4話 フートとローブ
4話
さて、満腹になったし、そろそろ麓に向かいますか。
マオも少し元気になったのか自分で歩くことにしたみたいだ。
なんでも「子分に頼ってばかりいられないからな。」だそうだ。
俺、子分なんだ・・・。
夕方になるちょっと前、麓の村まであと少しとなったところで俺は歩みを止めてマオと約束の確認をする。
「約束覚えてる?」
「一応な」
もう一度2人で復唱してマオに俺用の雨具を被せる。
雨具は臭いだの、汚れているだの言われたが「村でちゃんとしたのを買うから」と
俺も約束しなんとか着てもらった。
フードはデカいし、足も腕の裾も捲りまくった。でも、これでツノも隠せたし良しとしよう。
「あとこれ。渡しておくから首にかけておいて」
「なんだこれ?」
「これ魔法探知できるやつだから。はぐれてもいいようにね。」
俺はマオの首にネックレスをかけた。ネックレスと言っても飾りではなく、魔法探知ができるようにしてあるものだ。本来は恋人に渡すものらしいが、昔馬を持っていた時に探せるように買った。俺は少量ならものに魔力を宿らせることができる。ちょっと変わった特技だ。
あと1つ大事なこと。「俺のことを絶対“勇者”って呼ばないでね」
この頃、魔族が少しずつ増えていて、巷ではまた「勇者」を望む声も増えていた。
本気で目指している奴は大概強い腕利きの者が多いが、俺は全く違うので何か頼まれごとでもされたら完遂できない。そもそもイタいやつって思われるのも嫌だし。
「まあ、お前は勇者の見た目ではないしな。顔も地味だし、服も地味だ。仲間もおらんしな」
マオから言われる言葉が槍のようにグサグサと刺さる。ちょっと泣きそうだ。
そりゃあ俺だってイケメンとかではないけど、流石に言い過ぎだと思う。
「それでなんて呼べばいいんだ?」
自己紹介したはずなのに忘れらてる。二重のショックが襲いかかる。
「セラヴィーだって言ったじゃん」
「長い、セラ。セラでいいな」
これはもう、あだ名をつけてもらったとポジティブに捉えることにした。
村に入ると、そこまで活気があるとも言えないが静かでいい場所だと思った。
村の大門には「フート」と大きく書かれていた。覚えやすくていい名前だ。
まず、食堂が目に入り、宿屋もある。それから武器も売ってそうだなと俺が目移りしていると「おい」とマオにズボンの裾を引っ張られる。
そうだ、何より先にマオの服を買ってやらなきゃ。
俺は服屋に入った。服屋には普通のものも売っているが、服に防御の魔法を施した服も売っていた。
「いらっしゃい!」
恰幅のいい女将が店主のようだ。
「旅しているんですが、この子にローブを買ってやりたくて」
マオは勝手に服を探していたが、それに気づかず俺は女将と話していた。
「にしてもあんたたち、兄弟か何かい?2人で旅しているのかい?」
俺もまだ成人していないし、マオはまだ5歳くらいだ。そんなのが旅をしていれば確かに怪しまれるかもしれない。女将は心配しているようにも見える。
「あー、えっと。俺の妹で、顔に傷があって。ちょっと気は強いけどいい子なんですよ」
笑って誤魔化す。魔王に性別があるのかわからないけど、見た目は可愛いから勝手に妹設定にしちゃった。傷も本当はないし、悪いことしたな。
「まあ、あんたたちが兄弟かどうかは知らないけど、あんた気をつけな。
最近この辺で人攫いが流行っているみたいだからね。」
「それは大変ですね」
最も無難な言葉を返したつもりだ。
しかし、こんなのどかな場所でも物騒なことが起こるものなんだなあと思う。
「その子も心配だけど、あんたも疑われることがないようにね」
そうか。人攫いが流行っていれば、犯人かどうか関係なく、よそ者に対して厳しい目が集まるだろう。
