漠の肥料にしてやれ!」


 モヒカン男が合図を送ると、トラックの荷台から武装した男たちがわらわらと降りてきた。男たちは『FREEDOM(フリーダム)』のスラム街で生き抜いてきた荒くれ者であり、その目は獲物を狙うハイエナのようだ。


「あらら、交渉決裂? でも大丈夫! 『FREEDOM(フリーダム)』にはもう一つ、大事な文化があるよね?」

 パレットは動じない。パレットはニヤリと笑い、男たちに向かって指を突きつけた。


「『博打(ギャンブル)』だよ! あんたたち、ギャンブル好きでしょ? 私と勝負して、私が勝ったらタダで海岸まで送って! 負けたら……このスレートも、ロジックのメガネも全部あげる!」

「おい勝手に僕のメガネを賭けるな!」


 男たちは顔を見合わせ、ドッと笑った。


「ギャンブルだと? いい度胸だ。俺たちが『荒野のサイコロ団』だと知っての狼藉か? 面白い、乗ってやるよ!」


 どうやら男たちは、『FREEDOM(フリーダム)』の荒野を流浪しながら賭博に興じる集団だったようだ。リーダー格のモヒカン男が懐から、怪しく光る「ジルコン製のサイコロ」を取り出した。


「ルールは簡単だ。俺とサイコロで……」

「ギャンブルと言えば、やっぱりこれだよね! 名付けて『激辛(ロシアン)シュークリーム(・シュークリーム・)死闘(デスマッチ)』!!」

 リーダーの台詞を遮って、パレットが提案したのは、運と度胸、そして消化器官の強さを競うシンプルなゲームだった。


「面白い。食い物博打(フード・ギャンブル)は、俺たちの得意分野だ」


 リーダーは怯まずニヤリと笑うと、トラックの荷台から豪勢な箱を取り出した。箱には「GLORY ROYAL SWEETS」――栄光の国『GLORY(グローリー)』王室御用達――の文字。どうやら、どこかの商隊から略奪した高級品のようだ。


「中には六つの極上シュークリーム。だが、そのうちの一つには、俺たち特製の『地獄のデス・スパイス(大災の竜も裸足で逃げ出す辛さ)』がたっぷりと注入されている」

 リーダーは邪悪な笑みを浮かべた。


「交互に食べていき、激辛を引いて吹いた方が負け。あるいは、死ぬ気で飲み込んだとしても、その後の『たうち回る痛み』に耐えられずにギブアップした方の負けだ」

「へえ、スリル満点じゃん! 誰がやる? 私はさっきの激辛攻撃でちょっと指がヒリヒリしてるからパス!」

 パレットが適当な理由で辞退すると、ふわぁ、という欠伸とともにポワンが前に出た。


「私がやりますぅ。甘いものは別腹ですし、神様も『拾い食いは自己責任』と言っていますから」

「おいポワン、大丈夫か? そのスパイス、匂いだけで僕の鼻が曲がりそうなんだけど……」

 ロジックが心配するが、ポワンは既にやる気だ。


「レディーファーストだ。お前からいきな」


 リーダーに促され、ポワンは箱の中のシュークリームをじっと見つめ……迷うことなく端の一つを素手で鷲掴みにした。

「では、いただきま~す」


 ポワンは大きな口を開け、クリームが溢れるのも構わず豪快に一口で頬張った。

 静寂が流れる。

 荒くれ者たちも、ロジックも、固唾を飲んで見守る。


「ん~……」

 ポワンはもぐもぐと咀嚼し、指についたクリームをペロリと舐め取った。


「濃厚なカスタードですねぇ。とってもクリーミーですぅ」


「……チッ、セーフか」

 リーダーが舌打ちをし、自分も一つ手に取る。


「次は俺の番だ」

 リーダーもまた、一つを平らげた。


「……ふん、ただの甘ったるい菓子だ。セーフだ」


 二ターン目。

 ポワンはまたしても迷わず、真ん中のシュークリームを手に取った。


「じゃあ、次はこれを」

 ぱくっ。もぐもぐ。


「んふふ、これも美味しいですぅ。口の中がポカポカしてきましたぁ」


「ポカポカ……?」

 リーダーの顔色が少し変わる。


(ま、まさか……今のが当たりか? いや、あのスパイスは食べた瞬間に火を噴くはず。ポカポカ程度で済むはずがない……!)

