14話 招待状
「しかし、なぜ警備隊とやらは招待状をくれんのだ?」
「基本的に警備隊の人は平民の人が多いからね。ツテもないと思うよ。」
俺も招待状を準備してくれているものだと思っていたが、プランプには笑って誤魔化されたしな。
貴族しかオークションには来ないみたいだし、それを没収したり、偽造の招待状を作ったりってことはできないんだろう。
この前の帰り際なんて「ユーズドさんがあんなに怒っているのは初めて見まして・・・。貴族の方からも圧力がかかるし。もうどうしたことやら。」なんて嘆いていた。
よほどフートの警備隊であるユーズドさんが怖かったらしい。
それにしても、もうちょっと積極的に動いてもいいと思うけど。
「セラ、約束の時間まではまだかなり時間がある。」
「そうだね。」
「稽古するぞ!」
「ええっ、今から!?」
俺たちは人気のないところで稽古を始めた。
相変わらずマオが生み出す幻影は強い。
300年前の勇者と俺じゃあ、月とスッポン・・、いや月と藻かも。
くっっ。
幻影の一撃一撃は重い。最初は受け止めきれなかったが、繰り返すことでなんとか潰されないようになった。
ただ、「受け止められる」ようになっただけだ。
俺から反撃できない。受け止める、避ける、かわすで精一杯だ。
まずい、間合いが!
自分の体に激痛が走る。
「いつまでも避けてばかりでは、死ぬまでの時間を引き伸ばすだけだぞ。」
マオの言う通りだ。
俺は立っているのも辛いので、その場に寝転ぶ。
「いいか、セラ。何もこの幻影は隙がない訳ではない。敵をよく見ろ。あいつは勇者だから強いという先入観を捨てるんだ。」
そうだ、俺はマオに「300年前に実際に戦った勇者」と聞かされてビビっている。
でも、勇者も人間であったならば、癖や弱点があるはずなんだ。
「マオ!もう一回幻影を出して!」
俺は約束の時間まで剣を振るい続けた。
時間になり、学校へと向かった。
いや、正確には学校じゃない。ガイエテ学園だ。
学園は学校と違って貴族のみが通うことのできる特別な場所だ。
「おーい、こっちだ!」
少年は俺たちに手を振ってくれていた。
その後、少年が行きつけだと言う店に入った。
カフェのようだが、メニューを見ると結構高い。
「俺が奢る。好きなものを選べ。」
「じゃあ、遠慮なく。」
「我はこれにする。」
マオはフルーツケーキの紅茶付きセットを頼んだ。
俺もガイエテ限定ケーキとコーヒーを注文した。
少年はマオと同じくらいだったのに、コーヒーだけ頼んでいた。
「今朝は悪かったな。助かった。」
「それはいいんだけど、名前を教えてもらってもいいかな。俺はセラヴィー、こっちはマオ。」
今更だが、俺たちは名乗ってすらいないことに気づく。
「僕は、エクセント・バン・ノスポールだ。ノスポール子爵の次男だ。」
やっぱり貴族だよな。
失礼なことをしないように気をつけないと。
ウエイターが先に飲み物だけ運んでくれた。
「しかし、君らは遠慮がないな。別にいいけど。」
やばい。もう手遅れかも。
「ガイエテには何をしに来たんだ。観光?移住?」
「オークション会場を潰しに来たんだ。」
マオははっきり言った。
俺はまたコーヒーを吹き出しそうになる。
「ちょっと、マオ!誰かに聞かれたら・・。」
「防音の魔法くらいしておる。こーゆーのはさっさと本題に入った方がいい。」
ええ、気づかなかった。
「オークション?あれか、裏通りでやってるやつか。」
「そんなところかな。何か知ってる?」
この子も貴族だし、一応聞いておこう。
「父上が今週末に行くと言っていたな、ただ体調を崩したから行けないと思うが。」
「だったら、譲ってくれないかな!?その招待状。」
渡りに船だ、これはかなり大きい。
もし、ここで譲ってもらえれば会場に入ることができる。
「わかった。父上に話しておこう。」
「ありがとう!」
話も終わり、満を持してケーキを食べる。
旅人にとって甘味は贅沢品だ。
一口一口大事に食べる。
「君らは兄妹か?」
「いや、違うけど。訳あって一緒に旅をしているんだ。」
少年は初めて子供らしく笑う。
というか、肩が震えている。
「なんだ、違うのか。食べ方がそっくりだったからてっきり兄妹なのかと思った。」
俺とマオは互いに互いを見る。
「似てない!」
俺たちは全力で否定したが、少年は「ほら、似てるじゃないか!」と、また笑うのだった。
その日の夜、宿に封筒が届く。
封筒には、招待状らしき手紙が同封され、蛇柄のシーリングスタンプが押されていた。
あれ、まだ何か入ってる。
封筒の中には剥き出しのメモのような紙が入っていた。
「招待状を譲る、健闘を祈る。」と丁寧な字で書かれていた。
この蛇は組織のものだろうか。
「準備は整ったな。」
「ああ、今週末に乗り込もう。」