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第12話「飛翔! 天空神輿と海竜の砲火」

 最高の素材(『ジルコン合金板(ジルアロイ・プレート)』)、最悪の設計図(『天空の特等席(ゴッド・シート)』プラン)、そして最高の仲間たち。全ての役者は揃った。

 かくして、古代の艦『方舟(アーク・ノア)』の第4工廠にて、歴史上最も無謀で、最も奇妙な魔改造(トリクト・アウト)プロジェクトが始まった。


 その作業は、混沌を極めた。

 ロジックは不眠不休で計算を続け、『ジルコン合金板(ジルアロイ・プレート)』の最適な切断箇所や接合角度をミリ単位で指示する、鬼監督と化した。

「そこは1ミクロンずれている! やり直せ!」

「あいあーい」

 パレットは、ロジックの指示を七割ほど無視し、残りの三割を独自の芸術的解釈で実行した。パレットのギガ・ブラシが振るわれるたび、ただの金属だったはずの骨組みに、生命を宿したかのような曲線と、空力学をガン無視した『鳳凰(フェニックス)』と『(ドラゴン)』の(ウィング)が形成されていく。

 ポワンは、二人が集中できるよう、時折、子守唄を歌ったり、枕で肩を叩いてマッサージ(物理)をしたり、キンピカとカニタにおやつ(栄養食キューブ)を与えたりと、独自の形で現場を和ませていた。

 そしてアイオンは、パレットたちの要求に応じて艦内の設備を操作し、膨大なデータから最適なジルコンの配分を提案するなど、完璧な技術支援テクニカルサポートとしてこの狂乱の日曜大工(ディーアイワイ)を支え続けた。


 そして、数日が経過した。


「「「できたーっ!」」」


 三人の――主にパレットとロジックの――疲労と達成感が入り混じった声が、工廠に響き渡った。

 そこに鎮座していたのは、もはや元の姿を留めているのが奇跡と言える、異形の戦闘機だった。

 流線型の戦闘機『ソラ』の機体の上には、軽量合金で見事に組み上げられた巨大な台座が鎮座し、その正面には『方舟(アーク・ノア)』の艦首紋章(エンブレム)が神々しく輝いている。そして、左右にはパレット作の『鳳凰(フェニックス)』と『(ドラゴン)』が、今にも飛び立たんばかりに翼を広げていた。

 その名は、『天空神輿(スカイ・シュライン)ソラ・フェニックスドラゴン号』。パレットが命名した。


「……なんということだ。僕の計算上、あり得ないはずの安定性を保っている……。芸術が、物理法則に勝ったというのか……」


 ロジックは完成した機体を前に、震える声で呟いた。


「でしょー! カッコいいは、全てを解決するんだよ!」


 ついに、出発の時が来た。

 三人と二匹は、完成したばかりの天空神輿(スカイ・シュライン)に乗り込んだ。パレットが『ソラ』の操縦席に、ロジックとポワン、そしてキンピカたちはお神輿部分の特等席に収まる。


「アイオン、本当に、色々ありがとう!」


 パレットが振り返ると、アイオンは静かに敬礼を返した。


『御武運ヲ、艦長(キャプテン)・パレット。……イツデモ帰還シテクダサイ。ココハ、アナタ方ノ母港(ホーム)デス』


 ゴゴゴゴゴ……!

 『方舟(アーク・ノア)』の巨大なハッチが、青空と大海原に向かって開かれていく。


天空神輿(スカイ・シュライン)ソラ・フェニックスドラゴン号、発進!」


 パレットが操縦桿を握ると、『ソラ』のエンジンが蒼い光を放ち、咆哮を上げた。

 凄まじい重力加速度(ジー)と共に、改造された戦闘機はついに数千年の眠りから覚め、自由の国『FREEDOM(フリーダム)』の空へと飛び立った。

 『方舟(アーク・ノア)』が遠く小さくなっていき、目の前にはどこまでも広がる大海原。一行の新たな冒険が、今、始まった。


 無謀の塊のような機体は、ロジックの計算ではとっくに分解しているはずだったが、パレットの謎の芸術パワーと、『ソラ』自身の機体制御能力によって、奇跡的な安定性を保っている。


