第68話【悪魔の炎4、蠢く影】
「旧クラナカルタ領で巨大な魔力反応を察知しました」
「ほう」
「検索。魔族病に感染したセイレーン族の生き残りと判明しました」
暗黒に染まった市街の片隅。
人間と思しき男が愉快そうに声をくつくつ、と鳴らした。
彼の隣では機械的な動きと声の少女が、光の灯らない無感情な瞳で主の哄笑に耳を傾けている。
黒いフリルの服。ゴシックの可愛らしいドレスに身を包んだ少女は言う。
「最短で半刻の時間があれば辿り着けます。いかがしますか?」
「いいぞ。いいだろう、素晴らしい。神に感謝しよう。ア、レルヤ! 最高の馳走で楽しみだ」
「マスター。紅蓮竜レギィを借り受ける必要がありますが」
「むう?」
ぎょろり、と男が無感情な人形へと視線を向けた。
気味の悪い中年の男だ。
種族は人間らしい。彼は大きなアタッシュケースを抱え、茶色のローブに身を包んでいる。
「……ふん。竜の翼が必要か。仕方ない。ああ、仕方あるまいな! 何しろ有意義な時間のためだ!」
「了解。伝達魔術品を『赤髪』に繋ぎます」
「さっさとしろ。私は面倒くさいのが好かん」
「はい」
少女は服の中から赤色の宝玉を取り出すと、魔力を装填して主に手渡した。
宝玉の向こうから男にとって聞き慣れた仲間の声が届く。
愉快な道化の声が
軽快な口調の商人の声が響く。
『毎度ありがとうございますです、はい!』
「赤髪。急用だ、お前の竜を私に貸せ。今すぐにだ。三分しか待たんぞ。いいな? イエスと答えろ」
『これはまた……お急ぎのようですね』
「そうだ。私は抑え切れん。待つのが嫌いだ。ああ、耐えられん。無駄話をしている暇があるなら、さっさと」
繋がったのはそこまでだった。
遠くからグゥルルルル、と飛龍の唸り声が聞こえてそちらへと目を向ける。
視界に見知ったローブの商人を見つけて、男は満足そうに叫んだ。
「ア、レルヤ! 素晴らしい仕事の速さだ! いいぞ、赤髪。今後とも贔屓にしてやろう」
「ふふふ……光栄であります、はい!」
陽気な二人の男の会話。
何でもない言葉の応酬であるのに。何故だか寒気を感じてしまう。
二人の雰囲気がそうさせるのかも知れない。
特に目をぎょろり、と動かすことに特徴のある中年の男は、興奮状態の高らかな声に生理的な嫌悪を覚えるほどだ。
「と、言いますか。私どもは同じ組織のものなのですがね、はい」
「むう? 言われてみればそうか! そうだったな。お互い、目指すべき到達点は一緒だったか!」
「はい。……ということで」
同じ組織。
同じ目的を持つ構成員。
同じ狂信者としての引き裂かれたような笑みが浮かぶ。
「私めにも一枚噛ませてください。何がどうなっているのか、教えてくださいますよね……?」
「むう。獲物は私のものだぞ。それでよければ聞くがいい」
「構いません。私どもの目的の直結はそれ即ち、『真王様』のためとなるのでしょう? お手伝いしますとも!」
「ア、レルヤ! 私は良い友人を持った。実はだな……」
暗い暗い闇の中。
奇妙な男たちの愉しげな語り合いが始まった。
まだ十歳ほどの少女は無感情な瞳のまま、楽しげに盛り上がる大人たちを見つめていた。
これまで通りの、光の灯らない瞳のままで。
◇ ◇ ◇ ◇
「…………」
「……」
両者が対峙したまま、数秒間の静寂が続いた。
一方は驚愕のあまり絶句していた。
一方は何を言うべきかも考えていなくて、掛ける言葉を失ってしまっていた。
護衛剣士と背徳の魔術師。誰もいない砂漠の廃墟で、無言のまま立ち尽くす。
「どうして……」
最初に声を掛けたのはユーリィだった。
出てきた言葉は短絡的で抽象的だったが、単純な疑問だけが彼女の心を占めていたのだ。
理解できない。眼前の女剣士は主さえ良ければ是、という人種だったはずだ。
何故、追いかけてきたのか。まったく理解ができない。
「外出禁止……幽閉中の身分で逃亡……近衛隊の長として、追いかける理由は十分です」
「あなたは。実直ですね。ですが今回は愚か者と。言わせていただきます」
「何しろ、具体的な説明は何も受けていませんので」
「なら。聞きなさい」