誓って俺はそんなことはしないが。
「まあ、ローブならこの辺かね。女の子なら可愛いのもあるからね。」
気を取り直してローブを選ぶ。
ピンクのローブは銀貨3枚。魔法攻撃の防御弱・物理攻撃の防御弱。
とてもいいけど銀貨3枚はなかなか高い。
次に銀貨2枚のローブ。淡い水色で上品な感じがする。こちらも物理攻撃の防御がついている。でも、銀貨2枚・・・。
そして、銅貨7枚のローブ。白で飾り気はない。これは防水とあって、それ以外はなさそうだった。ただ、銀貨1枚=銅貨10枚なのでこれが一番安い。
マオを呼んで3つの子供用ローブを見てもらう。
正直、安いのを選んで欲しい。でも、借金をする手立てもあるか。
銀貨くらいならこの村でちょっとお使いをすればすぐ返せるはずだ。
「これでいいぞ。」
マオが選んだのは俺が一番いいと思っていた白くて安い飾り気のないローブだった。
「本当にこれでいいの?」
可愛くないし、地味ではある。
「問題ない、ここは我慢してやるからお前も新しい服を買え」
マオ・・・。俺はマオが気をつかってくれたみたいで嬉しくて、泣きそうになったが、正直自分の服を買う金はない。
「俺はいいから」
魔王も意外といいところあるんだと感心する。
「馬鹿者。そんなみすぼらしい服で隣に居られると恥ずかしいだけだ」
み、見窄らしい・・・。確かに服はここのところ新調していない。
でも、本当にお金がカツカツだったのでマオのローブだけにした。
マオの体に合わせるために細い調整があるようで、受け取りは明日行くことになった。
そんなことをしていたら、もう夜になってしまった。
昼も魚しか食べていないので腹が減ったので、とりあえず村にあった酒場に入る。
店には堅いのいい男の3人組。4人組のパーティーもいた。冒険者の類いだろう。
地元ぽい人が3、4人ほどいてなかなか席が埋まっている。
端の方が空いていたのでマオと座る。
とりあえず、肉とサラダと、スープと・・・。
「マオは何か食べたいものある?」
「酒だ!人間が作るものは美味いからな」
魔王様が人間の作ったものを称賛してくれるのは嬉しいが、子供に酒を提供するわけにはいかないので、オレンジジュースで妥協してもらった。
旅早々、子供に飲酒なんてさせたら警備所行きになるからね。
注文した後に番号札を渡された。ここの店はちょっと変わっていて、自分が料理をとりに行く方式のようだ。今までそういった店はなかったので初めての形式に少し緊張する。
店では店主の男性や従業員2名ほどが忙しなく働いていた。
夕食時で店が混んでいるし、他にこれと言って食べられる店もなさそうなので必然的にここが混むのだろう。
自分の番号が呼ばれた。
もちろん、魔王様が行ってくれるはずもないので俺が取りに行く。
「はいよ!」
店主の男性がカウンターに勢いよく料理を置いていく。
どれも出来立てで美味そうだ。
一気には運べないのでとりあえず、肉とオレンジジュースから持っていくことにした。
「お待たせー」
席に戻るとマオの姿がない。
トイレにでも行ってしまったのだろうか。
「すみません、雨具を着た女の子がここに座ってたと思うんですけど、知らないですか」
俺は堅いのいい男に聞いてみたが、「知らねえな」と返されてしまった。
酔いも回っているようであてにならない。
俺は防具屋の女将の言葉を思い出した。
「人攫いが増えている」
常に一緒にいるだろうと安心しきっていた。
マオは強い魔法が使えそうだったから、自分の身は守れるだろうと思っていた。
そんな言い訳が頭の中で反芻される。
いや、こんなことを考えている場合じゃない。
「ごめんなさい!」
俺は銀貨1枚出して店を出た。