「きゃっほー! 速い! 風が気持ちいいー!」


 パレットは操縦席で大はしゃぎだ。


「……計算が合わない……僕の物理学が根底から覆される……」


 神輿(みこし)部分では、ロジックが青い顔でぶつぶつと呟いている。

 一方、ポワンは初めて見る空からの景色に、目を細めていた。


「まあ、ロジックさん、下を見てくださいな。お魚さんがたくさんいますよぉ」


 ポワンがのんびりと眼下の海を指差した。

 ロジックは気分転換にと、恐る恐る下を覗き込む。

 そこには、全長数十メートルはあろうかという、蛇のような身体を持つ巨大生物の群れが、優雅に海を泳いでいた。


「……ポワン、あれは魚じゃない。『海竜(シー・ドラゴン)』だ」


 ロジックの声が、震えていた。船乗りたちにとっては伝説であり、同時に最悪の悪夢でもある生物が、なぜか群れをなして『ソラ』の真下を並走しているのだ。


「わあ、海竜(シー・ドラゴン)さんですかぁ。大きいですねぇ、クジラさんみたいです」

「何を暢気なことを言っているんだ! パレット、聞こえるか! すぐに高度を上げろ! 奴らのテリトリーから離脱するんだ!」


 ロジックがコックピットに向かって叫ぶ。


「えー、でも見てるだけみたいだよ? なんだかカワイイじゃん!」

「可愛いの基準がおかしい! いいから早く上昇しろ!」


 パレットは渋々操縦桿を引いた。『ソラ』は機体を上向きにし、ぐんぐんと高度を上げていく。

 しかし、海竜(シー・ドラゴン)たちの反応は予想外のものだった。

 一匹の海竜(シー・ドラゴン)が、まるで『ソラ』を逃がすまいとするかのように、巨大な口を開けたのだ。


 ゴオオオオオッ!

 海竜(シー・ドラゴン)の口から放たれたのは、炎やレーザーではなかった。凄まじい勢いの『水砲吼(ハイドロ・ブレス)』だった。

 それは巨大な水圧切断機ウォーターカッターのように空を切り裂き、『ソラ』のすぐ脇を掠めていく。


「うわあああっ!?」


 機体が激しく揺れる。直撃は免れたが、翼の端にブレスが当たり、ジルコン合金板(ジルアロイ・プレート)がバチバチと音を立てて損害軽減ダメージコントロールした。


「対空攻撃だと!? 馬鹿な、海竜(シー・ドラゴン)にそんな能力があるなんて聞いたことがないぞ!」


 ロジックが絶叫する。

 どうやら、この海域の海竜(シー・ドラゴン)は特殊な進化を遂げているらしく、飛行する獲物すら撃ち落とす能力を持っているようだ。高度を上げるだけでは、安全とは言えない。

 一発を皮切りに、他の海竜(シー・ドラゴン)たちも次々と水面から顔を出し、狙いを定めてくる。完全に、獲物としてロックオンされてしまった。


 天翔ける神輿(みこし)が、海からの集中砲火にさらされる。海竜(シー・ドラゴン)たちが放つ『水砲吼(ハイドロ・ブレス)』は、岩をも砕く威力を秘めており、『ソラ』の機体を激しく揺さぶった。


「きゃあ! ちょっと、洗濯機の中みたいになってるよ!」


 必死に操縦桿を握るパレット。


「ダメだ、数が多すぎる! 回避パターンを計算する前に、次の攻撃が来る!」


 ロジックは『鳳凰(フェニックス)』の(ウィング)にしがみつき、いつ撃墜されてもおかしくない状況に絶望していた。

 その時、神輿(みこし)の特等席で涼しい顔をしていたポワンが、ふぅ、と溜息をついた。


「もう、せっかく乾かしていた枕が、また湿ってしまいました。これは、お返しをしないと、神様も許してくれませんねぇ」


 ポワンは、先ほどの洞窟での戦いでレーザービームをたっぷりと吸収し、ほのかに熱を帯びている枕を、まるでバズーカのように肩に担いだ。


「ポワン、何を……!」


 ロジックが驚きの声を上げる。

 ポワンはにこりと微笑むと、狙いを定めた一匹の海竜(シー・ドラゴン)に向かって、そっと囁いた。


「ぐっすり、おやすみなさいませ」


 次の瞬間、枕の先端から、これまで吸収してきたエネルギーが、一本の極太の熱線となって放出された。

 ゴォォォォォッ!

