第58話【満身創痍の休日】
近況報告。
著、ラフェンサ・ヴァリアー。
戦争の終結から三日が経過しました。
死者を尊ぶ告別式を終え、わたくしたちは様々な政治的会議を執り行います。
旧クラナカルタ領の国境の線引きから、組織の解体、および再構築。
他国の王族たるわたくしがそれに参加できたのは、共に肩を並べて戦ったからでしょう。
もっとも、あまり役に立っていない気がしますが。
「……ふむ。満身創痍とは、このことじゃの」
「そうですね……」
会議室に残っているのはわたくしと、ゴブリンの姫の異名を持つテセラ・シルヴァ殿です。
正確に言うと、会議を行っているのはわたくしたち二人だけです。
敵国の降者と、他国の王族。
二人だけで戦後処理を行い続けましたが、そろそろわたくしたちも我慢の限界と言わざるを得ません。
「まさか……わたくしたち二人以外、全員が倒れてしまうなんて」
「ううむ……雑務も飽きてきたのう」
総司令はギレンとの戦いで全身筋肉痛と右肩脱臼と睡眠不足。
告別式を終えた直後、身体が限界を迎えたようです。
玉座に座るよりも早く、ばたり、と倒れて首脳陣の悲鳴を誘いました。あのときは心臓が止まるかと思ったほどです。
お医者様から数日間、絶対安静を言い渡されています。
悲劇はそれだけでは終わりません。
セリナ殿は魔力の使いすぎで疲労困憊。総司令が倒れたのと時を同じくして、熱を出されました。
ラピス殿は片腕を骨折。破剣の術を用いても治すのには時間がかかるそうです。
ゲオルグ殿は生きているのが不思議なくらいの傷で、現在も二十四時間、お医者様が治療に当たっています。
全員、命に別状がないのが幸いでした。
「ジェイルを呼び戻して、手伝わせようと考えたのですが……残念ながら、兄上のほうのお手伝いをしているようですね」
「向こうも内乱の影響でゴタゴタしているからのう」
「ラキアスも含めて、今のリーグナー地方は何処も混乱が続いていますね……」
「やむを得まいよ」
このような理由や事情があって、わたくしも国に帰ることなくお手伝いをしています。
戦争ではあまり役に立てなかったので、こういった庶務や雑務ぐらいは……などと思ったのが三日前のこと。
想像以上の量に溜息をつきたくなる、今日この頃です。
「失礼します、報告です!」
「どうしたのかの?」
「絶対安静のゲオルグ殿が『いや、マジで大丈夫だって。ちょっと魔物と遊んでくるわ』って、外に出ようとしてます!」
「よおし、馬鹿だな、あの男は!? 良かろう、死にたくばトドメを刺してやるわー!」
バタバタバタ、と小さな歩幅を駆使してテセラ殿が会議室を飛び出していきました。
ぽつん、と取り残されるわたくしは書類に目を通しながら、頭に乗せた葉っぱの冠をちょこちょこと弄ります。
エルドラド族はこうすると落ち着くのです。はふう。
「良い天気です。こういうときは、思い切りククリと一緒に大空を駆けたいです」
「報告です!」
「ええ、とっても良い天気ですね……ふわふわ……」
「ほ、報告です。もしもーし、ラフェンサ様ー?」
大空をククリと駆ける。
竜騎士独特の余暇の楽しみ方です。
そういえば最近、ククリに構ってあげられない日々が続いています。
一日くらいは身体を洗ってあげたり、一緒に音楽を楽しんだりするのも……ふわふわ。
「ラフェンサ様ー!」
「…………はっ。敵襲!?」
「報告ですってば!」
報告に来た兵士の声で、ようやく我に帰りました。
恐るべし、書類地獄。かつてジェイルも発狂に近い症状があったと報告がありましたが、これほどとは。
基本的に祖国では大臣たちが雑務を行っているので、わたくしは経験がありませんでした。
単純な作業ですが、膨大な量は時として暴力になるのですね。
「総司令が目を覚まされました」
「ああ、良かった。目を覚まされたのですね」
「ただ、体力が戻っていないらしく、意識が朦朧としているご様子で……」
