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漁師が金銭だけで動くだろうか

「どこ行きたいかはわからないけど、どこか行きたがっている奴がいるからそいつらがきたら教えろ、と」

日焼けし、細い目からのぞく眼光の鋭い男は塩辛い声で言った。わかりやすく「漁師、海の男」であることが伝わってくる風貌だ――それも、そうであることを容姿から喧伝するのではなく、こうしてポロシャツとジーパンをまとって陸前高田の喫茶店に座っていてさえにじみ出てくるほどに。

「はい」

楓が答えた。

「なあ、それは何のためだ?」

当然想定される質問だ。「人捜し」という名目が犯罪に関わっているケースは数え切れないほどにある。だが、もちろん本当の理由を明かすことはできない。なので、弓弦楓は用意していた答えで押し通すしかない。

「恐縮ですがお答えできません。どうしても、とおっしゃるなら志度さん以外の方に頼むしかありません」

「ふうん」

そこまで興味はない、といった具合に志度が応じる。

「謝礼はさきほど提示した額です。いかがでしょう?」

「別に不満はないですよ。ちょうどサンマの季節なのに、今年はもうみんな諦めているような不漁のところに小遣い稼ぎの水準を超えたような額だし、お引き受けします」

「ありがとうございます」

楓は内心でドゥリーパを同行させなくてよかった、と思う。どう見ても民族的には日本人ではないのだ。おそらく、余計な疑いを生むだけである。

「ただね、詮索するというほどじゃないんだが……」

「はい」

「その黒人系という男、あんたと何か関係あるのか?」

みかげとの関係を聞かれるのは想定していたが、まさかの月浜ロベールだった。こいつ私が浮気相手と一緒に自分から逃げていった恋人を地獄の果てまで追っている、みたいな勝手なストーリーをでっち上げてるんじゃないだろうな。

頭蓋骨の『内側』で思いっきり青筋を立てつつ、楓は表情に出ないよう志度の様子をうかがう。漁師は先ほどと変わらぬ無愛想な相貌でテーブルの面を見ているだけだ。下世話な興味という感じではない。

「お答えできません」

「そうか。失礼した」

思ったよりあっさり引き下がる。なんなんだ。

「お支払い方法ですが、二名が見つかった際に現金でよろしいですか。今どきあまりないと思いますが……」

「構わない。それで、一関のあたりにいるはず、と」

「ええ」

「わかった。俺の妹があのあたりに嫁いでいるから、伝手はある」

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