第51話【クラナカルタ決戦7、希望と絶望と】
「正解ぃ♪」
奈緒から伝達の宝玉を借りて行われる種明かし。
所々に穴はあるが、概ね正解だ。よくもここまで推理を飛躍させられたものだ、と感心してしまう。
セリナはもちろん、ユーリィの氷に囚われたラピスも絶句していた。
その表情にマーニャの心がチクリと痛んだが、もう後戻りなどできない。
『セリナ? セリナ! しっかりして!』
「……ごめん、ナオ。また後で連絡するわ」
意外にも、ぶつり、とセリナは通信を途切れさせてしまった。
奈緒に現在の状況を説明して助けに来てもらうだろう、と考えていただけに拍子抜けしてしまう。
とはいえ、一時的なものに違いない。
マーニャの見立てでは、彼女は総司令の力がなければ、それほど戦えない。
「本当なのね」
「すごいわね、ボウヤ。たったそれだけの情報から、そこまで推理しちゃうなんて」
「ただ。わたくしたちも。詳しい話は。知りませんでしたが」
オリヴァースで内乱を起こしておくから、その隙に決起せよ、と言われただけだ。
内乱の詳しい段取りなど知らない。
それはラキアス上層部の者たちが画策するだけで、マーニャたちのような新入りの指揮官は現場で命令をこなすだけ。
「本国からの指示。ナオ総司令を。前線から追放し。メンフィルに。ラキアスの国旗を立てよ、と」
セリナの表情が厳しいものへと変貌していく。
失望とも、軽蔑とも取れるような瞳。理由は良く分からないが、マーニャの心が痛む。
それでもやらなければならない。
己の望みのために悪役になるのは、慣れている。だから自分たちの持っている情報を、遠慮なく突きつけた。
「それと、エルトリア家のご息女を……引きずってでも、連行してきなさいってね」
少女の表情が凍りつく。
感情の全てが抜け落ちて、驚愕だけがセリナを支配していた。
知られていたんだ、と思うと泣きたくなった。
マーニャが提示した友情の全てが、偽りにしか見えなくなって、セリナの心を乱していく。
「…………知っていたんだ」
「アズモース渓谷を攻略した頃だったかしらね。本国から情報提供がされたのよん」
「オリヴァースの王妹殿下。傭兵団の隊長と。著名な人物が多い中で。あなたたち三人は。身元が不明でした」
だから、調べさせてもらったのだ。
エリス・セリナという少女の正体。ラピスという女剣士を従者として従えている少女のことを。
「詰めが甘い、と言わざるを得ないわねん」
調べは簡単についた。
名前の『エリス』ではなく、苗字である『セリナ』を呼ぶのは不自然だ。
本当に隠す気があるのなら、ちゃんとした偽名を用いて、更には従者の偽名も考えるべきだったのだ。
「結局。ナオ・カリヤの情報は。集まりませんでしたが」
だからこそ、情報のない総司令を本国は警戒していた。
オリヴァースに内乱を起こさせる、という遠回りな道を使ってでも、追放させたかった。
もしも奈緒がオリヴァースに戻らなければ、恐らくはマーニャやユーリィが寝室に忍び込んで暗殺していたかも知れない。
「……そう、そうなのね」
「お嬢様、逃げてください!! それがしは自力で逃げられますので、どうか!」
絶句していたラピスが、声を張り上げて叫ぶ。
囚われの従者はどうとでも処理できる。人質にされてしまうのが一番恐ろしい。
この身は、主の剣となり、盾となるためにあるのだ。
少女の足枷になど、なりたくない。そのような事態になって主がラキアスに捕らわれるくらいなら、今からでも舌を噛む。
「……今夜は、良い月よね」
ぽつり、と夜空を見上げて独り言を呟く。
その意味をマーニャたちが解するよりも早く、セリナは手に持った宝玉で奈緒と通信を取った。
「もしもし、ナオ。聞こえる?」
『う、うん。聞こえるよ、大丈夫? マーニャと仲良かったから、疑うのも辛いと思うけど……』
助けを呼ぶのは簡単だ。
奈緒は現場を放り出してでも来てくれるに違いない。
そんな人だからオリヴァースの内乱でも責任を感じて、飛んでいってしまった。
セリナが一言、助けて、と叫べば……一番頼りになる人が、助けに来てくれる。
「……」
そんなことは、分かっている。
分かっているとも。自分と彼女たちの実力差も、己が置かれている絶体絶命の状況も。
だけど、違う。そうじゃない。
セリナは狩谷奈緒に何もかもを背負わせて仲間面をする、自分自身が何よりも許せない――――!
