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クロの黒歴史  作者: 小笠原慎二
14/16

会場

妙子目線となります。

「お母さん、お母さん」

「はっ、あれ? いつの間にこんなところに?」


比較的倒壊の少ない住宅地に妙子と闇使は立っていた。足元にはクロもいる。


「あっちだって。行こう」

「え? 何があっち?」


わけが分からない妙子を闇使が引っ張り、どこかへと急ぐ。クロも二人のすぐ後ろを走ってついてくる。

しばらく行くと、人がたくさん集まっている広場に出た。


「わ、何ここ。何かやってるの?」

「お母さん。あっちみたい。並ぼう」


長い行列の後ろに行儀よく並ぶ。先頭の方に目を向けると、何かをチェックし、何か紙を渡している。


「何やってるの? ここ」

「あれ。あれに入るのに抽選してるんだって」


闇使が指さす方に目を向ければ、巨大な壁。


「あれに入る? あれなあに?」

「巨大なシェルターなんだって。あそこに入れれば、魔物から襲われなくなるんだってさ」

「そうなんだ…」


妙子にしてみれば、何故闇使がそんなことを知っているのだ?という疑問が湧き出てくるのだが、いきなりの状況の変化にまだ頭がついていけていない。

ぼやっとしている間に列は進み、順番が回ってくる。


「はい。ではこちらに手をかざして」


丸い水晶のようなものを差し出される。

妙子が促し、闇使が先にそれに触れた。途端に光が溢れる。


「な、なんて魔力だ…」

「すごい…」


周りから羨望の眼差しが降り注ぐ。しかし闇使はそんなことも気にせず、心配そうに妙子を見上げる。

妙子はちょっとだけ笑い、差し出された水晶のようなものに手をかざした。なんの反応もない。


「君は、これ。あなたは、これね」

「あ、あの、お母さんなんです! 僕と一緒に入ることは出来ないんですか?」

「…すまないね。規則なんだ」


防衛隊と思しき人が闇使には黄色い紙、妙子には白い紙を渡してきた。それぞれにアルファベットと番号が書かれている。

それでなんとなく妙子も理解できた。魔力のないものは(ふるい)にかけられているのだ。

そこをすり抜けると、また人が集まっている所に出る。


「黄色い紙の方はこちら。白い紙の方はあちらです」


また防衛隊の人が声を張り上げて人を分けている。


「お母さん…」

「闇使。大丈夫よ。抽選で当たればあたしも入れるみたいだし。あなたはあっちに行って」

「やだ。お母さんと一緒じゃなきゃやだ!」

「闇使。大丈夫よ。お母さんくじ運強いんだから!」


にっこり笑って闇使を見れば、闇使は不安そうな顔をしながらも頷いた。

近くにいた防衛隊の人に声をかけ、闇使を連れて行ってもらう。闇使は不安げな顔をして、見えなくなるまで妙子を見つめていた。

軽く手を振りながら闇使を見送っていた妙子。闇使の姿が見えなくなると、途端に不安になってくる。


(本当に抽選、当たるかな…。当たらなかったら、あたし…)


闇使と離されてしまう。そんなことは絶対に嫌だ。


「クロ?」


足元でチョロチョロしていたはずのクロの姿も消えている。一人きりになると不安が増してくる。


(いやいや。まだ結果は分かってないんだし!)


両手で頬を叩き、指示されている方向へ足を向ける。

きっと大丈夫。きっと大丈夫。自分にそう言い聞かせながら。


「Aはこちら。B以降まで指定の場所まで行ってください!」


防衛隊の人が声を張り上げている。

アルファベットで組み分けもされているようで、妙子は紙に書いてある場所へと向かう。


(Hか、一番向こうか)


区分けされている場所へと向かいながら、妙子はキョロキョロ辺りを見回す。


(誰か、知ってる人でもいないかな?)


五年も人のいる場所から離れていたのだ。知り合いがどうなったのかも知りたい。

家の近所の人達とか、蘭子や美鈴などがまだ生きているのか。

多分だが黄色い紙は魔力持ち、白い紙は魔力なしの区分けがされていると思うので、蘭子や美鈴もいるのではないかとあたりを見回すが、それらしき姿はなかった。

まさかとは思うが、嫌な考えが浮かんでしまう。

妙子は頭を軽く振り、指定の場所へ歩を進める。

指定の場所までやってくると、黄色い紙の人達が集められた方向から何か重いものが動く音がした。

人の波が動き、壁の中へと吸い込まれていく。黄色い紙の方ではもう抽選が行われたのだろうか?