 それは、太陽の光が凝縮されたかのような、純粋な熱の奔流だった。

 熱線は、海竜(シー・ドラゴン)が放った『水砲吼(ハイドロ・ブレス)』と真っ向から衝突。水は一瞬で蒸発し、凄まじい水蒸気爆発を引き起こした。そして、威力の衰えない熱線は、そのまま海竜(シー・ドラゴン)の顔面に直撃する。


『ゲッ!?………………………………………』


 海竜(シー・ドラゴン)は悲鳴を上げることも叶わず、白煙の舞う海上で、目を回してひっくり返った。一撃の下に戦闘不能ノックアウトである。


「……」


 パレットもロジックも、開いた口が塞がらなかった。


「ポ、ポワン……君の枕、エネルギーを放出することもできたのか……」

「はい? ええ、まあ。あんまりやると、枕が冷たくなっちゃって、寝心地が悪くなるんですけどねぇ」


 ポワンはこともなげに言う。どうやら、溜め込んだエネルギーを熱線として放出するのは、ポワンにとって最後の手段、あるいは単に「寝心地を左右する」程度のことらしい。

 一匹が見るも無残な姿で無力化されたのを見て、他の海竜(シー・ドラゴン)たちの動きがピタリと止まった。

 海竜たちの原始的な知能でも、理解したのだ。

 空飛ぶ神輿(みこし)に乗っている、あのおっとりした少女は、自分たちとは次元の違う、触れてはならない存在であると。


 海竜(シー・ドラゴン)たちは、これまで見せていた好奇心や敵意を恐怖へと変え、一目散に海へと潜っていった。あれだけいた群れが、ほんの数秒で姿を消し、後には静かになった海面と、ひっくり返って浮かぶ一匹の海竜(シー・ドラゴン)だけが残された。


「……助かった……のか?」

「みたいだね! ポワン、ナイス枕ビーム!」


 パレットがサムズアップすると、ポワンは少しだけ冷たくなった枕を愛おしそうに抱きしめ直した。


「ふぅ、これでまた、ゆっくり眠れますぅ」

「いやー、ポワン、すごいじゃん! あのビーム、また見たい!」

「え〜、でも、あんまり使うと枕が冷えちゃうんですよぉ」


 ロジックはため息をつき、パーティメンバーの底知れない潜在能力に、もはや驚くことをやめていた。


 危機が完全に去ったところで、パレットは操縦席からひょっこり顔を出し、後方の神輿(みこし)に乗るロジックに向かって大声で尋ねた。


「ねー、ロジック! それで、港町『古き港(オールドポート)』って、どっちの方角ー!?」

「それくらい、出発する前に確認しておけ!」


 ロジックは叫び返しながらも、懐から例のスレートを取り出した。


「よし……スレートによれば、目的地は栄光の国『GLORY(グローリー)』国内、首都の西側にある大きな内海の対岸だ。まずは南西に進路を取って、『GLORY(グローリー)』の東海岸に到達する。そこから平野部を横断、首都を通り越して内海を西に飛ぶ。長旅になるぞ」


 針路は定まった。『ソラ』は再び速度を上げ、大陸を目指して南西に向かって突き進む。

 眼下にはどこまでも続く大海原が広がっている。空高く飛ぶ『ソラ』からは、すでに進行方向の遥か遠くに、地平線と雲を分かつ、かすかな影が見えている。それが目指す大陸だった。

 キンピカは機体のリズミカルな振動に心地よさそうに揺れ、カニタはパレットの肩の上で、時折飛んでくる海鳥を赤い眼で追いかけている。


 退屈な空の旅がしばらく続いたが、ついに遥か彼方の大地は、明確な陸地となって目前に広がり始めた。


「見えた! 大陸だー!」


 パレットが歓声を上げる。それは、一行がそれぞれに故郷を持つ、巨大な大陸の東側だ。

 『ソラ』は高度を上げ、さらに広大な栄光の国『GLORY(グローリー)』の上空をさらに南西へと突き進む。眼下には、国の東側に広がる豊かな平野と農村地帯が広がる。やがて、きらびやかな首都の上空を通過し、その先に広がる巨大な内海へと躍り出た。

 空高く飛ぶ『ソラ』の眼下には、広大な内海の全景が広がり、遥か西の対岸には、目指すべき陸地がぼんやりと霞んで見えている。


 それから、どのくらいの時間が経っただろうか? 陽の光が西の山脈の稜線から差し込む頃、辺りは夕焼けに染まり始めていた。

 ロジックはスレートで最終的な位置を調整し、眼下の一点を指差した。


「あそこだ。内海の西岸、河口近くにある古びた港町……あれが『古き港(オールドポート)』だ」


 赤煉瓦の屋根が夕陽を浴びて輝き、港からは活気のある喧騒と海鳥の鳴き声が風に乗って聞こえてくる。『GLORY(グローリー)』の町ではあるものの、首都の計算され尽くした近代的で華やかな雰囲気とは対極的に、どこか時間が止まったような、ノスタルジックな空気が町全体を包んでいるようだ。