 リーダーは疑心暗鬼になりながらも、次のシュークリームを食べる。セーフ。額に脂汗が滲み始める。


 三ターン目。残るは二つ。


「じゃあ、これ食べちゃいますね」

 ポワンは残りの一つをひょいと摘み、口に放り込んだ。


「ん~っ! これは刺激的ですねぇ! 喉が焼け焦げるような情熱的な味……まるで初恋のようですぅ(真顔)」

 ポワンは何事もないように飲み込み、持参の水筒のお茶をズズズと一口すすった。


「な、なんだと……?」

 リーダーの手が震え始めた。


 残るは一つ。

(待て。あいつは今、三つ食べた。俺は二つ食べた。……もし、あいつが食べた中に『当たり』があったとしたら、なぜ平気な顔をしている? まさか、味覚がないのか? それとも、俺が仕込んだスパイスが不発だったのか?)


「おい、お前……本当に何ともないのか?」


「はい? 何がですかぁ? とっても美味しいですよ。お兄さんも早く食べないと、私が全部食べちゃいますよぉ」

 ポワンは小首を傾げ、純粋無垢な、そしてどこか虚ろな瞳で男を見つめた。その笑顔の奥に、得体の知れない深淵が見える。


「ひっ……!」


 リーダーは恐怖した。激辛への恐怖ではない。この底知れない少女の「生物としての異常性」への恐怖だ。

 もし、残りの一つが『当たり』だったら俺は死ぬ。だが、もし彼女が既に『当たり』を食べて平気な顔をしているのだとしたら、この勝負、最初から勝ち目はない。

(『FREEDOM(フリーダム)』の荒野には化け物が住むというが……こいつがそれか!)


「……ま、参った! 降参だ! 俺の負けでいい!」

 リーダーはその場に崩れ落ちた。


「え~? まだ一つ残ってますよぉ? もったいない精神ですぅ」

 ポワンは残された最後の一つをひょいと摘み、リーダーの口に無理やり押し込んだ。


「むぐっ!?」

「……甘い……?」


 そう、最後の一つはただのシュークリームだった。


「あれ? じゃあ、さっきの『初恋の味』が当たりだったんですか? 結構辛かったんですねぇ、あれ」

 ポワンはケラケラと笑っている。


「お、お前……あれを食って『初恋』で済ませたのか……!?」


 男たちは戦慄した。この少女、平和の国『PEACEFUL(ピースフル)』の皮を被った狂戦士(バーサーカー)だ。


「勝負あり! 私たちの勝ちー!」

 パレットが万歳をする。


「約束通り、海岸まで送ってもらうよ! ついでに、このトラックに私の新作『爆走デコトラ・ペイント』を施してあげる!」


 恐怖と尊敬(?)を勝ち取った一行は、「荒野のサイコロ団」のトラックに便乗し、一路北東の海岸を目指すことになった。

 トラックはパレットの手によって、極彩色の炎と、なぜか「カワイイうさぎちゃん」のイラストで埋め尽くされ、以前より遥かに目立つ(そして恥ずかしい)仕様に改造されていた。


