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5話 救出

ネックレスの気配は森の方からだった。

ただ、昼間降りてきた方向とは全く違う方からだったので、マオが自分から去ったのではなそうだった。だとすると、やはり人攫いの可能性が高いのか。

こうなった時に渡しておいて良かったという気持ちと、どうして防げなかったんだという気持ちが拮抗する。

夜の森は昼間とは桁違いなほど不気味で怖い。

何が出てくるのかわからないし、暗くて辺りがよく見えない。

本来の自分であれば夜の森になんか来ないだろう。

俺は一応冒険者だが、高値で売れる素材があったとしても夜の森にわざわざ行くほど勇敢じゃない。

それなのに、今ときたら気配がする方向にずっと突っ走っている。

道なき道を進み、コケそうになる。それでもマオを助けに行かなかればとの思いからか、足は勝手に走り続ける。

マオを失うのが森に行くより怖いのか、“あの時”を思い出しているのか自分ではもうよくわからない。

そもそも魔王なんだからマオ自身でなんとかできるんじゃないか。

全盛期よりは衰えていても、昼間に見せてくれた雷の魔法はすごいものだった。

だとしたら俺なんかが行く意味はあるのだろうか。

気配がだいぶ近くなった頃、火の光が目に入った。

火が燃えているなら、そこに誰かがいるはずだ。

そこへ慎重に行くと、柄の悪そうな男が4人ほど焚き火を囲んでいた。


「まさか人間じゃなかったとはな。」

「ああ、ガキとはいえ念の為に魔法封具をつけておいて正解だった。使われると面倒だからな。」

「あれは高値で売れる。」


やはり彼らは村で頻発していた人攫いの犯人のようだ。

そして、話題にされているのはマオのことだろう。

人間じゃないと考えたのはマオのツノを見たからか。

男たちは捕らえた獲物が思った以上の大物だったことに喜んでいるようだった。

こんな男たちだが、マオが抵抗できなかったのも無理はない。

魔法封具は特赦な魔法具で、文字通り身につけた対象の魔力を封印するものだ。

どんなに強い魔法士や魔法を使う魔物であってもこれを付けられると、魔力が吸収されてしまうらしい。

しかし、封具はかなり高級なものなのでこんなゴロツキが持っているのが腑に落ちないが。


男たちの方をよく見ると、俺は目を見開いた。

男たちの足元に転がっている子供が見えた。

雨具は外され、着ていた服は土で汚れていた。

右腕には忌々しい封具らしきものが付けられている。

髪はクシャクシャしていて乱暴に扱われたことが予想できた。

寝ているのか、死んでいるのかわからないほどぐったりしている。


怒りが湧いてきて、刃こぼれする剣を持つ手に力が入る。

マオさへ奪還できればいいと考えていたが、こいつらを殺す以外なら何をしてもいいだろうと気持ちを切り替えた。


本当は焚き火を消した方がいいだろうが、灯りを消せるようなものはない。

仕事を終えた気の緩みからか、近づいても気づかない。

火の番をしている男、眠そうにしている男、談笑している2人の男。

まずは、眠そうにしている男の背後に回る。

剣を振り下ろし、男の腕を切り落とす。

男は悲鳴を上げ、その場にうずくまっている。

刃こぼれのする剣で切り付けられればさぞ痛いことだろう。

他3人は近くにおいてあった武器をとり、こちらに襲いかかってきた。

俺はカバンから煙玉を落とし、相手の視覚を奪う。

煙で見えないのはお互い様だが、声のする方をどんどん切っていく。


人を切るのは久しぶりだった。

旅の道中、怖いのは何も魔物だけではない。

人も同じだ。何度も身包みを剥がされそうになったし、金を取られそうになったこともあった。依頼で逆恨みされることもあった。

だから、時に人を切らねばならないこともあった。


手加減できるほど俺は強くない。手加減というのは自分の方が強く、それが相手と圧倒的な差がある時にできる技だ。

男たちの背中、足、手首を次々と負傷させる。

素早く片付けないと煙の意味がなくなる。

俺では急所を外すので精一杯だったが、男たちは「痛え!」とか「クソッ!」とか言いながら悶えていた。

視界が晴れると、俺も息が荒くなっていた。人を切って興奮していたし、体力も持ちそうになかった。

早くマオを連れて帰らなければ。


「う、動くんじゃねえ!」


声のした方を見ると男はマオを抱え、剣を首元に当てた。

しまった!4人だと思っていたが、もう1人仲間がいたのか。


「い、今すぐ荷物をおいてここから出てけ!こいつがどうなってもいいのか!?」


男も焦って声が裏返っている。

俺も予想外なことが起きて動揺していた。

場数は踏んでいたとしても、今まで1人で旅をしてきた自分にとって、仲間を意識しながら戦う経験が少なすぎたのだ。

どうやって危機を打開するか。

煙玉を使うべきなのか。荷物を置いて去ったフリをするべきか考えていると「ドコッ」と鈍い音がして男が泡を吹いて倒れた。


男の後ろから石斧を持った1匹の緑色のゴブリンが、男を殴ってくれたようだった。



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