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第11話「喧騒! 空飛ぶ神輿と伝説の金属」

 翌朝。


「よし、聞け! これが僕の計算と思考の限りを尽くして導き出した、最も合理的かつ生存確率の高い魔改造(トリクト・アウト)プランだ!」


 ロジックは主画面(メイン・スクリーン)に表示された設計図を指し示し、自信満々に説明を始めた。ロジックはこの数時間、アイオンの膨大なデータを解析し、パレットの能力で実現可能な設計を不眠不休で練り上げていたのだ。

 スクリーンに映し出されていたのは、機体後部に二人乗りの座席を増設する「直列座席(タンデムシート)案」や、機体側面に側車(サイドカー)を取り付ける案など、いくつかの真っ当な(?)改造プランだった。


「僕の推奨は、このプランB、直列座席(タンデムシート)方式だ。空力抵抗は増すが、機体の重心バランスへの影響は最小限に抑えられる。これをベースに……」


 ロジックが説明を続けようとした、その時だった。


「うーん、却下!」


 パレットが、あっさりとその案を一蹴した。


「えっ」

「だって、後ろの席ってつまんないじゃん! それに、キンピカとカニタも乗るんだよ? もっとこう、みんなでワイワイできる感じがいい!」

「ロジックさん、私の枕も置きたいので、ある程度の広さは欲しいですぅ」


 ポワンも、座席の居住性を重視する意見を述べる。


「君たちはピクニックに行くのか!? これは大陸横断のための……!」


 ロジックが反論するより早く、パレットは設計図の上に、ギガ・ブラシで新たなイメージを上書きするように描き始めた。


「よし、ひらめいた! こうすれば、みんなハッピーだよ!」


 パレットが描き上げた、新たなる改造プラン。

 それは、ソラの機体の上部に、巨大で立派な「屋根付きの台座」を取り付け、そこに全員で乗るという、前代未聞の設計だった。

 ロジックの設計図にあった空力抵抗や重心バランスといった概念は、完全に無視されている。

 その姿は、例えるなら、最新鋭の戦闘機の上に、無理やり和風の東屋を乗せたような、あるいは、暴れ神輿(みこし)が鎮座しているような……とにかく、シュール極まりない見た目だった。


「……」


 ロジックは、あまりの姿に言葉を失い、白目を剥いて固まった。


「名付けて、『天空の特等席(ゴッド・シート)』作戦! これなら景色もいいし、みんなで一緒だし、キンピカとカニタのおうちも作れるよ!」

「まあ、素敵! これなら枕を干しながら旅ができますねぇ」

「駄目だ! 却下だ! 絶対却下だ! そんなバランスの悪いものを付けて飛んだら、一瞬で錐揉(きりも)み回転して海に墜落するぞ! 空気抵抗の塊じゃないか!」


 ロジックは魂の底から叫んだ。

 しかし、パレットは首を傾げて答えた。


「でも、これ、カッコよくない?」

「カッコいいかどうかと、安全かどうかは別の問題だ!」

「カッコよければ、大体のことはなんとかなるもんだよ。ね、ソラ?」


 パレットが足元のソラに話しかけると、肯定を意味するように、ピカリと眼を光らせた。


「ソラまで!?」


 結局、ロジックの悲痛な叫びも虚しく、多数決(パレット、ポワン、ソラ vs ロジック)により、「お神輿プラン」が大筋で採用されることになったのだった。


 ロジックは、床に両手と両膝をつき、がっくりと項垂れていた。ロジックの一晩をかけた苦労の結晶である合理的な設計案は、パレットの「カッコいいから」の一言で、あえなく撃沈した。


「僕の人生は、ここで終わるのかもしれない……」

「まあまあ、ロジックさん。まだ始まってもいませんよぉ」


 ポワンがその背中を優しく(そこそこの強さで)叩く。

 しかし、ロジックはただ絶望しているだけの男ではなかった。ロジックは震える手で立ち上がると、カッと目を見開いた。


「……だが、死ぬにしても、少しでもマシな死に方を選ぶ権利が僕にはあるはずだ!」


 ロジックは半狂乱の状態で、パレットが描いた無謀な「お神輿プラン」の設計図に食らいついた。


「いいか、パレット! 君のこの狂ったプランを飲む代わり、最低限の修正案は受け入れてもらう! これは交渉であり、僕の最後の命乞いだ!」

「えー、めんどくさいなぁ」

「聞け! まず、この台座の素材! 全てを描き出すのではなく、ベースとなる骨組みには、この艦で使われている軽量合金を使う! それを僕が計算した最適な位置に配置し、君はその上を『芸術(アート)』で覆え! これで少しは重心が安定する!」

「なるほど、『複合工法ハイブリッド・メソッド』だね! 採用!」

「次に、この四隅! 何もないと風を受けてバランスを崩す! ここに、空気の流れを整えるための小型の(ウィング)を取り付ける必要がある!」


 ロジックがそう叫んだ時、パレットが待ってましたとばかりに手を挙げた。


「はいはーい! (ウィング)なら、もっとカッコいいのがあるよ!」


 パレットはロジックの描いた簡素な(ウィング)の上に、新たなデザインを上書きし始めた。


神輿(みこし)には、豪華な飾りがなくっちゃね! 右側には、天を舞う『鳳凰(フェニックス)』! 左側には、雲を呼ぶ『(ドラゴン)』! どう!? 最強にクールじゃない!?」


