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再生の儀式を担うもの

ヘリはアルプス山嶺の某所に着陸した。欧州高等科学研究協力機関附置、ヘルヴェティカ・リニアコライダーの職員はすでに総員でド・メを待っている。侯爵はヘリコプターから降りて、臣下たる選良たちを睥睨する。

「すでに準備が整っています」

所長の報告にド・メは軽くうなずいて、足早に研究所内に入り目的の部屋に向かう。むろん、ローマやパリの居所に比べれば灰色の壁と天井と床は殺風景だった。しかし、組織の三千年にわたる目的を達するのはここをおいてないのだ。アルプスの峰の奥に、その部屋はある。これを準備するため、我々はつとめてきた。

扉があくと、椅子が据え付けられている。ヘッドレストにはVRゴーグルのようなデバイスが備わっている。ド・メは王たる者――あるいは予言を成就すべき者の自然さで、椅子に座る。ゴーグルが降りて、ド・メの鼻から上の顔を覆った。

「作動開始します、しばし、お待ちください」

所長の声がスピーカー越しに聞こえた。この部屋にはもう、椅子に座った自分以外はいないはずだ。ド・メは脳裏に去就する万感に、精神を委ねる。「宇宙さえ終わる。そして、そのことについて人間にはなすすべがない」、という事実に最初に気づいた者がいた。そして戦慄した。自分個人の生も、人類の行為全体も、すべてがいつかは無に投げ込まれ、そして回避しようがない。その戦慄は彼をして行動させた。「ならば別の宇宙をつくりあげ、そこに人の得た知識を送る」という方法で滅びを回避するために。

そのとき、天佑として明灘みかげという少女が現れた。因果を超越する少女を掌中とし、その男は次の宇宙の古代ギリシアにいた、フィロラオスというピュタゴラス教団の一員に自身の精神そのものを転送させた。そのときから、人間は真に滅びを超え、再生の秘密を知ったのだ。

ド・メも、幾度となく繰り返されたこのサイクルを回さねばならない。ラームの実力なら、ほどなくシェンケヴィッツを排除し、明灘みかげを確保するだろう。遠い道のりではあった。明灘みかげが日本列島に出現することは分かっていたのに、常に何者かに阻まれて、政府を買収するところまで達せずに歯がゆい思いをすることが幾度あったか。しかし、あと少し、あと少しだ。

「もうすぐ春がめぐってくる。世界は死から目覚めて、また歌い出す……」

声には出さず、ド・メは口ずさんだ。

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