6話 ゴブリンとの対話
「マオ!」
ゴブリンがいるのにも関わらず、俺は急いでマオのそばに駆け寄った。
封具を外し、必死にマオの名前を呼んだ。
マオはうめきつつも目を覚ました。
「マオ大丈夫!?怪我はない!?」
「うるさい・・・」
よかった。意識はあるようだ。
「ごめん、本当にごめん。」
謝って済む問題ではないが、謝るしかなかった。
「我も油断していたからな。気にするな。」
マオの声は掠れていた。
マオを起こしていた手に力が入る。
今までは旅に支障がない程度に力があればいいと思っていた。
でも、それではダメだ。守る仲間ができたのだから。
必ず、今よりも力をつけなくてはー。
しばらくすると、マオの意識もはっきりしてきた。
「まったく、人間に遅れを取るとはな。大体、あの腕輪はなんなのだ!
あれを付けられてから気分が悪い」
俺は魔法具の説明をすると男共に「姑息な・・・。」と心底軽蔑した視線を送っていた。
「お前も悪かったな、助かったぞ。」
マオは俺を他所に、暗闇にいたゴブリンに話しかけていた。
「魔王サマ・・・、助カッタ・・・、イイ・・・。」
ゴブリンは緑色だが、人間と似ている。知能はそこまで高くないが集団戦が得意な魔族だ。
人間の倍以上の大きさを持ったゴブリンもいるが、助けてくれたこのゴブリンは小柄だった。
ゴブリンはカタコトだったが、人間とは違う言語で話しているようでマオとは意思疎通ができている。
「マオのこと魔王様ってわかるんだね」
「我らはソールでわかるからな」
「ソールってなに?」
「ソールというのは、その者の本質・精神を表すものだ。我々はソールがあることによって相手が強いのか、弱いのか、なんの種族なのか確認することができる。」
そんなことが可能だなんて、魔族も結構すごいなと素直に思う。
人間はパッと見ただけでそんなことはわからない。
マオとゴブリンはしばらく会話していた。
その間に俺はゴロツキ共を縄で縛る。
マオには大変申し訳ないが、先ほど男たちを死なない程度に止血してもらった。
俺はそんなことしなくていいと言ったが、「死んだら情報が聞き出せないだろ」とマオが冷静に語った。これじゃあマオの方がよっぽど大人だ。
俺は男5人を縄でぐるぐる巻きにした。
「これでよし。」
縄で縛るのは大変だったが、村の警備所に突き出さなくてはならない。
どうやってこいつらを運ぼうか。
考えあぐねていると、マオとゴブリンが寄ってきた。
「人間・・・頼ム。家族・・・助ケテ・・・。」
ゴブリンは土下座で頼み込んできた。
そんなことを魔物にされたことがないので、衝撃的だった。
「ど、どういうこと?」
俺は戸惑って、「頭を上げてよ!」と思わずゴブリンの手をとった。
手は冷たかったし、肩も震えていた。
「このゴブリンの家族だが、男共に攫われたようだ。」
そういうことだったのか。
今日ここへ1匹で来たのも男達の跡をつけるためだったらしい。
勇敢なことだ。
「魔王サマ・・イタ・・ビックリ・・。」
そりゃあ、急に魔王が現れたら驚くよな。
姿も変わっていたから、最初は違うんじゃないかと思ったらしい。
結果的にナイス打撃で助かったから良かったけど。
「家族のことは任せろ。お前は群れに戻れ。」
ちょっと!そんないきなり約束なんかして!
でも、マオの決意は堅そうだったので俺も「ま、任せて!なんとかするよ。」と
言ってしまった。
ゴブリンは頭を下げて森の奥深くに去っていった。
その後、マオは情報を聞き出そうとしたが、男達は「暗示」にかかっているようで上手く聞き出すことができなかった。
仕方がないので村の警備隊に引き渡して、警備隊からこいつらと引き換えに情報を聞き出そうという結論になった。
「さて、俺たちも帰ろうか。」
とは言ったものの、こいつらをどう運べばいいのやら。
「転移」
マオは短く唱える。
地面は青白く光り、魔法陣が浮き上がっていた。
眩しくて目を開けていられない。
「おい、村に着いたぞ。」
確かに一度行った場所には転移できると魔法士達は言うが、
その「転移」を行える者はほとんどいない。
なにしろ空間を移動するのだから、理論上可能というレベルに近い。
それをこんなふうに移動できるなんて。
雷にしても、これにしても流石すぎる・・・。
マオは気を利かせてくれたのか村の大門前に俺たちはいた。
「とりあえず、警備隊にこいつらを引き渡そう。」
俺たちは話し合った通り、警備隊の詰所に行きゴブリン以外の経緯を話した。
警備隊はマオに「大変だったね」と飴をくれた。
詰所からリーダーと思わしき人物が出てきて、「明日、報酬を渡すから時間がある時に寄ってほしい」とのことだった。
色々あった長い長い1日が終わった。
空いていた宿に泊まり、眠りにつく。
夢を見た。
忘れられない過去と今日の出来事が入り混じって息が苦しくなる、嫌な夢をー。