魔導書の中でひと眠り
今日も仕事です。冒険者ギルドの受付係です。受付の仕事のかたわら、護符やひのきの短剣を作っています。
この町をモンスターに襲わせようとしているのだ。と女神様が言いました。
「僕にどうしろと言うのですか?」
「(自分で考えるのだ。それにお前は王になりたいのだろう?)」
「え? あ、はい。僕は王様になりたいんです」
「(お前は、この町ひとつ救えずに王になりたいと言うのか?)」
そうでした。僕は王様になるんでした。王様になって僕を捨てた父親を見返してやるのです。左胸に紋章の入墨を彫り込んだ父親を絶対に許さないのです。母を殺させた父を絶対に許さないのです。
それにしても大量のモンスターが襲ってくるって、どうすればいいんだろう?
「マスター、マスターならどうとでもお出来になりますでしょう? 私も微力ながらお手伝い致しましょう」
「黒猫さん、どうとでもお出来にはならないと思うのですが」
「私が事前にこの町に【魔法陣・剣】をはっておきます」
【魔法陣・剣】て何でしょうか?
「黒猫先輩が魔法陣をはるのでしたら、私も【魔導結界・梅】をはらせていただきます」
【魔導結界・梅】って? それと白梅さん、黒猫さんのこと黒猫先輩て呼ぶんですか?
「ええ、黒猫先輩は魔導書の精の中でも憧れの存在ですので」
「そ、そうでしたか」
黒猫さん、見た目はただの黒猫なんですけど。たしかにもの凄い黒魔導を操る魔導書の精です。その魔導書の精の憧れの存在の黒猫さんは、なぜ僕のことをマスターと呼ぶのでしょうか?
「マスター、なぜってどういう意味ですか?」
「どういう意味ですか? って逆にどういう意味なんですか?」
「マスター、私は悲しいです。マスターは私のことをお忘れなんですね」
お忘れも何もこないだ出会ったばかりかと思うのですが。
「私は生まれてこのかた、アル様にお仕えする魔導書の精です。そもそも魔導書の精を創り出したのはアル様ではありませんか!」
「あ、あ、あの、たしかに僕はアラタ・アル・シエルナで、アル家の血を引いているんですが、黒猫さんがおっしゃっているアル様とは別人かと思いますが!」
「別人? どういうことでしょうか、意味がわかりません」
あ、たぶん、黒猫さん、僕のご先祖様と勘違いしているんだ。
「あの、黒猫さん、ジュノー太陽歴ってわかりますか? いまジュノー太陽歴3020年なんですけど」
「ジュノー太陽歴3020年!? 私が魔導書の中でひと眠りしているうちに1000年以上たってる!」
1000年以上? そんなに寝てたんですか!
「黒猫さん、おそらくたぶんそのアル様というのは僕のご先祖かと思います」
「そうでしたか、失礼いたしました。アル様はもうお亡くなりになっているのですね。それにしてもアル様にそっくり。ちょっと小さくなったかなとは思ったのですが」
「なので残念ながら僕は黒猫さんのマスターではないと思うのです」
「はい。新しいマスターということですね」
新しいマスターがアル様のご子孫の方で良かったです。と黒猫さんは言いました。