「大丈夫よ。ナオは、ナオの仕事に集中して。私たちは大丈夫だから」
何が、一緒に堕ちていきましょう、だ。
あれは脆弱で臆病で弱虫な女が、自己陶酔のために吐いた言葉だったのか。
彼がいなければ何も出来ない、そんな女が。
復讐だの、愛情だのを抱く資格があるとでも思っているのか。
甘えるのも依存するのも、いい加減にしろ、セリナ・アンドロマリウス・エルトリア。
「私を、信じなさい」
自信を告げるように一言。
親離れをする娘の心境。口先だけで囀る女はもう、いらない。
魔術品の向こう側で、奈緒は何かに圧倒されたかのように言葉を失っていた。
やがて、搾り出すように奈緒は言う。
『……気をつけて、セリナ。無理なことしたら、怒るから』
それで通信は終わった。
助けを求めることはしなかった。
伝達魔術品を懐にしまう。真っ直ぐに倒すべき敵を見据えた。
魔法という概念においては最高クラスの種族であるセイレーン族の『敵』が、不敵な笑みで立っている。
「良い度胸ね、セリナ。ちょっとだけ見直したわん」
「ありがと」
挨拶のような気軽な会話。
反比例するようにお互いの魔力が、戦いの前を思わせるかのように全身を駆け巡っていく。
負けるわけにはいかない。それは許されない。
「無理したら怒る、ですって。残念、怒られちゃうわね」
くすぐったそうにセリナは微笑んだ。
大切な思い出のようにそっと手のひらで包み込むと、それを基軸にして魔力を整えていく。
炎。奈緒の大嫌いな炎。
燃やしていくことに申し訳なさを感じながら、蛇のように踊る魔力の奔流はやがて、ひとつの形を象った。
「<炎の大鎌>」
己の武器。魔法の特性は死神の鎌。
業を背負った復讐の炎を構え、セリナは背中の翼をはためかせる。
漆黒の闇を切り裂くように飛翔する少女の身体は、煌く流星すら思わせた。
眼下を冷然と見下ろした。一撃に、全力を込めるつもりで、一気に大鎌を薙ぎ払う。
◇ ◇ ◇ ◇
「凄いわねん」
漏れたのは純粋な溜息だった。
轟々と燃え盛る炎は少女の内に眠る闘争心から生み出されたものだろうか。
マーニャは三角帽子を被りなおすと、敬意を払うように電撃を身体に纏わせた。
「セリナ。あなた、魔力だけならセイレーン族よ。それはお姉さんが保障してあげるわ」
「そう。ありがと」
炎の大鎌。
単純な炎使いでも、あそこまで純粋な武器として昇華させることは難しい。
電撃を槍として放つのとは、似て非なるものだ。
槍のような雷撃と、炎で創造した大鎌。乱雑な制御ではなく、綿密で繊細な技術力と精神力が求められる。
「ユーリィ、手出しはいらないわん」
「……ええ。わたくしは。ラピスを。見張っておきます」
相棒の返事を聞き、マーニャは城下町を疾走し始めた。
場所を変えよう、ということだろう。
セリナからしてみれば付き合う道理はないが、客観的に見れば相手はラピスの命を握っているに等しい。
それでも正々堂々とした勝負を望む、ということはマーニャたちの余裕に他ならない。
「ついておいでなさいな、お嬢ちゃん」
「……そちらこそ、置いていかれないようになさい、マーニャ!」
付け入る隙があるとするならば、彼女たちの余裕か。
ラピスを人質に取られて降伏を要求される可能性も考えたが、マーニャはそうはしなかった。
破れかぶれで氷の牢獄に、炎の大鎌をぶつけてやろうという無謀な計画はお蔵入りになったらしい。
マーニャか、ユーリィ。
どちらかを打ち破ることができれば、戦況を傾かせることは十分に可能だ。
城塞都市の東門付近へと移動する。既に傭兵たちは城へと攻め入っているため、周囲には人影がない。
