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スナイパーは光学機器を信頼する

リンドボリは異変に気づいた。ドローン映像は相変わらず神経と筋肉を緊張させて身構えるシェンケヴィッツの姿を写しているが、三分たってもシルヴェストラは動かない。この手の仕事にしてはずいぶん長いサボタージュだ。ライフルのスコープで廃倉庫の方面を覗く。廃倉庫の中で、大きな炎が踊っているのが見えて、疑惑は確信に変わった。

思わず通信機のスイッチに指をのばしかけて、中断する。たしか目標のエージェントはハッキング技術に長けている、という情報だった。もしシルヴェストラが倒され、通信機を奪われていたなら音声くらいいくらでもごまかせるだろう。だとすれば、このドローン映像もそうである可能性が高い。リンドボリはターゲットスコープを片眼でのぞく。今すぐ奇襲をしかけられる可能性は著しく低いので、両眼を開けている必要はない。スコープはガリレオ・ガリレイ以来、基本原理の変わることないレンズで構成されている。スナイパーにとって、最後に頼れるのは自身の技術と万古不易の物理法則だ。

聞こえてくるのは自分自身の呼吸音と、風がこの高台にある神社の境内を撫でる音のみ。今、スコープをにらんでいるのは状況を把握するために過ぎない。ただ、シルヴェストラが西側から突入しようとしていたことを察知されていた場合、そこはリンドボリにとって死角になっているということも推測されてしまう。時間をかけていれば死角からそのまま逃亡されるだろう。廃倉庫は本格的な火事になりつつある。スパイ衛星からの画像も、可視光は煙に、赤外線は炎の熱に阻まれて一人一人の人間など識別できるはずもない。

仕方がない、とリンドボリは故郷のデンマーク語でつぶやく。事が大きくなりすぎるので気が進まないが、他の手段はない。シルヴェストラを失ったとはいえ、戦力においてはまだこちらが卓越している。目標は当然、自分の有利なフィールドでの勝負を仕掛けてくる。ならばそのフィールドそのものを無効化するのが効率的だ。

リンドボリは引き鉄に指をかける。生体認証がロックを解除したことを、無機質なビープ音で告げた。

「弾種、ダムダム弾」

とうの昔に使用が禁じられた弾丸を音声で設定する。何かに命中した途端、高性能火薬が弾丸内部で炸裂して甚大なダメージを対象にもたらす。リンドボリは引き鉄を引く前に、念のためスナイパーライフルのシステムチェックを行った。最悪、このライフルさえハックされている可能性を用心したのだ。チェックは数秒で終わった。オールグリーン。異変に気づいた直後にネットから遮断したのが良かったか、あるいはシステムチェック機能までハック済みか。後者ならどうしようもないので、考えても無駄だ。引き鉄を引いた。

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