護衛剣士ラピスの瞳をキッ、と鋭く睨み付けた。
厄介ごとを増やしてくれる。今は一人にしてほしいというのに邪魔をする、と。
内心の苛々とした気持ちを無表情の能面に押し隠しながら。
「今のわたくしの身体は。魔力で構成された爆弾です。破裂すれば。周囲一帯の何もかもを滅ぼします」
「どうして」
ぽつり、とラピスが言葉を漏らす。
彼女の表情が悲哀に満ちたものに変わっていて、ユーリィが僅かに表情を歪めた。
なんて顔をしているのか、と。
お人好しの女。変な真似をすれば叩き斬ると言っておきながら、その反応はないでしょう、と。
「どうして、こんなことをしたのですか……!?」
「貴女には。関係のないことです。理由を聞けば帰っていただけますか? 意義を話せば納得するのですか?」
つまらない昔話などを聞かせるつもりはない。
何だかんだで相棒に抱いていた感傷などを敵対していた女に告げるほど、気恥ずかしいものもないからだ。
現実、ラピスは話を聞いて納得するとは思えない。
この女は苦手だ。ユーリィの率直な感想だった。
今は紆余曲折あって同じ組織に所属しているが、思い切り殴られた相手を好きになれる道理はなかった。
「セリナを救ったのは。私の友達が助けたがっていたからです。そのためには。誰かが犠牲になる必要があった」
「それがどうしてユーリィなんですか……?」
「わたくし以外にセイレーン族の秘術は知らず。そして。わたくしの魔力回路が最もそれに適していたから」
「それ以外に……」
「それ以上の理由はありません……ああ。そうですね。勘違いしないように言わせていただければ」
彼女の眼鏡の奥の瞳が、一際厳しいものになる。
殺意、とは違う。敵意、というほど厳しいものではないが、明らかに好意的な目つきではなかった。
苛立ち。腹立たしさ。小さな澱のような感情が垣間見える。
「わたくしは。貴女たちが嫌いです。救ったのは。貴女たちのためではない」
「……では、マーニャの」
いいえ、とユーリィは更に否定を重ねた。
敵意に近い眼光は鳴りを潜め、何か大切なものを遠くから見つめるような瞳になる。
手を伸ばしても届かない光を羨ましそうに見るかのように。
「マーニャのためでもありません。これは。わたくしの自己満足。あの性欲過多な女のためではありません」
「…………しかし」
「そんなことを言い訳にしてはいけない」
「……っ」
心に突き刺さる言葉だった。
誰かのために、という大儀の矛盾点を的確に突かれた。
誰かのために罪を犯す。逆に言えば『お前さえいなければ罪を犯すことにならなかったのに』、と。
一番守りたかった人を、一番最悪な方法で貶めることにもなるのだと。
「わたくしは。『自己満足のためにこの選択を選んだ』のだと」
「……」
反論の言葉を返すことはできなかった。
彼女の言葉は正しい。罪を犯す理由も、死ぬ理由も、誰かのせいにしてはいけない。
ラピスだって分かっている。分かっていて、目を逸らし続けていた。
その生き方はこれからも続く。
この生き方しか知らないから。それがラピス・アートレイデの存在理由だと知っているから。
「それがしは……この生き方しか、できません」
「なら。永遠に自己満足を選びなさい。貴女の願いはセリナの傍に控えることでしょう?」
「……その通りです」
「なら。わたくしを追っている場合ですか。せっかく助かるのです。彼女を一人にしてはいけません」
孤独は、怖い。
孤独は、寒い。
孤独は、嫌い。
彼女を孤独にしないことこそ、女剣士の使命だ。
死の間際の裏切り者の生死など、どうでもいいではないか。
「違います」
「……?」
「それがしの『願い』はお嬢様の傍にいることですが……それがしの『役目』はお嬢様の世界を守ることです」
「世界……?」
「はい、世界です」
セリナが見る輝かしい世界。
幸福な彼女の人生を続かせることがラピスの役目なのだ、と。
彼女の幸せには友達であるマーニャの笑顔が必要で、マーニャの笑顔のためにはユーリィの存在が必要なのだ。
今回の件、何もできなかった剣士が唯一見出せた役割。
「どうして、あなたが死ななければならないのですか……!?」
「…………」