「そうでしょうね……」
現在、件のクラナカルタ王は自室に軟禁中です。
奴隷の……正確には元奴隷のオーク族の女性の方が同じ部屋で生活をしているとか。
かなり口調が厳しい女性だったのを憶えています。初対面の女性から『死ねばいいのに』と言われたのは初めてです。
それでも何だかんだでギレン王の無事を喜んでいたご様子でした。
「セリナさん……セリナ殿の熱の具合はどうですか?」
「魔力が体内に溜まり始めると同時に、快方に向かっているそうです。今は食事も取られるようになったとか」
それは良かった。突然、熱を出されたときは心配でした。
魔力は生命力のようなものですから、それを枯渇させてしまえば命にも関わるのですが……安心しました。
ちなみに、彼女と死闘を演じたマーニャ殿はギレン王と同じように客室に軟禁されています。
彼女とはわたくしも親交がありましたので、裏切りについては残念です、としか言えません。
ナオ殿の采配、裁定はどのようになるでしょうか、と書類を読む目を止めて考えてしまいます。
「……っと、お帰りなさい」
がたん、と派手な音を立てて扉を閉めるテセラ殿。
びくり、と報告に来た兵士は即座に戦略的撤退を決めたらしく、是非もなし、と会議室から去っていった。
見た目十歳ほどの幼女は、憤慨と呆れを内包した表情で言う。
「まったく! あの男は馬鹿か!? ああ、馬鹿に違いない!」
「ゲオルグ殿ですか?」
「何が『いや、絶対大丈夫って、ほら……ぐふっ……』だ! 説得の途中で血を吐いていたら世話ないわ!」
「…………」
戦争が終わって。
戦死者が出て裏切り者まで出たのに。
わたくしたちは何だかんだで『変わってない』のではないか、と思います。
それは、とても素敵なことじゃないか、って思えます。
(羨ましいですね……この空気は)
わたくしは、ずっと此処にいるわけにはいきません。
ある程度の収拾がついたら祖国に戻って、再び近衛隊長としての日々を送るでしょう。
だから、今だけは楽しもうと思います。
もうすぐ訪れる別れを、成長の思い出として受け入れるために。
◇ ◇ ◇ ◇
「痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!!!」
「大の男が泣き声あげるんじゃないよ、ほら!」
ばしぃん、と背中を叩く音が医療室に響き、ひぎぃ、と情けない声が木霊した。
緑色の肌。小柄な体躯の男が三人。
彼らを治療するのは恰幅のよい褐色の肌の女だった。ゴブリン族の女性なのが分かる。
治療されている青年たちは、ロダンたち三兄弟だった。
「て、てめえ……治療する気があんのかよ……と、トドメを刺されたかと思ったじゃねえか……」
「ああん?」
「や、ごめんなさい。すみませんでした。治療ありがとうございます」
「それでいいんだよ、このすっとこどっこいが」
誰かー、この暴力看護士、チェンジでー、と内心で叫ぶロダン。
乱暴な口調の女は残りの二人に手際よく包帯を巻きながら、己の幼馴染に悪態をついていた。
ちなみに、暴力的な手当てはロダン限定だ。
「ったく、ナザック砦の外で追い剥ぎをやるとかいって飛び出しやがったかと思えば、変な形で帰ってきやがって」
「うるせえよ、ニィム! てめえにゃ、関係ねえだろうがよ!」
「ああん?」
「って、そこのサハリンが言ってました」
「ぎーーーーー!!?」
どたんばたん、と抵抗の意思を表すようにサハリンが暴れる。
ニィムと呼ばれたゴブリンの女は姉御肌の性格を存分に発揮しながら、でこぴんでロダンの額を打つ。
馬鹿言ってんじゃないよ、と言いながらも治療の手は止めない。
洗面器に溜めておいた水で血に汚れた手を洗い流しながら、ニィムは言う。
「で?」
「あんだよ?」
「これからどうすんのさ。あんた、もう傭兵稼業や追い剥ぎなんて出来ない身体なんだけど」
