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If  作者: 亥口一人
3/3

End If

「同期会じゃなかったの?」


'//いずれにせよ帰結する先は


 居酒屋に着くと、店員に「二名でご予約の小林様ですね」と言われ、席に通された。

「同期会だよ、二人しか参加してないってだけで」

 僕の質問に対し、悪びれる様子もなく、奈津子さんは答えた。

 なるほど、たしかに、サシ飲みと同期会は、共存し得るのか。

 

「とりあえずさ、今日は金曜日だし、山本君も一杯くらい飲んでよ!」

 奈津子さんは席に着くなり、僕にメニューを渡してきた。先にメニュー見ていいですよ、という感じではない。私はもう決まっているから、メニュー要りません、とでも言いたげな押し付け方だった。

 僕は渋々受け取り、レモンサワーを注文した。奈津子さんは、もちろん、生ビールを注文した。

 

「急にサシ飲みなんて、どうしたの?」

 僕は、レモンサワーをちびちびとすすりながら、尋ねた。

「うーん、当ててみて?」

 河北さんとアイゼックは、僕らとはチームが違う。僕だけを誘うということは、チームに関係した、相談事でもあるということだろうか。

「吉井君に手を焼いている、とか?」

「うーん、まあ、それも割とあるねー」

 彼女はそう言うと、ビールをごくごくと飲んだ。

 

 奈津子さんは酔うと饒舌になる。感情がより一層豊かになる。

 だけど、暴言を吐くようなことはない。

「新人教育に時間を取られて、自分の仕事が進まない」と嘆いたとしても、「吉井君の覚えが悪い」とか「吉井君の仕事が遅い」とか、そんなことは一切口にしない。

 喜怒哀楽のうち、喜哀楽だけが増幅されるようだった。

 それで、どうやら今日は、哀が強い日らしい。

「はあー、山本君が先輩だったらなー」

 奈津子さんは、テーブルの上で空のジョッキを握りしめながら、盛大なため息をついた。。

「僕が? なんで?」

 話の急激な方向転換に戸惑いながら、尋ねる。

「山本君って、私なんかより全然この業界長いでしょ? あー」

 彼女はなおもジョッキを握りしめながら、テーブルに突っ伏した。腕と机で囲まれた空間の中で、小さな声で叫んでいる。

「一瞬でも先輩面しようとしてた自分が恥ずかしい、あー。山本君、博識なんだもん、私も山本先輩に、コードの書き方とか教えて欲しかったよ……」

「別に、後輩に聞いたって、いいでしょ……」

 僕がそう言うと、奈津子さんは右腕の上からちょこっと顔をのぞかせて、口を尖らせた。

「でも私、先輩面しちゃったんだもん。無理だよ」

「そういうもの?」

「そういうものなの! あーあー先輩なら甘え倒すし、もっとちゃんと後輩なら手取り足取り教えたのになー。同期ってどうすれば良いんだろ、同期会するしか思いつかない」

 彼女は瞼を閉じて、寝言のようにぶつくさと言った。

 いよいよ酔いが回っているようだった。

「奈津子さん、寝ちゃだめだよ。そろそろ帰ろう」

「やだ! 山本君のお酒、まだ半分以上残ってるもん! 山本君だけ酔ってないなんてずるい!」

 僕のレモンサワーは、なんとか半分くらい減らしたつもりだったが、いつの間にか氷が溶けきり溶液が嵩を増していた。

「僕まで酔ったら、奈津子さんを送れないでしょ」

「山本君ずるい……。じゃあ、また私と、同期会してくれる?」

「するする」

「サシ飲みもしてくれる?」

「うん、するよ」

「じゃあ私たち、とりあえず、飲み友達にはなったってことだよね?」

「まあ、そういうことになるのかな」

「じゃあ、今日はそれでいいかー……」

「じゃあ、帰ろう」

 テーブル毎に設置された注文用のタッチパネルを手に取り、「お会計」ボタンをタッチする。

 と同時に、左頬に柔らかいものが触れた。

 え? と隣を見ると、奈津子さんがきれいな歯を見せて笑っている。

「えへへ、飲み友達よろしくのチュー」

「…………」

「わーい、山本君が赤くなったところ初めてみたー」

 奈津子さんは、なんというか――そう、小学校で同級生だったガキ大将に似てる。それくらい無邪気な顔で笑っていた。僕は、ゴホン、と咳ばらいをして取り繕う。

「僕は、アルコールに弱いんです」

「飲み友達なら、山本君のことを落とせる気がしてきたー!」

「はいはい、帰りますよ」

 

 お会計を済ませた僕は、奈津子さんの腕を引いて、最寄り駅を目指す。

 隣の奈津子さんは、僕の先輩で、同期で、飲み友達で――――まあ、考えるだけ無駄か。

読んでいただき、ありがとうございました。

プログラミング言語(Visual Basic for Applications)のIf構文をテーマに書かせていただきました。

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