(でも皆魔力持ちなら、抽選なんてしないかもね)


黄色い紙を持っているだけで中に入れそうだ。とにかく闇使だけでも安全な場所へ行けるのだろうと思うとほっとした。できれば自分も同じ場所へ行きたいが…。


(どうか抽選に選ばれますように…)


祈ることしかできない。

検査と抽選の紙を渡す場所では、だんだん人が少なくなってきている。妙子が来たのはだいぶ遅かったようだ。白い紙選別の場所には人が溢れている。

大分前に来たと思われる人達などは、地面に座り込んでいた。長い時間待っているのだろう。

中に入れるか否かで今後の生活がガラリと変わるのだ。命の保証された生活と命の保証のない生活。皆祈るように白い紙を手に持っている。

黄色い紙の集団は壁の中へと入って行っている。白い紙の者達はそれを羨ましそうに見ている。


(若い人が多いかも…?)


黄色い紙の集団は若い者達が多かった。魔素に適合しやすいためかもしれない。白い紙の集団はどちらかというと年上の者達が多い。年を取るほどに魔素に適合しにくいらしい。

もちろん若くても適合しない者もいる。妙子のように。


(あたしにも魔力があったらいいのに…)


防衛隊に入らなければならないのは怖いが、闇使と共に今頃あの壁の中へ入れたかもしれない。

もし闇使と離れ離れになってしまったら…。


(闇使は賢い子だけど、まだ甘えん坊なのに…)


大人びた言動や振る舞いをすることはあっても、まだまだ甘えたい盛り。妙子の膝をめぐってクロと張り合っていたものだ。

側にいてやりたいが、魔力をほぼまったく持たない妙子は、無事に中へ入れるのだろうか。


(いやいや、入れるって。信じろ、信じろ)


白い紙を握りしめ、妙子は湧き上がる不安を押さえつけようとする。


(そういえば、クロは?)


こういう時いつも側にいる黒猫の姿がない。どこかへ行ってもちゃんと帰ってくる良い子なのに。

この人混みで迷子になっているのかもしれない。妙子は辺りを見回すが、あんな小さな存在を人混みの中から探し出すのは困難だ。


「クロ~…」


小声で呼びつつ、少し人混みから外れる。この方がクロも見つけやすいかもしれない。

今さらだが中に猫を連れて行けるのだろうか? そんな疑問が浮かぶが、なんとなくあの子なら人の目をサラッとすり抜けて中に入っていそうな気もする。


「闇使について行ったのかな?」


よく闇使の面倒をみてくれていたクロ。もしかしたら闇使の心配をしてくれて、一緒に行ってくれているのかもしれない。それならそれで心強い。


(なら、あとはあたしだけか!)


絶対入らなきゃ! と深呼吸をした。


「ぎゃああああああああ!!」


突如、後ろの方から悲鳴が聞こえた。


「うわあああ!」

「きゃあああ!」


続く悲鳴が近づいてくる。

何事かと顔を向けるが、勢いよく迫ってくる人達しか見えない。


「え、え、何?」


慌ててその人達に押しつぶされないようにと走り始めるが、遅かった。ぶつかられ、よろけてまたぶつかられ、足をとられて転んでしまう。


(怖い!)


咄嗟に体を丸める。まだ駆けてくる人達がいたはずだ。踏みつぶされないようにと体を強張らせるが、特に衝撃はなかった。


(助かった?)


恐る恐る目を開ける。


「助げで…」


目の前に顔がぐしゃぐしゃになった人がいた。


(え?)


その人が消えた。空に。

違う。魔物の腕に捕らえられ、持ち上げられたのだ。

見ればそこにはあのおぞましい姿の魔物がいる。振り上げられた手は勢いよく下げられ…。


ぐしゃっ


嫌な音がする。

地面に叩きつけられたのだ。

もう一度持ち上げられた。また叩きつける気だ。腕が弧を描き、こちらへと動く。人が降ってくる。分かっているのに体が動かない。このままあの人が自分に叩きつけられたら、どうなるかなど…。


(助けて…)


もの凄い衝撃を感じ、妙子は意識を手放した。


お読みいただきありがとうございます。

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