「もう、時間はないのですか? 手段はないのですか? 本当にどうしようもないのですか!?」
彼女はただ、心配していた。
裏切り者の女に対して。こんな結末で終わらせたくない、と。
甘すぎる。主の奈緒も甘い男だったが、下に就く彼女たちも十分に甘い。
主のため、という合理的な理由がなければ、彼女もまた冷徹に生きることのできない人間なのだろう。
「それがしは……あなたに何も返せないのですか! 主を救ってくれた恩に報いることもできないのですか!?」
馬鹿だな、と思う。
愚か者の言葉だ、とも思える。
恩義。情義。他人を相手にしてそんな感情に縛られるなんて。
裏切り者の……否、裏切り者だった女が静かに笑みをたたえた。
「優しい言葉ですね。優しくて。そして……最低な」
言葉とは裏腹に優しげな声色だった。
敵対していた関係が氷解していく気がした。目の前の女は何処までも人間くさい。
そんな言葉で癒されてしまうのだから、自分も大概だ、と思う。
だから隠すつもりもなくなった。
納得してもらうには話すしかない。何も状況はそんなに絶望的ではない、と。
「先に誤解を解いておきますが……わたくしも。死ぬつもりはないのです」
えっ……、と絶句するラピス。
間抜けな彼女の顔が可笑しくて、口元に冷笑をたたえたユーリィは笑みを深くする。
砂漠に吹く一陣の風が二人の髪を嬲っていく。
ローブに掛かる砂をぱんぱん、と払い落としながら、彼女の思考が回復するのを待った。
◇ ◇ ◇ ◇
「現在。わたくしの魔力回路に二色の魔力が混合しています」
説明はできる限り手短に。
魔力だの魔法だのに詳しくないラピスに懇切丁寧に説明する意味はない。
彼女が納得できる程度の理論さえあればいい。
「炎と氷。相反する属性が一箇所に集まれば。どうなると思いますか?」
「……? 消える?」
「正解です。正しくは中和というべきですが」
セリナの炎。
ユーリィの氷。
それぞれがお互いの魔力を打ち消していけば。
「魔力回路のなかで二つの属性は互いを喰らい合い……最終的には身体の中から消え去る」
「え……?」
「要するに。わたくしには悪魔の炎という名の爆弾を処理する方法がある。ということです」
呆れたように溜息。
突然降って沸いた展開に呆然とする女剣士を見る。
最初は事態を良く飲み込めなかったらしいが、内容を噛み砕いて理解すると、みるみる顔が赤くなっていく。
怒りと羞恥の二種類が混ざり合った顔色だった。
「そ……そんな逃げ道があるなら逃げなくてもいいではないですか!?」
「わたくしは言ったはずですが。『最低限の犠牲』と」
「紛らわしいですよ!」
「何も犠牲になるのは命とは限りません。今回の件で恐らく。わたくしはセイレーン族の証である魔力を失います」
炎を鎮火するために氷を失う。
セイレーン族の魔力は魔物も生唾を飲み込むほど濃厚な栄養源だ。
魔族の証であり、誇りでもある。
捨てるのが命ではないが、代償は決して小さくない。魔族から人間へと成り下がるようなものなのだから。
「それでも……命は助かるのですね……?」
「ただし」
緩みそうになった剣士の表情が冷たい言葉で凍結した。
表情は冷たく、言葉も鋭利な刃物のように鋭くて。ユーリィは苦悩すら感じさせる表情でラピスを見る。
事はそう単純なものではない、と。
彼女の冷静な瞳が、言葉にせずとも事態が好転しているわけではないことを伝えている。
それでも突きつけるかのようにユーリィは言葉を続けた。
「失敗する可能性も低くない。あくまで。『わたくしが一番生存率が高かった』と……そういうことです」
生存率が一番高かった、とユーリィは言う。
成功する確率はどれほどだろうか。分の悪い賭けであることは彼女の口ぶりから想像できた。
当然、半々の確率などと生易しいものではないのだろう。
三割か、二割か。それとも本当に僅かながらの可能性しかないのだろうか。
そうだろう、とラピスは当たりをつけた。そうでなければ、親友に別れの言葉を告げて逃げるようなことはしない。
「失敗すれば……」
「爆弾が破裂します。俗に言う『暴走』です」
「……」