「よし、どこに着陸しようか? あそこの広場とか、目立っていいんじゃない?」


 パレットが町の中心にある、噴水のある広場を指差す。


「馬鹿者! こんな訳の分からない改造戦闘機で町のど真ん中に降りてみろ! 衛兵に囲まれて即お縄だ!」


 ロジックは、町の外れにある、小高い丘の上の鬱蒼とした森を指差した。


「あそこに『ソラ』を隠す。そこから徒歩で町に入り、まずは情報収集だ。『賢者の組合(ワイズマン・ギルド)』の末裔や、腕の立つ鑑定士(アプレイザー)についての噂を探るんだ」

「えー、めんどくさいなぁ。聞き込みより、まずは腹ごしらえじゃない?」

「腹ごしらえも情報収集の一環か……酒場に行けば、何か手がかりが掴めるかもしれんな」


 一行はロジックの指示通り、『ソラ』を人目につかない森の奥深くに慎重に着陸させると、パレットがギガ・ブラシで「本物そっくりの背景(森)」を描き、完璧に迷彩(カモフラージュ)した。

 丘を下り、いよいよ町の門へ向かおうとした、その時だった。


「待て」


 ロジックが、厳しい顔で一行を制止した。


「どうしたの、ロジック?」

「どうしたもこうしたもない! パレット、その格好で町に入るつもりか?」


 ロジックが指差したのは、パレットが誇らしげに掲げる、キンピカが入ったアヒルのバケツと、パレットの肩で赤い眼を光らせるカニタだった。


「いいか、ここは無法地帯『FREEDOM(フリーダム)』じゃない。栄光の国『GLORY(グローリー)』の、秩序ある港町だ。そんな『見るからにヤバい黄金の液体』と『正体不明の古代兵器』を連れて歩いてみろ。衛兵に職務質問されるか、悪党に目をつけられるか、その両方だぞ!」

「えー、でもこの子たち、お留守番なんてできないよ?」


 パレットが言うと、キンピカとカニタも不安そうに揺れた。


「だったら、変装させればいいんですよぉ」


 ポワンが、のんびりと提案する。


「変装……そうか!」


 パレットの目がキラリと輝いた。


「任せなさい! こういうのは、私の独壇場だよ!」


 パレットはギガ・ブラシを取り出すと、まずはキンピカが入ったアヒルバケツに向き直った。


「まずは君から! 『ただの古い壺』に変ー身!」


 パレットは、『アヒル型運搬容器(ダック・バケツ)』の表面に、古びた陶器のような汚し塗装と、地味な模様を描き加えた。さらに、スッポリと上部を覆う蓋を描いて実体化させ、完全に中が見えないように被せた。もはや、あれが黄金のペットが入っているバケツだとは誰も思うまい。


「次はカニタ!」

「ギッ!?」

「君は、私の『最新型パンクファッション・ショルダーアーマー』だ!」


 パレットはカニタの甲羅に、歯車やパイプの絵を描き足し、まるで勇気の国『BRAVE(ブレイブ)』で流行っている(とパレットが思い込んでいる)前衛的な肩当てのように見せかけた。リボンとの組み合わせが、絶望的にちぐはぐだ。


「よし、完璧! これで誰も、私たちを怪しい人物だと思わないね!」

「……むしろ、別の意味で職質されそうな格好になった気がするが……これ以上目立たないだけマシか……」


 ロジックは、もはやツッコむ気力も失い、深いため息をついた。


 準備(?)を整えた一行は、今度こそ町の門をくぐった。

 潮風と、焼いた魚の香ばしい匂い、そして微かなタールの匂いが一行を迎える。石畳の道を行き交う人々は、日に焼けた屈強な船乗りや、荷物を運ぶ商人、様々な国から来た旅人たちで、『FREEDOM(フリーダム)』とは違う、秩序ある賑わいを見せている。しかしその誰もが、どこか一癖もありそうな、したたかな目をしていた。


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コナミ「PROJECT ZIRCON」の二次創作です。

©Konami Digital Entertainment

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