15話 潜入
俺たちは宿で作戦会議をしていた。
「じゃあ、乗り込むんですね!」
ラブンはファイティングポーズを取っている。
鼻息は荒く、もういつでも乗り込めるぞと言わんばかりだ。
幸運にも招待状を手に入れられたのは本当にありがたい。
これで会場に入ることができる。
「明日ね。」
「ところで、そっちは何か進展があったのか。」
ラブンは神妙な面持ちになった。
「それが・・・、ペペロさんが柄の悪い人と話しているのを見たって・・。」
ペペロさんは、ラブンの想い人であり、最近行方知れずになってしまった人だ。
柄の悪い人か。
ラブンの話を聞いているだけでは、彼女がそんな人たちと付き合うようには思えない。
借金絡みか、はたまたラブンが気づいていない彼女の裏の顔か・・。
ラブンの話だと、待ち合わせもペペロさんが「裏通りがいい」って言ってたみたいだし、ひっかかるな、やっぱり。
「とにかく、作戦を決めよう。まず、ラブンに貴族っぽい人に変身してもらう。俺とマオはそのお供ってことにしよう。次に明かりを消す。そうすれば混乱が起こるはずだ、それで警備隊の人に入ってもらおう。」
「無難だな・・。」
「無難すぎですね・・・。」
無難だけども!
「その後、さらわれた人たちを奪還しに行かないとね。俺たちはゴブリン、ラブンはペペロさんかな。」
それ以外にも捕まっている人たちを解放しないとな。
人間はまだいい。警備隊が入ってきても保護してもらえるだろう。
でも、ゴブリンはそうはいかない。
魔物から取れる素材だけ取るか、そのまま殺すかされるだろう。
それだけは避けないと。約束だし、なんとかするって。
「じゃあ、決行は明日の夜だ。現地集合で。」
「わかりました、また明日!」
ラブンは人間の姿になると、走って去っていった。
また明日、なんて魔物と約束したことなかったな。
詰所にも話は通した。
明日はきっと大丈夫だ、なんとかなるはず。
翌日、夜。
結局、ラブンは紳士服を着た貴族男性に、俺は淑女のドレスを着用し、マオをおんぶした。
色々考えたけど、これが無難だった。
裏通りに行くと、開かずの間だった会場は密かに人が集まっていた。
みんな仮面をつけていたものだから、急いで調達してきた。
顔を隠すってことはダメなことってわかってるんじゃないのか、ここにいる奴らは。
「ノスポール家の方ですね。お子様をお連れのようですが、よろしいのですか。」
受付が話しかけてくる。こいつらも仮面をつけていた。
「子供がいることが問題か」とラブンが問う。
「いえ、お子様には少々刺激が強いといいますか・・・。」
この会場で行われるものをまだ見たことはないが、嫌悪が激しくなる。
捕まえた人達に何をさせているんだ。
「そのくらいであれば問題ない」
「いえ、しかしですね⋯。」
ラブンの返答にも受付の係は、引かない。
「まだ何か?」とラブンが低い声で言うと、やっと「失礼しました!」と係は扉を開けた。
俺はラブンはお調子者だと思っていたが、あんな声も出せるのかと感心した。
背中がピンとなったのは内緒だ。別にビビってないけど。
会場の席はもうほとんど埋まっていた。
ガイエテに貴族がこんなにいるのかと思うほどだ。
多分、違う地方からも来ているはずだ。
「今日のお目当てはなんですの?」
「そうだな、人間でもいいが、変わった魔物でもあればね、買いたいところだよ。」
前の席にいた2人は笑い合っていた。
人だの、魔物だの、不当な方法で買うことに対して、少しも罪悪感を感じない。
「おい、セラ、痛いぞ。」
「ご、ごめん。」
マオを抱いていた手に力が入っていた。
こんなところは早く無くした方がいい。
「さて皆さん!今宵はお集まりいただきありがとうございます!今夜の商品はこちらです!」
舞台にはスポットライトで照らされた檻があった。
司会のセリフに合わせ、檻にかぶせられていた赤い布が剥ぎ取られる。
「あれは・・!」
檻の中には、1匹のゴブリンが入っていた。
大きな個体ではないものの、檻の中で小さく縮こまっていた。
人間が怖いんだろう。
会場では一斉に数字が飛び交っていた。
「50!」、「100!」
中には
「あんな醜いものをどうするのかしら。」
「見世物にでもするんじゃないか。」
とか、ひどい言葉も聞こえる。
「マオ、やっぱり焼き払おう、こんな所。」
「セラ・・。」
俺は会場の隅に行き、火の魔法を使う。
火力はないものの、徐々に火は燃え広がっていく。
会場の係が「おい、なんか臭くないか」と会話し始めた。
「ふん、ちっぽけな火だな。それでは足りるまい。」
マオは離れたところに火の魔法を4つほど放つ。
「150、他の方いらっしゃいますか?いなければこれで・・。」
ゴブリンの値段が決まる。
それと同じくらいに誰かが叫ぶ。
「おい!燃えてるぞ!係は何をやっているんだ!」
貴族は扉目掛けてみんなで走る。
焼け死にたくないからだろうな。
「落ち着いてください、皆さん落ち着いて。」
係は言っているものの、誰の耳にも届かない。
俺たちは服を脱ぎ捨て、ゴブリンの救出に向かった。