「セイレーンの暴走。それもセリナの魔力も合わされば……メンフィルの城ですら。ひとたまりもないでしょう」
話は終わりだ、とばかりに踵を返した。
時間はまだある。数時間ほどは持ちこたえることができるだろう、と当たりをつけている。
だが、残る人生が数時間しかない、という意味でもある。
最期の最後まで足掻いてみるにしても、多少思うところはある。
「待ってください……それがしは!」
「帰りなさい。あなたは。こんなところにいてはいけない」
最初で最期かもしれない優しげな声。
今まで敵対していた剣士に向けられた言葉は、涙が出るほど切ない声だった。
「あなたが守るべき人は。わたくしではないでしょう?」
ラピスは俯いたまま、キュッと唇を噛み締めた。
確かに彼女にできることなんてない。これはユーリィ自身が生を掴むための戦いだ。
剣を振るうことしかできないラピスに何ができるというのか。
認めなければならない。
何処までも己は無力であることを認めなければならない。悔しくとも、それが真実なのだから。
だが。
項垂れたように踵を返そうとするラピスの足が止まる。
手は自然なほどに素早く刀へと伸ばされていた。
ごくり、と喉を鳴らす。
彼女は振り向いて遠くを眺めながら、複雑な表情を浮かべてユーリィへと語りかける。
「そうも、いかなくなったようですよ……?」
「……はい?」
疑問がユーリィの口から漏れ出るのと同時。
周囲一体が純粋な音量によって爆発した。耳を劈く悲鳴のような絶叫だった。
例えるなら獣たちの大合唱。
灯篭に寄せられる虫のように。甘味を求めて群がる蟻のように。彼女たち二人を包囲する群集の姿がある。
「これは……!?」
動揺する声に歓喜の悲鳴が沸きあがった。
魔物だ。砂漠に住まう魔物の大群。種類は問わない。とにかく無作為な数の暴力がそこにある。
廃墟を中心として周囲一体に埋め尽くされる影、影、影。
暗闇に隠れて総数は見えない。
闇の中に蠢く怪物たちの呻き声、鳴き声、唸り声が、無限すら感じさせるほどに反響するだけだった。
「……魔物のようですね。予測ですが、ユーリィの魔力に惹かれて集まってきたのでしょう……」
そういう話を聞いたことがある。
魔物にとって魔力とは最も美味で最高の栄養分である、と。
魔族が魔物によって襲われるのは、肉体を食むというよりは身体の中に残っている魔力を吸い尽くすためと聞く。
濃厚な魔力は怪物たちの進化を促す、とも。
「ユーリィ。廃墟の中に隠れていてください。防壁としては心許ないですが、四方から襲われるよりはマシでしょう」
「待ちなさい……何を。するつもりですか」
すらり、と腰に挿した鞘から刀を抜き取るラピスを見て、ユーリィが呆然とした声を上げる。
何をするつもりなのかは一目瞭然だというのに。
魔物たちの目的がユーリィの命だとするならば戦う以外の選択肢はない。
どの道、これだけ包囲されているなら逃げられるはずがないだろう。戦わなければ彼らの馳走となるに決まっている。
「良かった。それがしが追ってきた意味があったようですね」
背後からユーリィの非難の声が聞こえた気がしたが、耳にはもう届かなかった。
役立たず返上の機会が与えられた。
早速借りが返せるとはついているではないか。強く刀を握り締めながら、ラピスは己を奮い立たせる。
「いざ――――!!」
気合一閃。心頭滅却。
ただ一振りの刃となりて魔物の大群に突っ込んでいく。
己は剣。誰かを守るために振り続けてきた刀であり、これからもそうやって生きていく。
いつの日か。その刀身が折れるまで。
◇ ◇ ◇ ◇
「マスター。このような回りくどい方法で宜しいのですか?」
「仕方あるまい。ああ、仕方あるまいさ! 私たちの存在はあまり知れ渡るわけにはいかん」
少女の手に乗せられたのは香を漂わせる特殊な魔術品だ。
濃厚な魔力の匂いが周辺に漂い、夜行性の魔物たちが我先にとばかりに集結していく。
最終的に、その魔術品はユーリィたちの傍へと投げ込まれている。
彼らは安全なところから事の成り行きを見守るだけだった。
「ガーディ」
赤髪、と呼ばれていた商人が男の名を呼ぶ。