「じゃあ、見せてもらおうかしら、セリナ。あなたの覚悟を」
相変わらずの余裕の笑み。
易々と本国に送還されて処刑台を登りたくなどないだろう。
精一杯の抵抗を、マーニャは喜んで享受しよう。全力を出してなお、無駄だということを思い知らせる。
それこそが、かつて友達と呼んだ少女に対する、唯一の誠実だと信じて。
「お姉さんは、避けない」
「え……」
「純粋な力勝負。友達を裏切った女が提示する、ただひとつの矜持」
夜空を泳ぐ金色の髪の少女に対し、マーニャは身体中を帯電させながら告げた。
裏切ったという罪悪感を誤魔化すため、と言っていい。
どんなに頑張っても、どんなに抗っても、どうにもならないことは、どうにもならないのだと思い知らせる。
希望のすべてを殺し尽くし、少女に諦めという名の絶望を贈る。
「殺すつもりで、やりなさい」
覚悟を試す。
人を殺せる覚悟はあるのか、と。
つい昨日まで笑い合っていた女を燃やし尽くせるのか、と。
細胞も骨も業火で陵辱し尽くし、魂も心も何もかもを踏み躙るほどの力があるのか、と。
それが出来なければ、セリナという少女は残酷な結末を迎えることになる。
「殺せなければ。あなたは首に鎖を付けられて本国に送還される」
「…………っ」
「考え得る限りの地獄をその身体に刻まれ、そして衆人環視の中で恥辱の最期を迎えることになる」
飄々とした態度など微塵も見せない。
セリナがマーニャに敗北して捕らえられた後は、そういう結末が待っている、ということを告げる。
それを覚悟せよ、と。
友として贈る最後の老婆心。間に縛られた女が突きつける、ギリギリの条件。
「来なさい、お嬢ちゃん!!」
「っ……!!」
二人の女が同時に吼える。
中空に浮かぶ貴族の少女が、咆哮と共に大鎌を投げつけた。
地上に立ち尽くす女が迎え撃つように手をかざす。
紅蓮の凶器は高速で回転しながら、真っ直ぐにマーニャの元へと一筋の光と化して激突した。
瞬間、少女の炎が地獄の業火を演出した。
視界に広がる炎、炎、炎。
城塞都市の東地区の半分近くを燃やし尽くすかのような紅蓮の炎が、小規模の爆発を引き起こした。
ぱちぱち、と音を立てて燃え盛る炎。
常人ならば飴のように肉体を溶かしているかも知れない。住民に被害がなかったのは、僥倖というほかない。
「…………っ……」
ごうっ、と一瞬で紅蓮の炎が掻き消えた。
飛行する少女の顔色が複雑そうな一瞥に変わる。生きていたのか、というより無事だったか、という想いが強かった。
そんなことを思ってしまった時点で、殺し切るのは不可能だったのかも知れない。
「すごく熱いわね。気持ちが込められていて、背負ってる想いがあるのは分かる」
マーニャ・パルマーが立っていた。
火傷のひとつもなく、衣服にすら被害はない。純粋な熱量で僅かに汗を掻かせたに過ぎない。
地獄の業火、という言葉が相応しいほどの一撃だった。
手加減なんてしなかった。ただ純粋な魔力の相殺……魔力に、それ以上の魔力を当てて、打ち消して見せたのだ。
「だけどね。何も背負っていない人なんていないのよ、お嬢ちゃん」
「あっ……」
復讐のために磨き上げた炎。
奈緒が、龍斗が、必死に修行しているあいだに彼女も修練を重ねていた。
その過程で編み出した、対大型魔物用の一撃が否定された。
三角帽子がひらひらと宙を舞う。マーニャは一切の笑顔を、もはや見せることはなかった。
「あなたの気持ちは強かった。だけど、お姉さんには届かなかった」
単純な事実を突きつけた。
マーニャは思う。勝負は決した、と。これが純粋な力の差だ。
少女の運命は断頭台だ。
マーニャを最初の時点で殺し切ることができなかった時点で、唯一の勝機は永遠に奪われた。
