お怒りの原因は……
「レイジ!大丈夫か?」
やっとテツヤはドアを開けてくれた。無事に部屋に入れてもらい、ベッドに腰かけた。
「もう、何で無視するの?イテ~。」
手をさすりながらテツヤを睨んだ。
「……。」
だが、テツヤは何も答えず、下を向いて黙っている。
「俺、何かした?」
手をさするのを辞めて、テツヤの事を凝視した。ベッドの前に立ったまま、テツヤは視線をさまよわせている。
「だって、昨日、ライブ……。」
テツヤがボソッと言う。ライブをカズキ兄さんと先にやってしまったから怒っているのだろうか。
「あー、それは……みんな出かけちゃって、残っていたのが俺とカズキ兄さんだけだったから。」
「もうちょっと待っていてくれれば帰って来たのに。でもそれはいいんだ、それは。」
何だ?他に何かあるのか?
「何?」
先を促すと、
「カズキとハグしてたし、自分のリップをカズキに塗ろうとしてた。」
またボソボソと言うテツヤ。
「観てたの?」
ノゾムさんと食事しながら?
「後で観たんだよ。」
あーそうか。動画が残ってるもんな。
「ハグなんてしたかな。」
「最初にしてた。」
「そう?カズキ兄さんがしたんでしょ?」
「リップはお前からだった。」
「それはさ、カズキ兄さんが俺とテツヤが一緒に運動してるとか言い出すから、その話を辞めさせようと思ってやったわけで、それにカズキ兄さんは絶対に嫌がるの分かってたから、本当に塗る気はなかったし。」
思いっきり言い訳をする俺。
「って、そんな事で怒ってたの?」
「そんな事って、そんな事かよ。俺、寂しかったし、一緒にライブやりたかったし、それに……。」
テツヤは言葉に詰まった。
「とにかく、もう出て行って。独りにしてくれ。」
俺の事を立たせると、ドアを開けてぐいんと押された。びっくり。テツヤは腕を鍛えまくっているようで、力が強くなっている。
「え、あ、ちょっと。」
そして、背中でバタンとドアが閉まった。やれやれ、話があまりできなかったぞ。