10話 諦めた強さを
人助けをして気分は良いものの、予定からはだいぶズレていた。
気づけば夕方だ。
しかし、ガイエテまではまだ少しある。今日は野宿になりそうだ。
マオは「地べたで寝れるか!」と怒られたが、
「だって、着かないんだならしょうがないでしょ。」と納得してもらうしかない。
夕飯も適当に済ませ、マオは就寝した。俺は買った剣で素振りをしていた。
どうしたら強くなれるんだろう。まあ、徐々にやって行けばいいか。
翌朝、ガイエテまでは残りわずかとなった。
「おい、セラ」
珍しくマオから話かけてきた。
「お前強くなりたくないか?」
えっ、何その悪い誘いみたいなの。
「強くはなりたいよー。マオを守れるくらいにはさ。」
笑って誤魔化す。
「なら、我がお前を強くしてやる。もちろん、我を殺さない程度だがな」
歩いていたのに、俺たちは向あわせになった。
マオは何か魔法を唱えている。
ユラユラと現れた人物は剣を携えていた。
「これは300年前の“勇者”と呼ばれた男を模したものだ。」
えっ!すごい!握手したいかも!
「何を呆けている。お前は今からこいつと戦うんだぞ。」
「いや、無理でしょ!死んじゃうよ!」
「安心しろ。傷は負わん。……が、気をつけろ。当たればかなり痛いぞ?」
マオの説明が終わるや否や、幻影は間合いを詰めてきた。
もちろん、俺は対応しきれない。
幻影の剣は、俺の右脇腹から左肩にかけて弧を描くように斬った。
無駄の一切ない洗練された太刀筋だった。
俺は耐えられない痛みに剣を落とし、蹲る。
これが本物だったら間違いなく致命傷だ。
「セラ、お前は弱い。」
そんなこと言われなくてもわかってる。
「だが、お前の場合それは問題ではない。」
マオは俺のそばに来る。
「我を取り戻した時も、昨晩のアーキルフラワーと戦った時も、お前の動きは悪くはなかった。我が手助けしたのもあるが、己でなんとか立ち向かえただろう、」
風が流れる。
マオと会話していて怖いと思ったのは、初対面以来だ。
「お前の問題は、強さを諦めていることだ。」
やめてくれ。
ずっと言われたくないことだった。
「お前は強くなれないことに納得し、動けないでいる。違うか?」
言われたくない。
頭に血が上るのがわかる。
「うるさい!言われなくてもそんなことわかってる!
俺は・・・、俺は強くなんかなれない。何をやっても。」
「そうか。」
マオと会う前に守りたいもはあった。
仲間だと思える存在が。
でも、できなかった。俺には才能がない。
勇者のように人を導く力も。
心の強さも、判断力も。
何もかも劣っている。
だからこんな弱くて情けない奴なんだ、俺は。
「だが、お前には強くなってもらわなくてはならん。」
「なんでそんなに期待するの?正直に言うけど鬱陶しいよ。」
俺は強くなりたい。
でも、マオの足を引っ張らない程度でいい。
なんなら、旅をするのにマオが俺を邪魔だと言うのなら、俺は身を引いたっていい。
「セラ、お前は私と同じ目を持っている。これは歴代の勇者とは違う。」
「目ってどういうこと?違うって何が・・。」
マオは少し笑う。
なんだろう。
この笑顔を見ると不思議と懐かしさみたいな気持ちが湧き上がるのは。
「今は詳しくは話せん。ただ、お前は強くなれる。必ず。強くなってもらわなくては困るのだ。」
「マオ、今日はまだ時間があるから稽古に付き合ってよ」
俺は「よっこいせ」と立ち上がる。
情けない自分でいるのは今が最後だ。
必ず強くなって、そして。
「いつかはマオも超えちゃうからね」
「ふん、100万年早いわ。」
お読みいただきありがとうございます。
次回からガイエテ編に入ります。