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第2話「爆走! ジェットスケートで突撃」

「腹が減っては戦……いや、芸術は爆発しない!」


 パレットは高らかに宣言すると、地面に突っ伏して「水……水くれ……」とうわ言を繰り返すドーラの脇で、荷物袋を遠慮なく漁り始めた。道徳的な躊躇ちゅうちょはゼロである。パレットの倫理観において、敗者は勝者に食料を提供する義務があるのだ(勝手に決めたことだが)。


「おおっ! 見てよこれ! 『GLORY(グローリー)国産・特級スモークビーフ』に『完熟トマトのオイル漬け』! あいつら、見た目に似合わずグルメだよ!」

「それは間違いなくどこかの商隊から略奪した盗品だ。食べるということは、僕らも共犯者になる確率が跳ね上がる……」


 ロジックは眉間を押さえて嘆くが、パレットは聞く耳を持たない。彼女は散らばった焼き肉グリルを引っ張り出してくると、ギガ・ブラシでチョチョイと可愛いうさぎ型の「着火剤」を描いて着火した。


「はい、ロジック! 共犯者セット一丁上がり!」

「……いただきます」


 結局、空腹には勝てず、ロジックは分厚いビーフをかじった。絶妙な塩気があって、悔しいほど美味い。

 ポワンは枕を抱えたまま、器用に片手でオイル漬けの瓶を傾けている。


「んふふ、美味しいですねぇ。神様も『拾い食いはセーフ』と言っています。ところで、あっちでもだえてるハゲの人にも、少しあげますか? 激辛ソースを塗って」

「鬼か君は。水だけ置いておいてやろう。慈悲だ」


 ロジックがドーラの枕元に水筒を置くと、男は赤子のようにおしゃぶりついた。


 夜が更けていく。峡谷の風は冷たいが、パレットが空中に描いた巨大なキノコ型の「即席テント」の中は意外と快適だった。ただし、色が蛍光ピンクであるため、目を閉じてもまぶたの裏がチカチカするという欠陥を抱えていたが。


「明日は『西の古代遺跡』だね! どんなお宝があるかなー、ワクワクして寝れないかも!」


 と言った三秒後に、パレットは寝息を立て始めた。ポワンは最初から寝ている。ロジックだけが、遠くで聞こえるコヨーテの遠吠えとドーラのうめき声をBGMに、帳簿の数字と格闘しながら夜を明かした。


     * * *


 翌朝。峡谷に差し込む朝日は、昨日までの殺伐とした風景を嘘のように爽やかに照らし出していた。


「んーっ! オハヨウ世界! 今日も私が一番カワイイ!」


 パレットはキノコ型テントを蹴破って外に飛び出し、大きく伸びをした。


「……テントは入り口から出ろ。そして朝から声がデカい」


 目の下にクマを作ったロジックが、コーヒーを沸かしながら呟く。ポワンはまだ枕に顔を埋めており、直立不動のまま睡眠を継続しているという器用な技を披露していた。


 周囲を見渡すと、昨夜までそこにいたドーラ・ボムの姿は消えていた。地面には、いつくばって移動したような痕跡と、「水……もっと……水……」と指で書かれたダイイング・メッセージのような文字だけが残されていた(生存しているが)。どうやら夜のうちに、手下たちが戻ってきて回収したか、あるいは自力で脱出したようだ。


「あーあ、おじさんいなくなっちゃった。お礼くらい言えばいいのにね」

「激辛を食わせた相手に礼を求める神経が理解不能だ。……さて、パレット。僕の計算と、昨日手下が吐いた情報、そしてこのボロボロの地図を照らし合わせると、目的地の『西の古代遺跡』までは、徒歩で約三日の距離だ」


 ロジックが携帯端末タブレット上の地図を指差す。そこには広大な荒野と、その先にそびえる山脈のふもとが示されている。


「三日!? やだやだ! そんなに歩いたら私の足が棒になっちゃう! 棒になったら絵が描けないじゃん!」

「手じゃなくて足だろ。……とはいえ、この炎天下の荒野を三日歩くのは、水と食料の備蓄から計算しても危険リスクが高い。生存確率は四十パーセントまで低下する」

「でしょ? だからロジック、天才のパレットに任せなさい!」


 パレットはニカっと笑い、背中のギガ・ブラシを抜き放った。


「歩くのが嫌なら、走るものを描けばいいじゃない! パレット・モータース、開店のお時間だよ!」


 パレットの瞳が創造的な狂気で輝く。どうやら、移動手段を「現地調達(創造)」するつもりのようだ。しかし、過去の事例からして、パレットが描く乗り物は「爆発する」か「暴走する」か「奇妙な生き物になる」かのいずれかである。ロジックは天を仰いだ。


