もう一人を待っている間に
「その結果、みかげはいくつもの世界で悲惨な目にあってきた。まさにこの世界における私もしたように、親にさえ狂人と思われてな」
明灘京司の口調は静かで、穏やかでさえあった。本当に決心してしまった人間はわめいたりしないらしい。
「月浜ロベール。君もみかげを愛しているのか。私やひとみが愛しているのとは別のやり方で、かもしれないが、そうじゃないのか」
「……そうだな。そうだと思う」
「では、協力しろとまでは言わない。邪魔をしないでおいてくれ」
「あんたは」
ロベールは京司の上からどき、傍らに座り込んだ。
「どうしようというんだ」
「全ての世界のみかげを救う。親だからな」
「全ての世界?」
「気づいているとは思うが、XYEが動いたのは一回じゃない。最初の悲劇が始まった世界以来、世界が世界をつくり、つくられた世界がまた世界をつくり、そうした連鎖が数え切れないほどに連なっている。そのそれぞれで、みかげは、娘は痛ましいことを経験してきた」
みかげは目を閉じて、椅子に座っている。息も穏やかだ。
「もし、すべての世界のみかげを救おうとすれば方法はこれしかない」
「みかげと一体化した因果を超越する『なにか』。それで最初の世界に干渉するのか」
「ああ。そろそろ、ヘルメティカもXYEをまた動かすはずだ――本番として、次の宇宙にその精神を転送するためにな。さすがに一介の気象学者が素粒子加速器を用意するのは無理だから、それを使わせてもらう。じつはこのあたりには海底ケーブルが走っている。彼らの加速器の場所は特定しているし、システムも相当に掌握ずみだ」
部屋の壁面に設置された電子機器は、読み解き方を知らない者にはわからない言葉でささやきあっている。無数の発光素子の点滅は魚群が舞い泳ぐような一体感を出していた。
「しばらくかかる。ヘルメティカ側でも加速器のプリプロセスにそれなりの時間がかかる。それまでに、彼が問題なく到着できるとよいのだが、そこは祈るしかない。『一つ前の世界』に残ったひとみにも、彼の動きは予見できないからな」
「彼?」
「ドゥリーパ・シェンケヴィッツという。ポーランド人と、南インドのマラヤーリ人の血をひくアメリカ市民だ。もちろん、これはこの世界におけるプロフィールのごく一部でしかないがね」