ぎょろりと瞳を反転させる中年男性。ガーディと呼ばれた男は不遜な態度を崩さずに応じた。
「むう?」
「魔力の回収は分かりましたが、大筋の計画に影響がない程度にしてくださいよ」
「分かっている。分かっているとも!」
「ならば宜しいのです、はい。私どもの組織は数があまりにも少ない。ガーディも立派な戦力なのですから」
「ふふふ」
ガーディは気味の悪い笑みを浮かべた。
戦力と呼ばれたことへの嬉しさというよりは、彼の躁鬱の激しさが原因のようにも思える。
計画、と赤髪は言った。
どんなものかを思い出してもう一度含み笑いをする。
「『我々』と、ラキアスと、それに残る二国の三大勢力。現状はラキアスが圧倒的な戦力だな!」
「当然です。だからこそ私どもは、ラキアスの力を殺ぎ、己や周辺国家を増強していかなければいけません、はい」
「おい、聴いたか、E……エリザ。憶えておけよ、私は物忘れが激しい」
「はい、マスター」
製造番号E、それが彼女に与えられた名前だ。
便宜上はエリザ。五番目に創られた生命。魔族の魔力回路を搭載した人工生命体。
出来は最高だ、とガーディは自負している。
創られた命は無感情な瞳を宙に投げ出しながら、遠くで始まる死闘を眺めている。
「あそこで戦っているのは新国家の主力の一人と見ますが。よろしいのですか?」
「仕方ありません……私としても心が痛みますが」
赤髪はよよよ、と泣く仕草を見せる。
道化の素振りを楽しそうに眺めるガーディを尻目に、泣いていた仮面がくるり、と笑顔に転換された。
この場に正常な者がいれば背筋が凍るほどの変わり身の早さで。
「勝手に巻き込まれた彼女がいけないのです、はい。一人が消えた程度で支障はないでしょうし」
「人間か。魔力の足しにもならん。邪魔だな、実にビッチだ」
「最悪、魔族病で暴走する危険性もありますから。深追いはしない程度にしておきましょう」
「ア、レルヤ! そうだな、死に損ないを相手にして小遣い稼ぎにきたというのに、巻き込まれてはたまらん」
人の命を駒のように見る言葉だった。
商人は命すらも商品の一部、もしくは投資する物品、または金に見立てているのだろう。
科学者は己の役に立つかどうかにしか注目していない。
人形は二人の狂った会話に何の嫌悪も見出せない。壊れた三人組の世間話。
「唐突ですが」
エリザが無機質な声を上げる。
商人と科学者が同時に目を向ける中、彼女はこくん、と首を傾げて言う。
「魔力回収をするにしても、単純にセイレーンの身体から魔族病の元凶を取り除くといえば簡単だったのでは」
「………………」
「…………」
気まずい沈黙が流れた。
多くの魔術品を扱う赤髪の品物の中には、魔族病を取り除く手段も存在する。
単純に派手な方法がいい、というガーディの言葉に従ったが。
暴走の危険性も考えれば。そちらのほうが遥かに良かったのだが……赤髪は笑みを引き攣らせながら言う。
「……依頼主のご希望ですので、はい」
「ア、レルヤ! 遊びを忘れてはいけないぞ、エリザ。神はいつでも試練を与えるものだ!」
「…………はい、マスター」
簡単な方法を思いつかなかったガーディ。
依頼主の意見ということで口を出せなかった赤髪。
自分も相手も万々歳な方法がありながら、そうはしなかった二人を見てエリザは確信を強くする。
ああ、本当に。彼らの中に善悪はないのだ、と。
彼らは吐き気を催すほどの狂信者。人工生命体にも理解は出来ないのだろうが。
実に彼らは楽しそうに人の運命を弄ぶ。
気紛れに人を助け、気紛れに人を窮地に陥れる。それが彼らのやり方なのだろう。
狂信者にとって。
今回の件も人の命を担保にした遊びに過ぎないのだ、と。
醜悪な人格者が見守るなか、遠くに見える死闘が激しさを増していった。
キャラが多すぎる気はしていますw
そろそろ憶えられない人員も多いことでしょうw ジェイルとかベイグとか忘れられてる気がw
自重すべきと分かっていますが。国を巻き込んだ戦乱なので登場人物も果てしなく多いです。
唐突に懺悔したくなったので追記します。
こんな作品で宜しければこれからもお付き合いくだされば幸いです。
いつもありがとうございますー♪