「…………」
無言のまま、ロダンは力無く天井を見上げた。
旧クラナカルタの軍師オルムとの戦いで受けた傷は、想像以上に彼の体を蝕んでいた。
戦うなどもってのほか、命があっただけでもありがたいぐらいの傷だったのだ。
日常生活にも影響が出るだろうね、とニィムは告げていた。
「とりあえず、当面の生活費は確保してんよ……その後は……どうすっかなぁ」
「……なんだい。まぁだ考えてなかったのかい?」
「いや、命懸けの戦いの数時間後に身の振り方決めてる奴は、すげえと思うんだが……」
ていうか、とロダンは半目になりながら思う。
全員の治療を終えて仁王立ちする幼馴染の女を眺めて、一言。
「お前、その色気のねえ口調は直らねえのかよ」
「直らないね」
「即答か! 妹も複雑な気持ちだろうさ! 行き遅れるぞ、そのおばさんくさい……」
「おおっとぉ! 手と足とその他諸々が偶然にも唸りをあげて滑ったぁぁぁ!!!」
ズゴシャア、と壮絶に嫌な音がしてロダンの身体が宙を舞う。
そのまま腰を基点として拳を振りかぶり、もう一撃。
ついでゴブリン族にしては長い足を高く上げて、ハイキック。そのまま床に倒れたロダンは、身体を痙攣させて言う。
「て、てめえ……冗談抜きに、死ぬ……死ぬ……」
「女に歳のこと云々言うんじゃないよ? これ、生き残るための鉄則さ」
「命にかかわることなのかよ……って、現にいま、命の危機に瀕してるわ、俺……ごふっ」
そんな二人の姿を二人の弟分は恐怖半分、安心半分で見つめている。
これはいつもの平和な光景だ。
幼馴染の二人が何年も交わしてきた、いつもの悪ふざけだ。
最も、その悪ふざけは大概、ロダンの赤い血が流れることで有名だが。ニィムは女性ながら腕っ節が強いのだった。
「ま。やることないんなら、ウチに来るんだね」
「……あん?」
「あたし、さ。テセラ様の支援を受けて、孤児院を作ることに決めたのさ。あたしはそこの院長代理ってわけさ」
「…………孤児院?」
そうそう、と相変わらずの気前のよい笑みを浮かべながら、彼女は言う。
孤児院。戦争で親を亡くした子たちを引き取るのだ。
種族は関係ない。人間や魔族ですら関係ない、そんな孤児院を作るのが理想だね、とニィムは誇らしげに言う。
「アンタの戦いの物語は、もう終わり。戦えないからね?」
「…………」
「リィムは総司令お付きの侍女になる、って話らしいし。アンタもやることないなら、下働きで扱き使ってやるよ」
「……日常生活にも影響出る、って話の俺すら呼ぶって、よほど人手不足なんだろうなぁ、その孤児院」
ロダンは床に寝転んだまま悪態をつく。
ただし、口元に浮かんでいたのは気持ちのよい笑みだった。
孤児院か。悲劇の犠牲者となった者たちを救う機会ってやつがあるのか、と。
ラファールの里は、変わるのか、と。
「お前の妹はなんて?」
「リィムも賛成してくれたよ。資金はあの子の仕送りとテセラ様の支援金だけどね」
「おいおい、足りるかよ、そんなので」
ロダンは胸の中に入れておいた伝達魔術品を取り出した。
ナザック砦を陥落させたときに賜った報酬だ。
売ればそれなりの資金になる。親を亡くした子供たちに、暖かいスープぐらいは飲ませてやれるだろう。
喉が渇いた、と泣き叫ぶ子供たちを……今度こそ、救うことが出来るだろう。
命懸けで手に入れた報酬を、惜しみなく幼馴染に手渡しながら、ロダンは二人の弟分たちと頷きあいながら言う。
「一枚噛ませろ。いいじゃねえの、救えるガキどもを片っ端から救ってみる、ってのも」
がっしり、と二人の手が握り合う。
戦えない身体になったとしても、やれることは山ほどある。
ロダンの戦記はここで終わる。
国を動かすような大それた戦いに、ロダンたちの姿は二度とないに違いない。
「ぎーっ! ぎゃっ、ぎゃっ!」
「おーいーらーもー!」
物語の主役には二度となれないが、それでもいい。