「おい、本当にこれでいいのか……? 俺たちの硬派なイメージが……」


 リーダーが嘆くが、パレットは「『FREEDOM(フリーダム)』は自由の国でしょ? 可愛いは正義!」と聞く耳を持たない。


 数時間のドライブの後、ついに視界が開けた。

 荒野の果てに広がるのは、鉛色の海と、打ち寄せられる荒波。そして海岸線には、巨大な骨のような奇岩が突き出している。


「着いたぞ、北東の海岸だ。……おい、あれを見ろ」


 リーダーが指差した先。

 波打ち際に、一隻の奇妙な船が座礁していた。いや、座礁というよりは、そこにあることが不自然なほど古い、金属製の重厚な艦だ。


「あれが……『方舟(アーク)』?」


 ロジックがスレートを確認する。光点はピタリとあの艦を指している。

 しかし、艦の周囲には、この付近の海を縄張りとする凶悪な海棲魔物(シー・モンスター)たちが群がっていた。

 それは、サメのような獰猛な顎と、イカのような無数の触手を併せ持つ異形の怪物たちだ。海中だけでなく、触手を使って陸上にも這い上がってこられる厄介な存在である。


「うへぇ、キモいのがいっぱいいる! サメなの? イカなの? どっちにしても可愛くない!」


 パレットが顔をしかめる。

 トラックの男たちは、「ここから先は俺たちの管轄外だ。あんな化け物と戦ったら命がいくつあっても足りねえ」と、ここで引き返す構えだ。

 三人はトラックを降り、魔物の群れと、その奥にある「方舟」を見据える。


「可愛くないなら、塗って可愛くすればいい! これぞパレット流・環境適応迷彩術エコロジー・カモフラージュ! 自然界の法則を、アートで上書きしてやるよ!」

 パレットはギガ・ブラシを振り回し、ロジックとポワンに向かって極彩色のインクをぶちまけた。


「うわああっ! 目が、目がチカチカする! なんだこの配色は! 蛍光ピンクにライムグリーン!?」


 ロジックが悲鳴を上げる。ロジックの地味な服は、瞬く間に「深夜の繁華街のネオンサイン」よりも派手な色彩へと変貌した。


「あらぁ、素敵なお洋服。まるで毒キノコの妖精さんみたいですねぇ」


 ポワンは自分の純白の修道服が幻覚的(サイケデリック)な柄に汚染されても、全く動じることなくニコニコしている。


「いい? 自然界には『警告色』ってのがあるんだよ! 派手なやつほど『私は猛毒を持ってますよ、食べたらお腹壊しますよ』ってアピールしてるの! つまり、この派手派手迷彩こそが最強の防御!」


 パレットは胸を張り、自分自身もカラフルに塗りたくった。その姿は、歩く現代アート、あるいはインク工場の爆発事故現場そのものである。


「……サメの嗅覚や、生物電流を感知するロレンチーニ器官をごまかせるとは思えないが……」


 ロジックは絶望的な顔で呟くが、もう後戻りはできない。三人は意を決して(一人はノリノリで)、魔物の群れる海岸へと足を踏み出した。


 波打ち際では、サメの胴体にイカの触手を持つ海棲魔物たちが、ぬめるような音を立てて蠢いていた。その鋭い牙は鉄板すら噛み砕き、触手は獲物を逃さない。

 しかし、パレットたちが近づくと、魔物たちの動きがピタリと止まった。

 魔物たちのギョロリとした目が、目の前の「色彩の暴力」を捉える。


『グルル……?』


 魔物の一体が、ロジックに鼻先を近づける。ロジックは死を覚悟して硬直した。

 だが、魔物は「ビクッ!」と身を震わせると、慌てて後ずさりしたのだ。どうやら、パレットの使用した絵の具(ジルコン粉末を混ぜた特製品)の刺激臭と、自然界に存在しない毒々しい配色のダブルパンチが、魔物の本能に「コイツはヤバい。食べたら死ぬどころか、本能が狂う」という警鐘を鳴らしたらしい。


「ほらね! 道が開いた! 大災の竜だって裸足で逃げ出す奇跡だよ!」


 パレットが堂々と歩を進めると、凶悪な魔物たちが蜘蛛の子を散らすように(あるいは波が引くように)左右に分かれて逃げていく。


「……竜が裸足になるかは生物学的に議論の余地があるが、確かに奇跡だ」


 ロジックは呆れつつも安堵の息を漏らす。


 こうして、一行は無傷で(精神的ダメージを除く)、座礁した巨大艦「方舟(アーク)」の足元へと辿り着いた。

 近くで見上げる方舟は、圧倒的な威圧感を放っていた。錆びついた外装の下には、明らかに現代の技術を超越した、滑らかな未知の合金が覗いている。それは艦というより、天空の彼方から落ちてきた神々の要塞そのものであり、見上げる者すべてをひれ伏させるような重圧感を漂わせていた。


「さて、入り口は……あそこだ。あの継ぎ目を見てくれ」


 ロジックが指差したのは、艦体下部に走る巨大な装甲の亀裂のようなラインだった。それは城門よりも遥かに巨大で、巨人が通るための門のように見える。


「あれが入り口? 壁にしか見えないけど……。ロジック、出番だよ! その『スレート』と『黒いジルコンの欠片』で、この巨人を叩き起こして!」

「簡単に言うな……。この質量を動かすにはどれほどのジルパワーが……」


 ロジックは半信半疑のまま、懐からスレートを取り出した。すると、スレートと共鳴するように、巨大な門の中央にある紋様が、地響きのような低い音と共に発光し始めた。


「反応している。……やはり、このスレートと黒いジルコンの欠片は、この要塞の『制御キー』だ」


 ロジックがスレートを高く掲げる。


 ズズズズズズ……ッ!!


