黒い死の病と僧侶
コマンド魔法〔ステータス〕を唱えると、何も無い空間に青いウィンドウが開き、目の前の先輩冒険者のランクが表示された。
名前:マルコ・デル・デソート
冒険者ランク:Cランク
戦闘スキル:Cランク
白魔導スキル:Cランク
黒魔導スキル:Aランク
職人スキル:Eランク
「先輩、マルコさんてお名前なんですね。僕とたいして歳が違わないのに、冒険者ランクCなんてすごいです! しかも黒魔導スキルはAですよ」
「お前より4つも年上なんだが!」
「あ、でも僕なんか冒険者にすらなれなくて......」
僕は女神様から『恩寵』を貰えなかったことを説明すると、マルコ先輩に「ケケケケ」と笑われました。
「日頃の行いが悪いからそうなるのだ。いったいどうすれば『恩寵』が貰えないなんてことになるんだ?」
「思い当たることといえば、女神様の胸をつかんだくらいなんですけど......」
「? む・ね・を・つ・か・ん・だ?」
あ、やっぱりこのことは言わない方が良かったかな。マルコ先輩から禍々しいオーラが出てるし。先輩、黒魔導士みたいだし、なにかすごい黒魔導を発動しそうな雰囲気になってるし。
マルコ先輩は僕の胸ぐらをつかんで、
「胸をつかんだってどういう意味? お、お、俺なんか16年生きてきて女の子の手すら握ったことがないのだぞ! アラタ君、胸をつかんだってどういう意味なのかな?」
「きさま、親分に何してるんでやすか? 今すぐ親分を離すでやんす!」
用事ができたと言ってどこかへ行ってしまっていたベアー・サンジ・ドルザがちょうど良く戻ってきて、マルコ先輩を僕から引き離してくれた。
「親分? 親分とか意味が分からないが、こいつ女神様の胸をつかんだとか言ってるんです」
「親分のことをこいつ呼ばわりするのはあっしが許さねぇでやんすよ! 女神様の胸をつかんだから親分の胸ぐらをつかんでいたでやすか? 女神様というのは後ろにいる方でやすね? 確か今朝も親分の後ろにいたでやす」
なんだ。ベアーさんも女神様が見えていたのか。
「ベアーさん、ベアーさんを黒焦げにしたのはこの女神様なんです」
「親分、あっしに嘘はつかねぇでくだせぇ。しかし、美人の女神様でやんすねぇ。親分が胸をさわりたくなる気持ちはあっしはよくわかるでやんす。いや、あっしもね若い頃には随分とやんちゃをしたものでやんす」
「嘘じゃないですし、やんちゃのつもりでもないですし!」
その後もベアーさんは、あっしの若い頃は~とか、しかし女の子には優しくしなきゃダメでやんすとか、いきなり胸をさわるのはチカンでやんすとか言いましたが、僕はチカンのつもりでやったんじゃないんです。わざとじゃないんです。信じてください。
「親分、女神様の胸をさわるのもヤバイでやんすが、となりの町で『黒い死の病』が出たでやんす」
「『黒い死の病』?」
「そうでやんす。その病に罹れば、皮膚は黒くなりやがてドロドロに溶けてしまうでやんす。致死率は低いでやんすが、溶けた皮膚は一生治らないでやんす。悲惨な病気でやんすよ」
さっそく、ゾンダーク教の僧侶達が修道院病院へ『黒い死の病』の患者を収容しているという。
でも、ゾンダーク教の僧侶はいけ好かない連中です。