 パレットが描いたのは、もはやただの(ウィング)ではなかった。翼の形をした、芸術的で、おそろしく複雑な形状の巨大な彫刻だった。

 ロジックは、それを見て再び崩れ落ちた。


「……ダメだ……空力特性が悪化する……むしろ、より墜落しやすくなる……」


 しかし、パレットは満足げに腕を組み、ポワンも「わぁ、神様が喜びそうなデザインですねぇ」と目を輝かせている。ソラに至っては、そのデザインを気に入ったのか、機体を嬉しそうに小刻みに揺らしていた。

 ロジックの抵抗は、無駄に終わった。


 こうして、最終的な改造プランが固まった。

 ベースは、ロジックの計算に基づいた軽量合金の骨組み。

 その上に、パレットが創作する居住スペースと、空力的に最悪だが芸術的に最高の「鳳凰(フェニックス)(ドラゴン)(ウィング)」が取り付けられる。

 その理論と芸術が正面衝突し、大破したかのような奇妙な設計図を前に、ロジックは全ての抵抗を諦めた。もはやロジックのすべきことは、この無謀な計画の中で、限りなくゼロに近い生存確率を、小数点以下でもいいから引き上げることだけだった。


「……分かった。もう何も言うまい。だが、これだけは言っておく。まともな素材を使わなければ、完成する前に自壊するぞ」

「素材? そんなの、全部私が描けばいいじゃん! 『超軽くて頑丈な夢の合金』って描けば、それができるんだよ!」


 パレットが胸を張る。

 その時、これまで静観していたアイオンが、すっと前に出た。


艦長(キャプテン)・パレットノ能力ハ理解シテイマス。シカシ、ゼロカラ複雑ナ構造物ヲ創造スルト、膨大ナジルパワーヲ消費シマス。結果、肝心ノ航行ニ必要ナパワーガ不足スル可能性ガアリマス』

「え、そうなの?」

『ハイ。ソコデ提案デス。本艦ノ第12資材倉庫ニハ、旧文明時代ノ戦闘デ破損シタ艦体ノ残骸ヤ、未使用ノ合金パーツガ多数保管サレテイマス。ソレラヲ骨格ノ素材トシテ再利用(リサイクル)シ、艦長(キャプテン)ノ力ハ外装ノ形成ヤ、パーツ同士ノ接合ニ限定シテ使用スベキデス。ソレガ最モ効率的カト』


 アイオンの極めて合理的な提案に、ロジックは「その通りだ!」と我が意を得たりと頷いた。


「廃品利用の日曜大工(ディーアイワイ)ってことだね! エコでいいじゃん、採用!」


 パレットは、すっかり宝探しの気分になっていた。


 こうして一行は、アイオンの案内で、これまで足を踏み入れたことのないアーク・ノアの深部、第12資材倉庫へと向かうことになった。

 そこは、巨大天蓋(ドーム)ほどもある広大な空間で、天井まで届くほどの瓦礫の山がいくつも連なっていた。ひしゃげた装甲板、切断された巨大なパイプ、正体不明の機械の残骸。それら全てが、数千年分の埃をかぶって静かに眠っている。

