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If  作者: 亥口一人
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Else

「奈津子ちゃんに教えてもらってちょうだい」


'// 山本 = "奈津子さんの同期" が成り立たない場合


 小林さんが言った。

 ここでいう小林さんは、小林美和さんのことだ。

 僕は入社して一年経つし、新卒入社したわけでもない。にもかかわらず、小林さんは僕のことをいつまでもルーキーのように扱う。「奈津子ちゃんに聞いてちょうだい」と言われた方が、僕としてはしっくりくる。

 でも、どうやら僕は、周りから随分と頼りなく見られているらしい。先日ほろ酔いの河北さんにも「山本君はちょっとぽやっとしているように見えるからね~」と言われた。

 そんな僕とは対照的に、奈津子さんは、しっかりしたお姉さん、という立ち位置を確立している。

 ちょっと心外ではあるが、奈津子さんの隣の席の僕が頼りなく見えてしまうのは、必然なのかもしれない。

 

「奈津子さん、今ちょっと良い? 小林さんに、奈津子さんから教えてもらうように、言われたんだけど」

 僕は自席に戻ると、隣の席でキーボードを叩いている奈津子さんに話しかけ、事の経緯を説明した。

「ああ、美和さんに? わかった、マニュアルのフォルダのパス、メールで送るねー」

「ありがとう」

 こういう時、奈津子さんは極めて効率的だ。僕は業務手順を「教えて」ほしい、と言ったわけだけど、彼女はさっとマニュアルを手渡す。

 実際、僕としてもこうしてくれる方がありがたい。じっくりと理解しながら作業をする方が、僕には合っている。

 だけど、とちらりと横を見る。

 

 彼女は、この春入社したばかりの吉井君に対しては、手取り足取り、といった風だ。

 気付けばまた吉井君の席に行き、彼のパソコンのディスプレイを指さしながら何やら話込んでる。

 

 まあでも、大変そうだな、とは思う。

 先日彼女は部長に呼びだされていたが、どうやら吉井君の教育に関する話だったらしい。

 困ったことに、仕事というものは、できる人にどんどん割り振られていくものなのだ。

 彼女を新人君の教育係にした部長の気持ちは、まあわかる。

 

 そういえば、僕が入社したばかりの頃の奈津子さんは、「なんでも聞いてね」と、僕に対してもちょっと先輩風をふかしていた気がする。

 でも、あんな風には教えてくれなかったな。

 僕は奈津子さんの後輩と言っても嘘ではないはずなのだが、後輩としてのうまみというものが全くない。

 うまみってなんだ、と自分でつっこみたくなるが、吉井君が鼻の下を伸ばしているのを見ると、なんだか憎らしい気持ちになる。

 吉井君は僕よりもはるかに頼りない奴なのだが、なんだろう、何かずるい立ち位置にいるのだ。

 

 僕がパソコンにかじりついていると、彼女が戻ってきた気配を感じた。

 椅子に座り、ふう、と軽く息をつき、キーボードをガチャガチャと叩く。

 ほどなくして、僕のパソコンのチャットアプリがピコンと光った。

 

『おつかれさまでうs。山本君、明日飲みにいける?』

『また同期会?』

『そう、同期会』


 明日か。明日は金曜日だから、ちょうどいいか。

 彼女が明日早く帰れるように、今日の僕は手のかからない後輩として、頑張ろう。

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