新しい世界に希望を持って生き続けよう。やってやれないことなんて、ない。
今を戦うことは、もうできないけど。
未来を作り上げる歯車にぐらい、なれる。その他大勢の後日談なんて、そんなもので十分だ。
「んじゃ、まずは早く傷を治しなよ、ロダン」
ロダンは去っていく幼馴染の後姿を見送ると、白い天井を眺め続けた。
心の中に渦巻くのは達成感だ。
迷走したし、失敗も後悔も数え切れないほどしてきたけど……それでも、必死に生きてきた。
「あー、痛てえ。殴り飛ばした分の傷も手当てしてから行きやがれよ、ったく……」
満足げに。
充実感が心を埋めつくしていくのを感じながら。
ゴブリン三兄弟の戦いは幕を閉じる。
未来を作り上げる孤児院に希望と期待を寄せながら、ロダンはゆっくりと瞳を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇
「……暇ねん」
ところ変わって、客室に幽閉中のマーニャである。
裏切りを働いて捕らえられたセイレーン族のお姉さんは、ぼんやりと溜息を漏らしていた。
牢獄に入れられて尋問、拷問コースすら想定していたマーニャからすれば、今は天国のようなものだ。
客室に軟禁されているだけで、魔力を封じることすらされていない。
(逃げることぐらいなら余裕でできそうだけど……ねえ?)
それでも逃亡を図ろうとしないのは、人権やら何やらを配慮して幽閉にとどめてもらっているからだ。
これで逃げ出したりなどしたら、一生ついて回る恩知らずの恥だろう。
裏切り者、という身分の自分が恥に配慮するのもなんだが、基本的に彼女は筋を通す魔族なのだった。
まあ、ユーリィの所在が分からないから、という理由もあるのだが。
(でも、お姉さんたちの野望も終わり。復讐もおしまい)
妙にすっきりした表情のまま、ベッドの上になめまかしく寝転びながら暇つぶしの方法を考える。
今後の国際情勢について客観的に考えてみよう。
ラキアスは自分たちを見捨てるだろう。
国内情勢がアンドロマリウスの変でゴタゴタしている状況で、新国家を敵に回したくないからだ。
指揮官の二人が勝手にやったことだ、そちらで処分してくれ……とでも言われるのが関の山だろう。
(まあ、そんなものよねん)
命乞いをすれば、ユーリィの命くらいは見逃してくれるだろうか。
見逃してくれそうな気がする。
国外永久追放処分とか、それで終わってくれるような気がする。そう思うのは楽観すぎるだろうか。
死刑、と言われるならそれを甘んじて受けるが。
「オリヴァース&新国家vs大国ラキアス……って感じかしらねん」
リーグナー地方は真っ二つに分かれることになる。
セリナの復讐を考えれば、恐らくいつかはラキアスと雌雄を決する日が来るのだろう。
復讐、という言葉を思い出して苦虫を噛み潰した顔をするマーニャ。
ユーリィはまだ復讐に拘っているに違いない。
(……、復讐ね)
復讐。
マーニャにとっての復讐。
己を追放したセイレーン族の里は滅びた。
生き残りのユーリィを拾って、一緒に復讐の道を探し続けた。
羨ましい。妬ましい。まだ復讐に全てを掛けられるほど純朴で純真な彼女たちを羨望する。
(元々、お姉さんには復讐の理由が無かった。だから諦めちゃったのかしらね……)
ユーリィを拾ったのは罪悪感からだ。
滅びてしまえ、なんて願ったから故郷は滅びたのかもしれない。
だから生き残りの幼馴染に手を差し伸べて、彼女の復讐に協力していた。
そこに、マーニャ・パルマーという個人が復讐したい、という強い思いがなかったのが、宙地半端な迷いに繋がったのか。
(ま、すべては終わったことよねん)
思いを巡らせることをやめる。
今の自分は裁きを待ちながら、ベッドの上でゴロゴロする罪人だ。
反逆者の扱いについて革命的な待遇な気がするが、気にしないことにした。