 まさに、金属の墓場だった。


「うわー! すごい! ガラクタの山! 見てるだけで直感インスピレーションが湧いてくるよ!」


 パレットは目を輝かせ、さっそく瓦礫の山によじ登り始めた。


「おい、足元に気をつけろ! 突然崩れるかもしれんぞ!」


 ロジックが注意するが、パレットは聞こえていない。


「あらあら、宝の山ですねぇ。この中で眠ったら、きっと鉄の夢が見られますよぉ」


 ポワンは巨大なパイプの中に頭を突っ込み、反響する自分の声を楽しんでいる。

 金属の墓場と化した資材倉庫は、パレットにとって最高の遊び場だった。パレットは「宝探しだー!」と叫びながら、猿のように軽々と瓦礫の山を駆け上っていく。


「おい、足元に気をつけろ! 突然崩れるかもしれんぞ!」


 ロジックの心配をよそに、パレットは山頂(瓦礫の山のてっぺん)にたどり着くと、何か巨大なものをガラクタの中から引きずり出した。


「見て見てー! すっごいの見つけちゃった!」


 パレットが掲げたのは、直径3メートルはあろうかという、巨大な円形の装甲板だった。

 それはただの鉄屑ではなかった。表面には、翼を広げた鳥を模した、精巧で美しい紋章が刻まれており、奇跡的にほとんど傷一つなく、数千年の時を超えた輝きを放っている。


『……ソレハ、本艦『方舟(アーク・ノア)』ノ正式ナ艦首紋章(エンブレム)デス。大災ノ竜トノ戦闘ノ際、艦首部分ガ大破シタ為ニ剥落シ、ココニ保管サレテイタモノカト』


 アイオンが静かに解説する。

 それは、この偉大なる古代の艦の、誇りと魂の象徴だった。

 ロジックも、その荘厳な艦首紋章(エンブレム)を見て息を呑む。


「なんと……こんなものが、まだ残っていたとは……」


 その神聖な遺物を前に、パレットは満面の笑みで言い放った。


「これ、私たちが作るお神輿(みこし)の正面に飾ろうよ! 絶対カッコいいよ!」

「馬鹿者ッ!」


 ロジックの怒声が、資材倉庫に響き渡った。


「そ、それはこの艦の魂だぞ! 歴史的な遺物だ! 我々が作るふざけた乗り物の装飾にしていいわけがないだろう!」

「えー、でもカッコいいじゃん。カッコいいは正義だよ?」

「正義の問題じゃない! これは敬意の問題だ!」


 パレットとロジックが睨み合っていると、これまで黙って艦首紋章(エンブレム)を見つめていたポワンが、ぽつりと呟いた。


「……いいんじゃないでしょうか」

「ポワンまで!?」

「だって、この紋章さんも、ずっとこんな暗くてホコリっぽい場所にいるより、もう一度、空や海を見たいと思っているかもしれませんよぉ。私たちのお神輿(みこし)の先頭で、風を切って旅をする方が、きっと楽しいに違いありません」


 ポワンののんびりとした、しかしどこか本質を突いた言葉に、ロジックはぐっと言葉を詰まらせた。

 パレットは、チャンスとばかりに艦首紋章(エンブレム)を抱きしめる。


「そうだよ! この子も、もう一度飛びたいって言ってる! 私には聞こえるもん! ね、ロジック?」

「……」


 ロジックは、パレットとポワン、そして艦首紋章(エンブレム)を交互に見比べた後、天を仰いで深いため息をついた。


「……分かった。分かったよ。ただし、絶対に傷一つ付けるんじゃないぞ。もし傷つけたら、僕が君を『FREEDOM(フリーダム)』の海に沈める」

「やったー! 決定!」


 アーク・ノアの艦首紋章(エンブレム)神輿(みこし)に飾るという、冒涜ぼうとくとも英断ともとれる一大プロジェクトが決定し、パレットが「どうやって下ろそうか」と積み上げられたガラクタの山から下りる算段を始めた、その時だった。


 これまでパレットの肩の上で大人しく周囲を観察していたカニタが、突然カタカタと身体を震わせ、パレットの肩から飛び降りた。


「おっと、どうしたのカニタ?」


 カニタはパレットの呼びかけに応えず、まるで何かに導かれるように、一直線に瓦礫の山の一角へと走り出した。


「キ、キシャッ!」


 鋭い鳴き声と共に、カニタは瓦礫の隙間に頭を突っ込むと、小さなアームで何かを必死に掘り起こし始めた。


「あいつ、何か見つけたみたいだぞ」


 ロジックとパレットが駆け寄ると、カニタが瓦礫の中から、鈍い銀色に輝く一枚の金属板を引きずり出していた。

 その金属板は、見た目以上に遥かに軽く、それでいて指で弾くとキィンと高い音が響くほど硬質だった。表面には、カニタの甲羅と同じ、微細なハニカム構造(蜂の巣のような模様)が刻まれている。


「なんだろう、この鉄板。軽くてカチカチだ!」


 パレットが金属板を叩きながら言う。

 ロジックは、その金属板を見て目を見開いた。


「……これは、ただの合金じゃないぞ。確か『GLORY(グローリー)』の研究所で、古代の文献の中にだけ記述があった『ジルコン合金板(ジルアロイ・プレート)』……! ジルコン粒子を金属繊維に織り込むことで、鋼鉄の強度と、木材の軽さを両立させたという伝説の金属だ!」


 その価値は、同じ重さの純金以上とも言われている。


『……肯定シマス』


 いつの間にか背後に立っていたアイオンが、静かに頷いた。


『ソレハ、カニタノヨウナ小型ユニットノ装甲材トシテ開発サレタ合金デス。軽量カツ高イエネルギー耐性ヲ持チマス。……コノ資材倉庫ニ、マダ残存シテイタトハ』


 カニタは、まるで「これを使え」と言わんばかりに、その金属板をパレットの足元に押しやった。どうやら、自分の仲間であったユニットの残骸の中から、最も優れた素材を見つけ出してきてくれたらしい。


「カニタ、すごい! お手柄じゃん!」


 パレットがカニタの頭(リボン付き)を撫でると、カニタは少しだけ誇らしげに、赤い眼をピカピカと点滅させた。

 最高の素材が見つかった。

 ロジックの顔にも、ようやく安堵の笑みが浮かぶ。


「よし……これなら、いけるかもしれん。この『ジルコン合金板(ジルアロイ・プレート)』を骨組みの主材として使えば、君の無茶なデザインでも、なんとか強度とバランスを保てるかもしれない!」


 絶望的だったお神輿プランに、光明が見えた瞬間だった。


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コナミ「PROJECT ZIRCON」の二次創作です。

©Konami Digital Entertainment

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