End If
「同期会じゃなかったの?」
'//いずれにせよ帰結する先は
居酒屋に着くと、店員に「二名でご予約の小林様ですね」と言われ、席に通された。
「同期会だよ、二人しか参加してないってだけで」
僕の質問に対し、悪びれる様子もなく、奈津子さんは答えた。
なるほど、たしかに、サシ飲みと同期会は、共存し得るのか。
「とりあえずさ、今日は金曜日だし、山本君も一杯くらい飲んでよ!」
奈津子さんは席に着くなり、僕にメニューを渡してきた。先にメニュー見ていいですよ、という感じではない。私はもう決まっているから、メニュー要りません、とでも言いたげな押し付け方だった。
僕は渋々受け取り、レモンサワーを注文した。奈津子さんは、もちろん、生ビールを注文した。
「急にサシ飲みなんて、どうしたの?」
僕は、レモンサワーをちびちびとすすりながら、尋ねた。
「うーん、当ててみて?」
河北さんとアイゼックは、僕らとはチームが違う。僕だけを誘うということは、チームに関係した、相談事でもあるということだろうか。
「吉井君に手を焼いている、とか?」
「うーん、まあ、それも割とあるねー」
彼女はそう言うと、ビールをごくごくと飲んだ。
奈津子さんは酔うと饒舌になる。感情がより一層豊かになる。
だけど、暴言を吐くようなことはない。
「新人教育に時間を取られて、自分の仕事が進まない」と嘆いたとしても、「吉井君の覚えが悪い」とか「吉井君の仕事が遅い」とか、そんなことは一切口にしない。
喜怒哀楽のうち、喜哀楽だけが増幅されるようだった。
それで、どうやら今日は、哀が強い日らしい。
「はあー、山本君が先輩だったらなー」
奈津子さんは、テーブルの上で空のジョッキを握りしめながら、盛大なため息をついた。。
「僕が? なんで?」
話の急激な方向転換に戸惑いながら、尋ねる。
「山本君って、私なんかより全然この業界長いでしょ? あー」
彼女はなおもジョッキを握りしめながら、テーブルに突っ伏した。腕と机で囲まれた空間の中で、小さな声で叫んでいる。
「一瞬でも先輩面しようとしてた自分が恥ずかしい、あー。山本君、博識なんだもん、私も山本先輩に、コードの書き方とか教えて欲しかったよ……」
「別に、後輩に聞いたって、いいでしょ……」
僕がそう言うと、奈津子さんは右腕の上からちょこっと顔をのぞかせて、口を尖らせた。
「でも私、先輩面しちゃったんだもん。無理だよ」
「そういうもの?」
「そういうものなの! あーあー先輩なら甘え倒すし、もっとちゃんと後輩なら手取り足取り教えたのになー。同期ってどうすれば良いんだろ、同期会するしか思いつかない」
彼女は瞼を閉じて、寝言のようにぶつくさと言った。
いよいよ酔いが回っているようだった。
「奈津子さん、寝ちゃだめだよ。そろそろ帰ろう」
「やだ! 山本君のお酒、まだ半分以上残ってるもん! 山本君だけ酔ってないなんてずるい!」
僕のレモンサワーは、なんとか半分くらい減らしたつもりだったが、いつの間にか氷が溶けきり溶液が嵩を増していた。
「僕まで酔ったら、奈津子さんを送れないでしょ」
「山本君ずるい……。じゃあ、また私と、同期会してくれる?」
「するする」
「サシ飲みもしてくれる?」
「うん、するよ」
「じゃあ私たち、とりあえず、飲み友達にはなったってことだよね?」
「まあ、そういうことになるのかな」
「じゃあ、今日はそれでいいかー……」
「じゃあ、帰ろう」
テーブル毎に設置された注文用のタッチパネルを手に取り、「お会計」ボタンをタッチする。
と同時に、左頬に柔らかいものが触れた。
え? と隣を見ると、奈津子さんがきれいな歯を見せて笑っている。
「えへへ、飲み友達よろしくのチュー」
「…………」
「わーい、山本君が赤くなったところ初めてみたー」
奈津子さんは、なんというか――そう、小学校で同級生だったガキ大将に似てる。それくらい無邪気な顔で笑っていた。僕は、ゴホン、と咳ばらいをして取り繕う。
「僕は、アルコールに弱いんです」
「飲み友達なら、山本君のことを落とせる気がしてきたー!」
「はいはい、帰りますよ」
お会計を済ませた僕は、奈津子さんの腕を引いて、最寄り駅を目指す。
隣の奈津子さんは、僕の先輩で、同期で、飲み友達で――――まあ、考えるだけ無駄か。
読んでいただき、ありがとうございました。
プログラミング言語(Visual Basic for Applications)のIf構文をテーマに書かせていただきました。