ここ最近は色々なものに縛られて板ばさみだった彼女だが、基本的には自由人なので。
「すいませーん。お水と果物とかくださいなん♪」
「ありませんよ! っていうか、ほんとに泰然自若としていますね、まったく!!」
現在の扉の番はラピスだった。
自分のことを嫌っていることは言うまでもないだろうが、彼女と会話に興じることにしよう。
時間は十分にある。最期の時間が近づいてきているなら、それまでを楽しもう。
幸いにも門番さんは、初心な反応を返す剣士さんだし。
◇ ◇ ◇ ◇
(大変だ、リュート。たくさんの女の子に囲まれて介護されてる)
(……いや、羨ましいじゃねえか)
気絶にも近い形で倒れた奈緒が目を覚ましたとき、褐色の肌の女性陣と目が合った。
ゴブリン族の介護団体だろうか。慌しく動き回りながら、甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれている。
何人かは侍女のように控えている。合計すると七、八人くらいか。
額に乗ったタオルを冷たいものに取り替えてくれる少女と目が合う。
「あ、起きられましたかっ」
「え、あっ、うん……」
「初めまして。身の回りの世話をさせていただきます、リィムと申しますっ」
「よ、よろしく……」
「はい! これから宜しくお願い致しますっ!」
ぼんやり、とした思考のまま女の子を見上げていると、そっと少女は離れていった。
どうやら、上から見下ろすという行為自体に抵抗があるらしい。
褐色の肌を持つ医療班のメンバーは全員が軽く会釈すると、再び甲斐甲斐しい介護へと戻っていく。
その後姿を眺めながら、奈緒は心の中で会話に興じる。
(……戦力、ぼろぼろだね)
(奈緒もセリナもラピスもゲオルグも戦えねえしなぁ。ラフェンサは国に帰るだろ? と、なると……)
(テセラだけだね)
(これでラキアスに挑むか?)
(……正直、勝ち目もなければ……また戦争をする気にもなれないよ……)
戦争の悲惨さは身をもって知った。
自分の号令で敵味方問わずに人が死んでいく、というのは苦痛以外の何者でもない。
今回は侵略を防いだ、という理由だから、まだいい。
大国ラキアスと戦う、というのはセリナの私怨によるものだ。大義名分がない。
(ていうか、今はもう先のこと考えたくないよ……)
(よし。それじゃあフリフリのついた服装の看護士さんたちを、視線で愛でることにしようぜ!)
(ぽちっとな)
ガッシャーン!(心の音)
(久しぶりに檻に入れられたぁぁぁぁあああ!!)
(龍斗。ちゃんと部屋に戻ってようね)
(俺の部屋、牢屋だったんか! ていうか、お前の心の中ってかなり物騒だよなあ!)
(そんなことないよ。実に、一般人だよ)
(心中に牢獄と拷問具を取り揃えているような奴が一般人であってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
どたんばたん、と心の中で暴れる親友を見て、奈緒は笑う。
命懸けの戦いを終えて、またこうして馬鹿なことで笑っていられることに感謝した。
緊張感の続く一ヶ月ほどの戦いから解放されたのだ。
大切なスタート地点。ひとまずの小休止も許されるに違いない。
(……奈緒? また寝るのか?)
(…………うん、ちょっと。疲れちゃったかな……)
(……そだな)
明確的な脅威は去った。
面倒なことはこれからもたくさんあるだろうが、今は何も考えずに羽を休めよう。
この世界を少し早歩きに進みすぎたのかもしれない。
(おやすみ、龍斗)
(よく休めよ、奈緒)
皆に色々と押し付けてしまうのは心苦しいけど。
今だけは英気を養おう。次に訪れる苦難を乗り越えるために。
それじゃあ、おやすみなさい。
ロダンたちの物語(出番)はこれで終わりです。
もしかしたら端役で再登場する日も来るかも知れませんがw
もうすぐ一括りです。頑張ります。




