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遭遇者は学園都市で繋がりたい

 奇妙な事に気が付いたのは数えて五回目のデートが失敗に終わってからだった。


 あの角で交際が始まり半年が過ぎていた。

 我ながら、気付くのが遅すぎた。




 初めてのデートの約束の日、私は盛大に寝坊してしまった。

 期待からの興奮で寝付けなかった。着て行く服に袖を通し、この姿を見たらどう反応するかなど妄想に身をよじらせていたのも含め、ああ、今思い出しても恥ずかしい。


 先輩はずっと待っていてはくれたんだけど、行きたかった店は既に閉店時刻。

 産まれて初めてのデートがこんな結末になるだなんて、恋に恋した幼きわたしに申し訳が立たない。



 二回目のデートは、先輩が現れなかった。

 やられた行為をやり返そうとする人じゃないはず。何か理由があるのだろう。息を切らせて現れるのか、それともサプライズの準備に手間取ったのか。来るのが楽しみだった。

 だが、いくら待とうと先輩は現れなかった。

 これは自分への罰だと耐えた。雨が止まぬ中、待ち合わせの場所で待ち続けた。


 待っているうちに、特別学級の眼鏡の少年に傘を貰ってしまった。

 彼の話した何気ない世間話が、先輩がここに現れない理由を説明してくれた。


 待ち合わせの時間より少し前の頃合いに、突然現れた暴れ牛の群れから老婆を庇った大柄の男子生徒が居た。その際、うっかり牛の骨を折ってしまって飼い主が猛烈に怒り出した。どうも口下手らしく、上手く話せないことから警備隊の事務所に連行されていったという。



 何度もデートの約束を取り付けるのだけど、その度に何かしらのトラブルが起きる。学校以外で出会う事ができない。先輩と唯一出会う事ができるのは、校門前だけ。



 こんなに近くにいるはずなのに、これではまるで遠距離恋愛だ。

 このままでは二人の気持ちが離れてしまうと危ぶんだ。

 どうにか一度でも成功させねばと考えるのだけど、いい案が浮かばない。出会いなど、私には無いけど先輩は違う。厳つい体格に秘めた大きな優しさを知れば、餌に群がる鯉のように乙女たちが寄ってくるはずだ。

 取られたくない。先輩は私だけの先輩で居て欲しい。




 廊下で出会えなくなってからは、校門前は私たちの逢引の場所となっていた。

 学園は学びの場でありながら出会いの場でもある。男女が共に居る事など珍しい事でもない。

 そこで先輩から手渡されたのは、一枚のガラス製の、中に何か機械のようなものが収められている板だった。


「スマホ。知らないか?」


 先輩の国では一般家庭にまで普及している携帯電話だと教えられた。

 携帯電話は知っている。だが私の知る携帯電話はこんな形をしていない。折り畳みで、片方が液晶画面、もう片方はプッシュボタンが並ぶ、小型のワイヤレス子機のようなものだ。


「これ、こう使う。」


 画面に触れれば表示された物が反応する。電話やメールだけでなくインターネットの閲覧や、音楽プレーヤー、動画鑑賞すらできてしまう。これは知っている。タッチパネルだ。だがこんなに小さいものは見た事が無いし、こんなに美しい液晶は見た事がない。それだけでなく、私の知る携帯電話の機能は全部入っている。なんだこれは、魔法か。魔法なのか。




 未知の技術に感動してしまったけれど、それを使うにあたって大きな障害がある。


 学園都市は携帯電話が使えない。電話局が無い。電波が無い。ここに持ち込むことはできるけど、肝心の機能が一切使えないのだ。

 電話回線を魔法で補う事はできるものの、学園都市の中では魔法を自由に使う事は許されない。

 恋の狩人たちの効率を上げる意味でも電話が使えればいいと思うのだけど、それができないのがこの学園都市なのだ。


「許可下りた。大丈夫。」


 先輩は、言葉を上手く話せない事を理由に、それを補助する為の魔法の使用許可をもぎ取ったという。

 そして都市全体を覆う探査の魔法を操る一人の教師の協力を得て、学園都市範囲内だけでのインターネット回線、専門的な呼称としてローカルエリアネットワークなるものを構築した。


 ここから先は先輩の話に理解が追いつかなかったけれど、とにかく、この携帯電話で繋がることができるんだそうだ。


「俺達の、専用。」


 なんてことだ。

 気持ちが離れてしまうのではないかと心配していたのは向こうも同じだった。

 先輩は、恋人らしい行動をしようと悩んだ私よりも先の視点を見ていてくれた。


 これがあれば、学園都市の中にいる限り、いつでもどこでも先輩の声が聞ける。

 声だけじゃない。文章を送りあう事もできるし、カメラを使ってテレビ電話まで出来る。なんだこのスマホなる板は。これはもう魔法だ。魔法以外で説明ができない。最高じゃないか。

 きっと高価なものに違いない。そんなものを使わせてくれるという太っ腹。嬉しいなんてもんじゃない。


 

 喜ぶ私を見下ろす先輩の顔は逆光でよく見えなかったけれど、たぶん、微笑んでいただろう。


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