 大地が震え、数百年、あるいは数千年の沈黙を破って、巨大な金属の壁がゆっくりと左右にスライドし始めた。

 その隙間から溢れ出したのは、カビ臭さなど微塵もない、冷たく清浄な空気だった。開かれた開口部は、大型の竜ですら翼を広げて通れるほどの広さがある。


「開いた! でっかい! お邪魔しまーす!」


 パレットが一番乗りで、その巨大な闇の中へと飛び込む。中は広大な格納庫(ハンガー)のような通路になっており、壁には幾何学模様を描く「光の回路」が走り、足元だけが誘導灯のように青く輝いている。


「うわあ、見たことない技術! 古代文明ってすごい!」

「警戒しろパレット。内部に防衛機構(ガーディアン)が残っている確率は……」

「ポワンさんがいません」

「え?」


 振り返ると、ポワンがいない。


「あいつ、どこ行った!?」


 慌てて入り口に戻ると、ポワンは巨大な門の端、人の背丈ほどの位置にある窪みから、何かを拾い上げていた。


「見てくださいロジックさん。これ、落ちてましたぁ」


 ポワンが差し出したのは、錆びついた金属のプレートだった。そこには、古代文字ではなく、今の言葉で読み取れる文字が刻まれていた。


『Experimental Ship "Noah" …… Type-Zero ……』


「試作艦……ノア……? ゼロ型?」


 ロジックが眉をひそめる。これは単なる艦ではない。過去の歴史において、何らかの特別な目的のために建造された「試作品」だったのか?


「難しいことは後! お腹空いたし、まずは探検だよ!」


 パレットに急かされ、三人は艦の奥へと進んだ。

 長い通路を抜けると、三人は艦の中枢と思われる広大な「艦橋(ブリッジ)」に辿り着いた。

 そこはドーム状の天井を持つ大広間で、無数の水晶板と操作盤が並び、正面の巨大なメインスクリーンには、ノイズ混じりの地図が表示されている。


「ここが艦長室……すごい、見たことない装置ばっかりだ!」


 パレットがはしゃぐ中、ロジックは部屋の中央、一段高い位置にある艦長席(キャプテンシート)に視線を向けた。


「ん? おい、あそこに誰かいるぞ」


 ロジックの声に緊張が走る。

 シートには、大きな帽子を目深に被った、小柄な少年が、ぐったりと座り込んでいた。


「……死体、ですかねぇ?」


 ポワンが恐る恐る近づく。その外見年齢は10歳前後、あどけなさが残る少年だが、生気は感じられない。

 パレットも後に続く。


「ねえ、もしもーし? 起きてる? それとも永遠のお昼寝中?」


 パレットがその肩をツンツンと指で突いた。

 カチ、カチ。


「あれ? 硬い」


 それは人間の肉体ではなかった。衣服の下から覗く肌は、精巧に磨き上げられた陶器か金属のように滑らかで、冷たかった。首筋には、精巧な繋ぎ目が見える。


「これは……人間じゃない。古代の『自律人形(オートマタ)』か?」


 ロジックが驚きの声を上げた瞬間だった。


 ピカッ!


 少年の目が、カメラのレンズのように青く発光した。

 ウィーン……ガシャッ。

 少年は機械的な動作で顔を上げ、パレットたちを見回した。


『起動……起動シマス。……認証スキャン開始』


 少年の瞳から放たれた赤いレーザー光が、ロジックの懐にある二つのアイテムを捉える。


『認証。主導権限(マスターキー)「ゼロ・ジルコン」、及ビ古代遺物(レリック)「コンパス」ヲ確認。……ヨウコソ、艦長(キャプテン)

「ゼロ・ジルコン……? それにレリック『コンパス』……?」


 ロジックは手元の黒いジルコンの欠片とスレートを見比べ、息を呑んだ。


「それが、この『黒いジルコンの欠片』と『スレート』の本当の名前なのか……。ただの地図や欠片じゃなかった。この艦を動かすための、対になった鍵だったんだ」


 少年型の人形は立ち上がり、ロジックに向かって敬礼した。


『本艦ハ、次元潜行艦ディメンション・ダイバー「アーク・ノア」。現在、動力炉ハ停止中デス。再稼働ニハ、ゼロ・ジルコンノ解放、及ビエネルギーノ充填ガ必要デス』

「喋った! ねえねえ、君の名前は? ご飯作れる?」


 パレットが人形を揺さぶる。

 人形は無機質に、しかしどこか誇らしげに答えた。


『当機ノ識別名ハ、「アイオン」。本艦ノ管理及ビ航行支援ヲ担ウ、自律端末(エイトロン・ユニット)デス。調理機能ハアリマセンガ、艦内ノ「合成食料製造区シンセ・フード・プラント」ヘ案内可能デス』

「アイオン君かぁ。よろしくね! でもご飯作れないのかぁ……」


 パレットが少し残念そうにする横で、ロジックは「合成食料」という響きに嫌な予感を覚え、ポワンは「フカフカのベッドがある場所も教えてください~」とマイペースにリクエストした。

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コナミ「PROJECT ZIRCON」の二次創作です。

©Konami Digital Entertainment

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