「三日も歩くなんて、パレットの人生の『ワクワク・タイムスケジュール』には入ってないよ! 時代は速度スピード! そしてジェット噴射だ!」


 パレットはロジックの制止を聞かずに、三人の足元へ猛烈な勢いで筆を走らせた。


「ちょ、待てパレット! 足元に直接描画するのは危険だ! 皮膚呼吸とか、火傷のリスクとか……!」

「細かいことは気にしない! 完成、『超竜巻噴射滑走靴スーパー・トルネード・ジェット・スケート』!!」


 描き上がった瞬間、彼らの足元に出現したのは、流線型のボディに不釣り合いなほど巨大なブースターが付いた、銀色のローラースケートだった。見た目は未来的でカッコいいが、配線が剥き出しだったり、排気口マフラーから黒煙が出ていたりと、明らかに安全基準を満たしていない。


「さあ、風になるよ! スイッチ・オン!」


 パレットがかかとを鳴らすと、ブースターが火を噴いた。

 ドォォォォン!!


「うわあああああ! (ジー)が! (ジー)が致死量おおお!」


 ロジックの絶叫がドップラー効果で引き伸ばされ、三人は砲弾のように荒野へと射出された。


 FREEDOM(フリーダム)の乾いた大地を、三本の筋雲が切り裂いていく。時速三百キロ。もはやスケートというより、低空飛行するミサイルである。


「アハハハハ! 最高ーっ! 景色が溶けて見えるよー!」


 パレットは風圧で顔を変形させながら狂喜乱舞している。


「振動が心地いいですねぇ……。これは高級マッサージ機ですぅ……」


 ポワンは抱き枕にしがみついたまま、高速振動に身を任せてさらに深い眠りへと落ちていた。ある意味、最強の精神力メンタルである。


「前! 前を見てくれパレット! 岩だ! サボテンだ! 回避行動を!」


 ロジックは必死にバランスを取りながら叫ぶが、パレットはケラケラと笑うだけだ。


「大丈夫大丈夫! 自動回避機能なんて付いてないけど、パレットの勘がハンドル代わりだから!」

「付いてないのかよ!!」


 死のドライブが数時間続いた頃(体感時間は数年だったが)、地平線の彼方に巨大な影が見えてきた。

 崩れかけた石造りの尖塔、砂に埋もれた巨大な歯車、そして古代の文字が刻まれた城壁。間違いなく目的地、「西の古代遺跡」である。


「見えたー! 到着到着! さあ、みんな止まるよー!」


 パレットが踵を逆方向に踏み込む。しかし、何も起きない。ブースターは変わらず青白い炎を噴き続けている。


「あれ? ブレーキ……ブレーキ……ああっ!」

「なんだその『しまった』という顔は!」

「描くの忘れてた! テヘッ☆」

「テヘッじゃなーーい!!」


 遺跡は目の前。速度は減速するどころか、なぜか加速している。


「止まる方法は一つ! 物理的衝撃による強制停止のみ!」


 パレットは開き直って叫んだ。


「みんな、受け身の用意! あの柔らかそうな砂山に突っ込むよ!」

「砂山の中に岩が入っていた場合の死亡確率は!?」

「百パーセント! いっけええええ!」


 ズドォォォォォン!!!

 盛大な衝突音と共に、三人は遺跡の入り口付近にある巨大な砂丘へと特攻した。砂煙がキノコ雲のように舞い上がり、ジェットスケートは衝撃により粒子となって消滅した。


 数分後。


「……生きてる……奇跡的に……」


 ロジックが砂の中からい出した。眼鏡メガネは割れ、髪は爆発しているが、五体満足だ。


「ふあぁ……よく寝ました。着いたんですかぁ?」


 ポワンは無傷のまま、砂を布団代わりにして欠伸あくびをしている。


「着地成功! いやー、スリル満点の空の旅(陸路)だったね!」


 パレットは砂まみれの顔で満面の笑みを浮かべた。


 彼らの目の前には、圧倒的な威圧感を放つ「西の古代遺跡」の入り口が口を開けている。入り口の上部には、FREEDOM(フリーダム)特有の落書き(グラフィティ)が無数に描かれており、古代の荘厳さと現代のパンクさが融合した奇妙な景観を作り出していた。


「さて、ここがお宝の眠る遺跡か。……ん?」


 ロジックが懐を探ると、ドーラから没収した「黒いジルコンの欠片」を入れた容器が、かすかに振動していることに気づいた。容器越しでも分かるほど、石が熱を帯びている。


「反応している……。この遺跡の中に、何か『共鳴するもの』があるのか?」

「お宝の匂い、最大マックス! パレットの冒険家センサーが、この奥に『超特大デラックス・黄金の何か』があるって叫んでるよ!」


 パレットはギガ・ブラシをバトンのように回し、迷いなく遺跡の正面入り口へと足を踏み入れた。暗闇への恐怖心はゼロ。あるのは好奇心という名の暴走機関車だけだ。


「待てパレット! 古代遺跡の入り口にはトラップがあるのが定石だ! まずは石でも投げて安全確認を……」


 ロジックの慎重論は、パレットの足音が遺跡の石畳を踏みしめた瞬間に遮られた。

 カチリ。足元で何かが作動する音がした。

 次の瞬間、遺跡の入り口付近に設置されていた古代の防犯システム(セキュリティ)が起動した。壁の装飾だと思われていた石像の目が赤く発光し、耳をつんざくような警報音が鳴り響く。


