冒険者の泉の女神様
この貧しい町で育った少年・少女は、まずみんな冒険者養成所という場所で『冒険者』になる修行をすることになります。
というのは、一つには『冒険者』になれば一攫千金、大儲けすることができるからです。
また一つには『冒険者』という仕事は危険であり、中流以上の家庭の子は『冒険者』なんて仕事を選びはしないのです。
そしてもう一つには、この貧民窟の住人は厳しい差別の対象にあり、この地域出身であるというだけで通常の仕事につくことはほぼありえないことだからです。
冒険者ギルドは『冒険者』であると認められ得る者であれば基本的に誰でも受け入れます。
たとえ、貧民窟出身者であっても。
それゆえに僕らは、まず『冒険者』になることを目指すことになるのです。
僕とこの女神様が出会ったのは、『冒険者の泉』という泉でした。冒険者養成所の親方が、そろそろ頃合かと判断すると、修行者は『冒険者の泉』へ行くように言われます。
僕は『冒険者の泉』へ行くと、親方から渡された『恩寵のコイン』を泉を投げ入れました。
このコインを泉に投げると神様が出てきて、『恩寵』なる特別なスキルを貰えるらしいのですが......
そして、登場したのがあの女神様でした。
「(コインを投げ入れたのはお前か?)」
「は、はい。僕です。僕なんですが......」
僕です。僕なんですが......このおばさん、すごいスケスケの服着てる......と思ってしまったのです。しかも、胸がすごくでかいです。
「(......お前、いま俺のこと『おばさん』て思っただろ?)」
「思ってないです! 思ってないです!」
「(......お前、いま俺のこと『胸がすごくでかい』て思っただろ?)」
「あ、それは思いました!」
問い詰められて、しどろもどろになりましたが『おばさん』て思ったのは本当なので嘘をつきました。ごめんなさい。僕はうそをつきました......
「(たいていの男は俺の豊満ボディをみて見惚れるものだ。だから、『胸がすごくでかい』と思うのは構わん!)」
「ところで、なんで自分のこと俺っていうんですか!?」
「(俺が俺のことを俺といおうがどうしようが、お前には関係なかろう。それより、俺のことを『おばさん』ていうのは決して許さん! 何万年も生きているのは事実だが!)」
「でも、おばさんですよね?」
あ、しまった。つい口が滑ってまた『おばさん』て言っちゃった。
女神様がすごい形相をして僕の方へつかつかと歩いてきました。怖い。思わず目をつぶって手を伸ばしたら、柔らかいものが手に触れる。何だろうと思って僕は目をつぶったまま、それを握ってみました。
「(お前......)」
目を開けると、僕は女神様の胸を握っていました。
「(お前......俺の胸を掴むとは......たいしたものだな!)」
たいしたもの? 褒められているのでしょうか? いやそんなことは無いですよね......これはきっとすごい怒っています......どうしよう......
「(よし、お前には『恩寵』はやらぬ。覚悟しておけ!)」
女神様はそう言って、泉に戻ってしまいました。
覚悟しておけ......か、やっぱり相当怒ってる。あと、『恩寵』貰えなかった......これは親方にどやされるぞ。
「(あの少年、この俺の身体に触れるとはどういうことだ......俺は油断してはいなかった......これは面白い......)」
念のため女神の名誉のためにいっておくと、この女神は絶世の美女であり『おばさん』と思うのはこの少年が少々変わっているのであろう。
親方にどう説明しよう......『恩寵』を貰えなかった僕は、とぼとぼと養成所に戻りました。
投稿は不定期になると思います。
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