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最後の継承者

ロケットランチャーから発せられたミサイルはあらぬ方向をめがけ飛び、巨大な水飛沫をあげただけだった。ラームは自分の左手の甲に深々と刺さった矢を見る。老猿のごとく眼光鋭い老人は、二隻のクルーザーよりずっと小さな漁船の上で構えたボウガンをゆっくりとおろした。

「行け」

九度は通信機に向かって簡潔極まるメッセージを告げた。ようやく、ドゥリーパと楓の乗ったクルーザーのエンジンが再点火され、向かうべき場所へと走り始めたのを見る。九度の乗った漁船に、船舶無線が入電した。

『邪魔してくれたな』

ラームという固有名詞は知るよしもないとしても、誰が話しているかなどわかりきったことだった。

「ああ。夜の瀬戸内に対し、無粋にすぎると思ったのでね」

クルーザーは唸り、面舵をいっぱい。馬力・速力ともに圧倒的なクルーザーが、そのまま漁船に体当たりしようと回頭してくる。

「なるほど。古式ゆかしい戦法ではあるが」

漁船は避けない。一歩も退かずに、波間でクルーザーを待ち受ける。今はいささか距離があるが、体当たりする以上、こちらに十分近づくはずだ。九度は、再びボウガンを構える。

「南無八幡大菩薩」

今、クルーザーは雄叫びとともに漁船へと突撃してくる。九度老人がボウガンのトリガーをひいた。矢は風を貫き闇を割き、重力と空気抵抗に抗い、クルーザーの上部、レーダー部分に深々と突き刺さった。ラームは構わず突進する。レーダーを破壊したところで無意味だった――すでに目視できているのだから。「死ね!」などというありきたりな罵倒を投げたりはしない。ラームは罵倒するより、実際に殺す方が好きだから。まもなく漁船ごと老人を粉微塵にできる。

そのとき、何かがクルーザーの上部で炸裂した。矢に爆発物でも取り付けたか。だが、矢で飛ばせる程度の火薬で、こんな威力は出ない。クルーザーは炎上し、ラームは操舵室からデッキに逃れざるを得ない。夜が赤々と照らされるなか、デッキでラームを待つ人影が一人。

「爺さん。あんたも馬鹿だね」

ラームは爆発で額に負った傷から、血を垂らしながら笑った。

「そのまま逃げればよかったのに。わざわざ俺にとどめを刺しにきたつもりか?」

「万一にでもお前が生き延びて、ドゥリーパ・シェンケヴィッツの邪魔をされては困るからな」

九度は、あの金属棒を取り出す。シンプルであるがゆえに、いかようにでも使い途がある得物だ。

「矢に搭載していたのは、ビーコンだけだ。それをもとに爆薬満載のドローンか何かを誘導した、ってところだろう。だが、お前自身がこちらに乗った以上、同じ手は通じないぞ」

「何度も同じことをするほど、無芸ではないつもりだ」

「そうか。俺は同じことを繰り返すなんてよくある」

「……」

「以前、ド・メ侯爵は俺をこう評した。『お前はいざ戦いとなれば妙な策を弄さない。それがいいのだ』と」

ラームはコンバットナイフを取り出した。

「俺は真っ正面から相手を潰すのが好きなんだ。その方が、つけいられることも少ない」

「そうか。では、私もお前さんの心意気に敬意を表するとしよう――最後の継承者として」

九度は一気にラームへと走り寄る。ラームは猛々しく叫びながら、迎え撃とうとしている。

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