魔導書の少女
ベアーさんは【白魔導書・白梅】と思われる古書をしばらく読んでいましたが、難しい顔をして言いました。
「こいつぁ、読み解くのがかなりやっかいでやんすね。古代言語の中でもかなり特殊な言語で書かれていて、ところどころは読めやすが......」
「じゃあ、女神さんなら読める?」
僕はブシン・ルナ・フォウセンヒメに聞いてみましたが、
「(なぜ俺が読んでやらねばならぬのだ? 自分たちでなんとかしろ)」
「あ、読めないんですね?」
「(読めるわ! 自分たちでなんとかしろと言っておるのだ!)」
不機嫌そうな顔をしてどこかへ行ってしまいました。たぶんあの女神様、古代言語、読めないんですよ。
かくいう僕も養成所の古代言語の試験はいつも赤点でしたけどね。
「マルコ先輩は古代言語、得意ですか?」
「アラタ君、俺は神童と呼ばれた男だよ。どれ見せてごらん」
マルコ先輩は【白魔導書・白梅】を手に取り、パラパラとめくっていたがやはり難しいようでした。
「これは、古代言語の中でも習得が難しいと言われるニホンゴで書かれている。しかも、かなり古い時代のニホンゴだ」
「先輩、神童なんですよね?」
「アラタ君、俺が神童と呼ばれていたのは本当だ!」
僕も読んでみましたが、やっぱりさっぱり分かりませんでした。いや、これがニホンゴでしかもかなり古い時代のものだと分かるだけでもすごいです......マルコ先輩、本当に神童だったのかも。
と思っていたら、突然【白魔導書・白梅】から真っ白い髪の少女が出てきました。え? 本から女の子が出てくるの?
僕と同じくらいの年齢のように見えます。
マルコ先輩いわく、少女が着ているのはキモノという古代国家ニホンの民族衣装らしいです。
「あ、あなたが【白梅】の現所有者ですか?」
「現所有者? は、はい。僕の持ち物らしいです」
「そうですか、はじめまして。私は白梅です」
ベアーさんが「こいつぁたまげたでやんす。古い魔導書には魔導書の精が宿ると聞いたことがあるでやんすが、初めて見たでやんすよ」と言いました。
「白梅さんは、この魔導書の精なんですか?」
「そ、そうですが、それが何か?」
「あ......い......いえ、魔導書の精さんを見るのが初めてだったもので......僕はアラタです。アラタ・アル・シエルナです」
マルコ先輩は白梅さんを見て「か、可愛い」と呟いていますが、可愛いですけど、この子、人間じゃないと思いますよ。
「何かお困りのようですね?」
「は、はい。実は『黒い死の病』という病気が発生していまして......」
僕は白梅さんにこれまでのいきさつを説明しました。白梅さんはふむふむと聞いてくれて、
「『黒い死の病』ですね。その女神様がおっしゃるように進行を止めることはできますが......」
「そ、その方法を教えてもらいたいのです。お願いします」
「方法といいますか、その白魔導の術式を詠唱するのはご依頼があれば私が致しますが......」
やってくれるんですか? すごい。
「ただ、その詠唱にはすごい集中力エネルギーが必要でして、ご依頼者様のエネルギーを吸わせて頂きたいのです......」
「全然、構いません! むしろ吸ってください!」
マルコ先輩さっきまで泣いてたのにすっかり元気になりましたが、しかし吸って欲しいんですか?
「おそらく、しかし今の皆様のエネルギーでは無理かと......」白梅がそう言って両手を広げると、3つの小さな縦笛が現れた。
「この篳篥という笛が吹けること、あと〔飛空術〕で最低でも一時間は宙に浮かんでいられること、この二つが同時に出来るくらいの集中力が必要なんです」
つまり、〔飛空術〕で宙に浮かびながら篳篥という笛を吹ける必要があるらしいです。
マルコ先輩が試しにその篳篥を吹いてみましたが、プーともブーとも音が出ません。おそろしく肺活量の必要な楽器のようです。
あ、でも僕は〔飛空術〕なら実は得意なんです。親方にみっちりしごかれましたからね。何時間でも宙に浮かんでいられるんですよ!




