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11話 着、ガイエテ

「やっと着いた・・・」

途中、稽古も挟んだ影響で午前中に着くところを、結局昼過ぎになってしまった。


ガイエテは俺の記憶の通り賑わっていた。

フートもいい村だったけれど、ガイエテは人もたくさんいるし、店も多い。

住む街というより、観光する街という感じが強い。


「疲れた、もう歩きたくない・・。」

「宿を探そうか。」


えーと、宿、宿・・・。


安い宿に入ろうか、少し高めの宿に入ろうか悩む。

安い宿は寝床だけで、基本ご飯は出てこない。

高い宿はご飯付きで、外出が少なく済むのが利点だ。


歩きながら良さそうな宿を見繕う。


「失礼ですが、セラヴィー殿ではありませんか?」


後ろを振り返ると、2人の男性がいた。

背はどちらも高く、腰に大剣があるのが見えた。


「えっと・・?」


俺なんかしたっけ。

まだガイエテに入って10分も経っていない気がするんだけど。


「失礼しました。私たちはガイエテ警備隊です。セラヴィー殿と・・、そちらのお嬢様はマオさん、であっているでしょうか?」


2人は敬礼してくれた。


「は、はい。」

「うむ。」


各々で返事をする。


「実は例の件で、もしセラヴィー殿が来たら協力をお願いしてほしいとフートから連絡がありまして。」

「そ、そうだったんですね。でも、俺たちのことよく分かりましたね。」


俺と似たような人も、マオと似たような子供もたくさんいた。

フートの警備隊の人は、俺たちの特徴だけを伝えただけだろうから、顔まではよく知らないはずだ。それなのに、どうして俺たちってわかったんだろ。


不審に思っているのがわかったみたいで、警備隊の男性が頭をかきながら言い辛そうに

「こう言ってはなんですが、青年と子供の2人で旅をしているなんて、ちょっと珍しいですから。」と教えてくれた。

やっぱり、珍しいよな。


「よろしければ、お時間ありますでしょうか。詰所でお話を伺いたいのですが・・。」


今日は疲れているから断ろうと思ったけれど、マオが「セラ、行くぞ」と言うのでそのまま詰所に向かった。

本当は休みたかったんだけどな。


「では、隊長を呼んで参りますのでこちらでお待ちください。」

詰所の客間と思われる部屋は広く、2階にあるため眺めが良かった。


「申し訳ありません。お待たせいたしました。」


そう言いながら1人の男性が入ってくる。

俺は、ムキムキで強そうな人を連想していた。

しかし、入ってきた男性はふくよかな体で、小柄だった。


わたくし、ガイエテで警備隊隊長を務めております、プランプと申します。」


俺とマオも挨拶がてら簡単な自己紹介を済ます。


「ささ、まずはこちらのお茶をお飲みください。」


運ばれてきたカップとソーサーは品がよく、見るからに良い茶器だった。

今回はマオも一緒に紅茶を飲んだ。


「美味いな」

マオが呟くと、プランプは満足そうな顔になる。


俺も一口飲む。美味しいとは思ったが褒めるほどか?と思った。


「お嬢さんは中々、舌が肥えていらっしゃるようだ!こちらは遠方の方から取り寄せたいい茶葉なんですよ。」

「そ、そうなんですね、美味しいです。」


もしかしたら、フートで出されたお茶とは全然違うのかも。

でも俺にはお茶の良し悪しはわからない。

マオって本当にすごいな。


「本日は例の件で来てくださったと聞いております。」

「はい、フートで頻発していた誘拐事件に関わるオークションがガイエテで行われていると聞きまして。」


俺は事件の詳細と、フートで教えてもらったことを伝える。

プランプは「それは災難でしたね」と労いの言葉をかけてくれた。


「それで、俺たちに何かお手伝いできることはありますか。」


手伝いたい気持ち半分、社交辞令が半分みたいなことを言ってみた。

この警備隊の人たちが本格的に動いたら俺たちにできることなんて高が知れている。

それでも、何か手伝えることがあるかだけでも聞いとこうと思ったのだ。

ゴブリンの仲間も助けたいしな。


「実はですね・・・大変言いにくいのですが。」


会った時からやけに腰が低いと思っていたが、それが確信に変わる。


「セラヴィー様主体で犯人を捕まえていただきたいのです・・・。」


俺は紅茶を吹き出してしまった。

マオに「汚っ」と言われ少々傷ついたのは置いといて。


「どういうことですか!?」


オークション会場にはどんな組織がいるかわかったもんじゃない。

かなりの危険が伴うだろう。

易々と請け負うわけにはいかない。


「その、今まで黙認していた会場に急に踏み込みますと・・・、その・・・貴族の方からのお叱りが免れないだろうと・・・。」


そういうことか。

つまり、「今まで黙認していたくせに急に捕まるなんてどういうことだ、警備隊なんて無くなったっていいんだぞ」と貴族からの圧力がかかるのが怖いってことだ。


俺もだが、マオも流石に怪訝な顔になる。


「も、もちろん我々もお手伝いいたします。」


いや、そこはそっちが主体にやってよ!と言いたくなるのを堪える。


「私が説明させていただいてもよろしいでしょうか。」


プランプの御付きの人だろうか。

軽く手を挙げ、咳払いをした。


「セラヴィー様には、会場で何か騒動を起こしていただきたいのです。そこで『通報があった』という体にして我々警備隊が踏み込む。

会場に入ると『不正な取引をしている会場だった』ことがわかり、そのまま捕縛にかかるという流れで、お力添えいただけないかと。」


そのくらいならできるかも・・・。

ただ、騒動ってどのくらいで良いんだろうか。


「ああ、騒動でしたら、もしよろしければ会場を火で焼くなどしていただいて構いませんよ。」

「ちょっと、スクラくん!そんなことしたら大変だよ!」


作戦を説明してくれたスクラという人はかなりズバズバものを言う性格のようだ。

というか、若干苛立っているように見える。


「ところで、セラヴィー様は冒険者ランクはどれくらいですか?」

「・・・Cです。」


プランプとスクラは目を点にし、気まずい沈黙が流れる。


冒険者ランク、それはD→C→B→A→SとなっていてSが一番高いランクだ。

大体はみんなBランク。

D→Cは、冒険者に登録して一年以内に依頼を成功させる。もしくは2年ほど大きな事故・病気に罹らなければ自動的に上がることができる。

つまり、俺はペーパー冒険者と言ったところだ。


「そ、それでしたら、ランクを上げていただくつもりでご協力をお願いできればと!」


プランプは豪快に笑う。

それが気遣いであるのは痛いほど沁みた。

スクラなんて「こいつで本当に大丈夫かよ」的な顔をしている。


「任せろ、こいつはやれる。」


マオが真剣に言い放った。


「その代わり、作戦が成功し、こいつの力が証明できた時にはそれなりの報酬を頼む。」


マオは魔王らしい笑みを浮かべていた。


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