12話 フラれた元部下
俺たちは結局安い宿にした。
というのも、マオに「ここは屋台のご飯もうまいんだよね」と言うと「屋台にするか」と言われたのでそうなった。
夜になって、街はより一層賑やかになる。
「ええと、豚肉と牛肉の串と、野菜串ください。」
「はいよ、それぞれ銅貨2枚ね。」
マオに肉を取られうになるが、なんとか躱し、
「マオは先にこっちね」と野菜の串を渡す。
ネギ、人参、ピーマン、キノコが刺さっている。
「いらん!肉をよこせ!肉を!」
「野菜も食べないと健康によくないでしょ。」
マオはイヤイヤ野菜を食べる。
ピーマン以外を。
「ピーマンも食べないと!」
「それを食わすならここ一帯を焼き野原にする。」
なんて酷い脅しなんだ。
流石にピーマン1切れとこの街は引き換えにはできない。
やはり、野菜の最難関はピーマンなのだろうか。
肉の串を渡すと、ご機嫌でかぶりつく。
「肉は最高だな。葉の串など、金が持った無い。」
「口の周り、汚れてるよ。」
俺がマオの口の周りを適当に拭いていると、急に走り出した。
「ちょっと、急に走ったら危な……」
「お前、こんなところで何をしてる!?」
マオは、呑んだくれている男の背後から声をかけた。
「ああ?お前みたいなガキがなんの用……、ええ!?まおう……」
「わー!!!」
「魔王様」と言いかけているところで、俺は男の口を塞ごうとし、男もマズイと思ったのか自分の口を手で押えていた。
俺は辺りを見回す。
屋台からの掛け声、客の笑い声でかき消されていたようだ。でも、危なかった。
男は急に低姿勢になり、「魔王様がこんなところでなにやってるんです?」と小声で話す。
「魔王と呼ぶな、今はおマオと名乗っておる。
訳あってこいつと旅をしておるのだ。」
マオは俺に指を指しながら説明していた。
人に指を向けちゃいけません。
「ど、どうも……。」
「なんで、こんな弱っちそうなのと一緒なんです?」
今から強くなる予定だよ!悪かったな……。
「こいつは、今我の1番使える部下だ。って、そんなのとはどうでもいい。お前こそなにやってる?」
俺は違和感があった。
マオとこの男が知り合いなら、男は魔族ということになる。でも、ツノもないし人間としか思えない。
「ところでマオ、この人と知り合いってこと?」
俺は2人の会話に水を差す。
「セラ、こいつはこんなんだが、列記とした魔族ぞ。」
「あー……えっと、俺ァはウェアウルフ族のラブンです。魔、マオさんに以前仕えていたことがあって……。」
"1番使える部下"が効いたのか、俺にも敬語になった。
ウェアウルフ、「化ける狼」か。
人や動物、魔物などあらゆるものに化けて騙す種族だ。
本当に人間と遜色なくて、街中にいてもこりゃあバレなかったわけだ。
「で、なにをやってたんだ?」
マオに詰められてラブンは視線を泳がせながらも教えてくれた。
「俺ァはちょっと前からこの辺に住んでるんですよ。
もちろん、ウェアウルフってのは黙ってて。
街でブラついてたら、すげぇ美人と仲良くなって……
今日はデートだったんです。
だから待ってたんですけど、全然来なくて。
それで、酒を……。」
「フラれたんだ……。」
「フラれたのか……。」
「そんな目で見ないでくださいよ!魔、マオさんまで!」
ラブンの身なりはどこか洒落ていて、気合いを入れてきたのがわかる。
でも、相手は現れずここでやけ酒してたのか。
哀れだな。
「いいんです!どーせ俺ァみたいなのはモテねーですよ!」
ラブンは一気に酒を煽る。
「そんなに美人さんだったんだ?」
「そりゃあ美人ですよ、この街で1番綺麗なんですから。」
高嶺の花にアプローチするなんて根性あるなぁ。
「でも、真面目な人だったし。俺ァに何も言わないなんて……やっぱり事件の気も……」
「フラれたのに見苦しいぞ。」
マオ、慰めてやらないタイプか。
どんどん塩塗ってるしな。
「いや、あながち間違ってないかもよ?」
「セラ、こいつを慰めてもな……。」
マオは言いかけて、ハッとした表情になる。
「まさか……」
俺は、ラブンに尋ねる。
「ねぇ、ラブンはどこでその人と会う予定だったの?」
「裏通りで……あそこなら俺ァのウチも向こうのウチも近いからって……」
裏通り……。
「お前!なんでそんなところで落ち合う約束なんかしたんだ!」
「いや、ですから、家が近いからって……」
まずいかもしれない。
ラブンがフラれた可能性はかなり高いが、
ラブンが言う裏通りは、オークション会場が近そうだった。
「誘拐されたかもしれんな……」
「その可能性があるね……」
「ええ!?早く助けに行かないと!」
マオはラブンに落ち着けと頭をひっぱたいた
次回は23時半ころ、投稿できればと思っています。
何卒よろしくお願いします。