『ビィーッ! ビィーッ! 侵入者検知。侵入者検知。防衛プログラム、レベル1起動』


 無機質な合成音声が響き渡る。古代語だが、なぜか脳内に直接意味が響くジルコン技術のようだ。天井の隙間から、バスケットボール大の球体型ガーディアンが数体、回転しながら落下してきた。


「わあ! 空飛ぶタコツボだ! 歓迎式典セレモニー、派手だねー!」


 パレットは呑気に手を振る。


「タコツボじゃない! あれは『自律型ジルコン防衛機ドローン』だ! レベル1でも武装している可能性がある!」


 ロジックが叫ぶのと同時に、ドローンの下部から小さな発射口が開き、パレットたちに向けて何かを射出した。


 シュバババッ!

 飛んできたのは銃弾やレーザーではない。粘度の高い緑色の液体だった。


「げっ、汚なっ!」


 パレットはブラシを盾にして防いだが、少し遅れたロジックの顔面に直撃した。


「ぐわあああ! 何だこれは! 臭い! しかもネバネバして取れない!」


 ロジックが顔を覆って悶絶する。


「あらあら、スライム爆弾ですねぇ。お肌の保湿には良さそうですけど、ちょっと磯の香りがキツいですぅ」


 ポワンは枕で器用に防御し、無傷だった。


『攻撃効果確認。対象の移動速度低下を確認。レベル2、拘束ネット射出準備』


 ドローンたちが次の攻撃態勢に入る。


「もーっ! せっかくのつなぎ服(オーバーオール)が汚れちゃったじゃん! 芸術アートを汚す奴は許さないよ!」


 パレットが怒りの声を上げ、ギガ・ブラシを構えた。パレットの怒りは、創造的クリエイティブな反撃へと変換される。


「見てなさい! 目には目を、スライムにはスライムを! 想像の実体化イマジネーション・ドロップ、『虹色弾性粘液カラフル・バウンド・スライム』!!」


 パレットが空中に素早く描いたのは、敵の攻撃を模倣した、しかし遥かにカラフルで弾力性に富んだスライムの絵だった。実体化した虹色のスライムボールが、ドローンたちに向かって跳ね飛ぶ。

 ボヨン! ビタン!

 虹色スライムはドローンに命中すると、その弾力で相手を壁に叩きつけ、さらに別のドローンへと跳弾した。


『エラー。予期せぬ物理法則。軌道計算不能』


 ドローンたちが混乱し、互いに衝突して火花を散らす。


「やったね! やっぱりパレットの芸術アートは最強!」


 ドローンを一掃した――というより、同士討ちさせた――パレットは、ドヤ顔でロジックを振り返った。


「ほらロジック、私の勝ち! ……って、まだネバネバしてるの?」


 ロジックは顔面の緑色スライムを剥がそうと必死だが、強力な接着力で取れない。


「このスライム、時間が経つと硬化する性質があるみたいだ……。前が見えない、息も苦しい……。パレット、何とかしてくれ……」

「えー、めんどくさいなー。ポワン、お願いしていい?」

「はいはい~。じゃあ、神聖な枕パンチで剥がしますねぇ~」


 ポワンが枕を振りかぶり、ロジックの顔面にフルスイングした。

 ドスッ!


「ぶべらっ!!」


 スライムごとメガネが吹っ飛び、ロジックはその場に崩れ落ちた。スライムは取れたが、別のダメージが深刻そうである。


「さあ、邪魔者はいなくなった! 遺跡探索、再開だよー!」


 パレットは気絶したロジックを放置し、枕で顔を拭いているポワンを引き連れて遺跡の奥へと進んでいく。


 警報装置を突破した先は、巨大なホールになっていた。天井は高く、壁面には「大災の竜」と戦う英雄たちの姿を描いた古代の壁画が、色褪せながらも残っている。そして、ホールの中央には、四つの奇妙な台座が設置されていた。それぞれの台座には、異なる色の光を放つ窪みがあり、何かを嵌め込むためのスロットのように見える。

 赤、青、黄、緑。四色の光が、薄暗いホールを幻想的に照らしている。


「わあ、綺麗! この台座、絶対に何かあるよね!」


 パレットが駆け寄る。


「これは……『四色認証ゲート』のようですねぇ。対応する色のジルコンギアか、あるいは鍵となるアイテムを嵌め込まないと先に進めない、古典的な仕掛けですぅ」


 ポワンが台座の古代文字を(適当にだが)解読する。

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コナミ「PROJECT ZIRCON」の二次創作です。

©Konami Digital Entertainment

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