16話 本当の狙い
もう舞台上にはゴブリンしかいなかった。
混乱に乗じて鍵を壊し、ゴブリンを檻から出す。
「マオウサマ・・・?」
ゴブリンはキョトンとした顔をしていたが、マオが引っ張りながら舞台を降りる。
扉の前はまだ出て行こうとする人たちでごった返していた。
「コッチ・・・マダ・・イル。」
舞台袖の方をゴブリンは差した。
「捕まっているのがまだいるのか!?」
ゴブリンは静かに頷いた。
「行こう!」
俺たちは袖口から通じる道へと走る。
それと引き換えに警備隊も会場へ入ってきていた。
地下に降りるとまるで刑務所のように檻がいくつも並んでいた。
子供や大人、魔物が入っている。
「お兄さんたち助けて!」
呆けている俺たちに1人の男の子が声を上げた。
俺たちは1つ1つの鍵を壊し、中にいた人たちを解放する。
「言っただろ、絶対助けは来るって!」
少年は、一緒に捕まっていた子供たちをずっと励ましてくれていたようだった。
こういう子がいたのは心強かったのではないだろうか。
「ペペロさん!」
ラブンも想い人を見つけたようだった。
これでほとんど解放したと思う。
「ダメ!あなたはここに居ちゃいけないの!」
ペペロさんと思われる女性は、助けに来たのに感謝の言葉もない。
「ペペロさん、大丈夫です、一緒に逃げましょう!」
「違うの・・・、違う、あなたこそ逃げて、早く!」
ラブンは戸惑っていた。
助けられた人が助けた人に逃げろと言っていれば混乱するに決まっている。
なぜそんなにも、逃げろというのか。
「わかったぞ、狙われているのはペペロさんじゃない!ラブンの方だ!」
「ええ!?」
ラブンは驚いているが、彼はウェアウルフ。魔物だ。
しかも、ウェアウルフは人に化けることもできるし、面白いことこの上ない。
それに目をつけた人が彼女と取引しようとしたのではないか。
「あの青年の言う通りなの、あなたは狙われている、早く逃げ」
「いたぞ!捕まえろ!」
オークション会場の係の奴らが10人ほど地下に入ってきた。
彼らは会場に入ってきた時は優しくしてくれたが、今では剣だの、鉄パイプなどを手に持っている。
まあ、商品を逃そうとしているんだから当たり前か。
「失敗したらボスに殺されるぞ、何としてでも全員捕まえろ!」
ボスとは誰のことなのか。
でも、俺たちのことは殺さないでくれるらしい。
それだけでも戦いやすさは何倍にもなる。
「あの女といる奴は捕まえろ、そのガキどもは殺しても構わん。」
違った、助かるのはラブンだけかも。
「そこをどけ、殺されたくなければな!」
マオは氷の槍を投げつけていた。
「今だ!走って逃げろ。ラブン、お前もだ!」
「みんなこっちだ!」
マオが逃げる道を作ってくれた。
ラブンは女性を引っ張って、地下から脱出する。
そのあとを捕まっていた子供や大人がついていく。
「クソッ!あいつらを追え!」
指示に従い、何人かはラブンたちを追いかけて行った。
俺たちは武器を持った奴らに囲まれる。
「こいつらは殺せ、ガキは魔族だ!」
奴らは俺たちに目掛けて剣を振り下ろしてきた。
俺はその剣を受け止める。
マオが作り出す幻影とは、ほど遠い重さだ。
俺は相手を押し出し、斬りつける。
後ろから来た相手には蹴りを。唸っているところをもう一撃食らわす。
マオも応戦していたが、後ろから敵が迫っていた。それに気づいていない。
俺は敵の横から体当たりし、相手の首を斬る。
「やるな。」
「稽古つけてもらったからね」
幻影より、よっぽど弱いこいつらを相手にするのはさほど大変ではなかった。
マオにも誉めてもらったしね。
「大人しくしろ!」
会場の方が片付いたのか、警備隊の人たちが来てくれた。
唸ってる奴や、まだギリギリ息のある奴らはどんどん捕縛されていった。
今度はあいつらが檻に入る番だろう。ザマアミロ。
オークションに関連していた事件は全て幕を閉じた。
外に出ると、夜が明けていた。
俺もマオもかなり疲れていたし、汚れていた。
「なんとかなったな。」
「そうだね。」
裏通りは、まだごちゃごちゃしていた。
でも、これで治安は良くなると思う。
「マオさん、セラの兄貴!」
ラブンとペペロさんが駆けつけてくれた。
2人も無事でよかった。本当によかった。
「助けてくれてありがとうございました。」
ペペロさんは深々と頭を下げた。
ラブンも一緒に頭を下げていた。いや、お前は俺たちと一緒に助けに来たんでしょうが。
「俺たちは何もやってませんよ。あなたを助けたのはラブンですから。」
ペペロさんは、ラブンを見つめていた。
ラブンの顔は真っ赤だった。大丈夫かな。
「マオさん、セラの兄貴、俺たちはそろそろ戻ります。」
「うん。」
「ガイエテを出るときは一言言ってくださいよ!」
ラブンとペペロは帰っていった。
こうして、オークション会場は俺たちや警備隊によって閉鎖に追い込まれた。
捕まっていた人たちは保護され、魔物たちは俺とマオで森に帰した。
ゴブリンも頭を下げていたけど、「仲間が待っていると思うから早く帰れ」とマオに言われ直ぐに向かっていった。
――――――
「なんでこうなった!どうして捕まえられない!」
「申し訳ありません!」
オークションを取りまとめていた人物は怒りを露わにしていた。
謝って済むわけではないが、謝るしかない部下は土下座していた。
その頭を蹴り飛ばされる。
「誰がやったんだ、警備隊には圧力をかけていたはずだろ。」
「男と、もう1人は女のガキです。後は、我々が目をつけていたウェアウルフと・・。」
警備隊ならいざ知らず、そんな奴らに潰されたと思うだけで正気を保っていられない。
重要な資金源だった場所がもう使えないのはかなりの痛手だった。
「必ず殺す、そのガキどもを探せ!居たら絶対にここへ連れて来い!」
「承知いたしました!」
怒りは収まらない。
自分で絶対に殺してやる。
ボスと呼ばれている人物は、見たこともない相手に闘志を燃やしていた。
左手には蛇の模様が刻まれていた。