長瀞遼太郎、ふたたび、あるいは彼が誰であるか
長い縦穴を螺旋階段で降りたさきの扉をくぐる。洞窟――または、鉱山の坑道の方がよほど近いか。そういった水平方向のどこかに通じている通路だ。身長180センチのロベールでも立って歩けるくらいの高さだが、横幅は人一人が通ってもたまに壁にぶつかるくらいだ。
「行こうか」
長瀞が先頭に立って歩き出し、そのあとをみかげとロベールが続く。歩き始めて、ロベールは長瀞とみかげの間を歩いていないことに気づき、失敗したと思った。できれば、この後に多少なりとも広めの空間があればいいのだが……。みかげ本人といえば、船上からひきつづき何かを思案している顔だ。何かを思い出そうとする表情。今、それどころじゃないぞ、とロベールは思ったが言い争うわけにもいかない。
歩いたのは百メートル内外だった。また、次の扉が現れる。
「これが最後の扉だ」
言いながら長瀞が開ける。中は一層暗いが、ある程度の広さがある。機会はもう、ここしかない。長瀞の隙をついて逃げる、とロベールは決心した。長瀞は壁際の照明スイッチを入れ、部屋は明るくなった。10メートル四方程度の、ほぼ正方形状の部屋の中央に椅子が固定されている。奇妙なのは、椅子のヘッドレストの部分にVRゴーグルのようなデバイスも据え付けられていることだ。
「さあ、みかげ。ここへ」
ロベールが驚く間もなく、みかげは長瀞に促されるまま椅子に座る。デバイスは自動でみかげの端の上までを覆った。ロベールは咄嗟に長瀞に飛びかかり、そのまま馬乗りとなる。
「みかげを離せ!」
「ロベール君。彼女は自分の意志で座った。君も見たはずだ」
「……」
たしかに、みかげは自分の椅子で何をすべきかを知るように座り、そしてゴーグルが降りた。みかげの外見に異変は見られない。
「長瀞遼太郎。お前は、誰だ」
長瀞は自分にのしかかるロベールをじっと見て、答えた。
「私は明灘みかげの父親、明灘京司だ」
「はあ?」
言われた言葉を処理しきれない、という表情でロベールが息をもらす。
「俺はみかげの担当看護師だった。明灘京司は仙台にいるし、そもそもあんたより年上だ。訳の分からないことを言うな」
「仙台にいるのは、この世界の私だ。私は最初に悲劇が始まった世界からいくつもの世界を転々として、今ここにきた」
ロベールは掴んでいた長瀞、あるいは明灘京司の襟元を緩める。
「もう少し、聞かせてもらおうか」
「そうだな。昔の話になる。なんというか、ある意味では時系列としての昔、ではないが」