「……まだまだ!」
セリナが諦めることなく、まだ何かをしようとしていた。
唯一の誠実は二度も三度も与えない。彼女が何かをする前に、マーニャの雷撃の槍が少女を貫く。
手加減はしよう。いや、殺してやるのが情けかも知れない。
緩慢な動作でマーニャはセリナに向けて手をかざして。
「……!?」
「きゃあ……!!?」
直後、暴風が羽ばたく少女を乱暴に地面に叩き付けた。
風の魔法だ。セリナが何かに失敗した、とは思えない。マーニャは雷しか扱えない。
硬い地面に墜落したセリナは何が起こったのか分からないまま、げほげほ、と咳き込んで、ゆっくりと頭を上げた。
「な、何が……」
「こんばんは。セリナ・アンドロマリウス・エルトリア殿」
東門の入り口に、その青年は立っていた。
少女は一目見たとき、彼が味方のように見えた。今まで一緒に戦ってきた、という意味では仲間だったからだ。
だけど即座に、違う、と確信してしまった。
華奢な身体のあちこちから血が滲み出る。身体がバラバラになりそうな痛みを抱えながら、セリナは呻く。
「あ、あなた……っ……」
「素晴らしいですね、この腕輪。二回使っただけですが、今までのボクの風とは比べ物にならない」
青年は。
傭兵団の副長は。
討伐軍の首脳陣の一人は。
カスパール・テルシグは、明らかにセリナという少女を見下して、愉悦の表情を浮かべている。
「種明かしが必要ですか? ラキアスの大罪人のご息女。おっと、あなたのシェラは破壊させていただきましょう」
状況はさらに最悪に。
全ての希望を殺すかのように、少女の懐から零れ落ちた伝達の宝玉が足蹴にされて破壊される。
助けを呼ぶことも、もはや出来ない。
造反に対する絶望に目の前が真っ暗になっていく。逃れられぬ檻のように、裏切り者たちが少女を囲む。
◇ ◇ ◇ ◇
「セリナ……」
ラフェンサの飛龍で南門に移動し、屯する敵軍を追い払っていく。
奈緒は攻撃の手を止め、右手に収まる宝玉に視線を向けていた。心配で仕方がなかった。
大丈夫だ、とセリナは言っていた。
信じなさい、と気高く告げていた彼女の顔を思い出し、奈緒はそれ以上の追及を諦めた。
「いいのかの?」
「……いいんだ。僕は僕の仕事をしろ、って言われたから。セリナなら、大丈夫だから」
自分に言い聞かせるかのような言葉だった。
無理をしなければいいのだが。何故か分からないが、嫌な予感がしてならない。
虫の知らせがする。彼女に危機が迫っているのでは、と強迫観念に駆られてしまうのを、グッと抑える。
(おい、奈緒……)
(大丈夫。セリナも、ラピスも、きっと大丈夫……)
(……ああ、そうだな)
龍斗だって心配している。
奈緒が戦う理由は彼女たちにあり、龍斗の戦う理由は奈緒にある。
仲間とは助け合う関係であると同時に、信じあわなければならない。そういうものだ、と思う。
だから、奈緒たちは全力で。
眼下で奈緒の作戦通りに誘き寄せられ、歓喜に打ち震える王を、打ち破らなければならない。
「……来おったぞ」
「あれが、魔王ギレン、ですか……」
邂逅は二度目だが、感じる威圧感は初めてよりも強烈だ。
大鬼の血を引く者にしては小柄な体躯。引き締まった筋肉は一振りの無骨な剣そのものを連想させる。
右手で握り締めるのは、轟々と燃え盛る紅蓮の剣。
身体能力だけでなく、魔法の腕前も並以上。繊細な魔力操作と強靭な精神力が、紅蓮の剣を創造した。
(俺の、出番だな)
(うん……頼むよ、龍斗。これに勝てば、戦争は終わる)
身体の所有権が、かしゃり、と切り替わった。
紅蓮色の瞳。粗暴そうな顔つきへと変貌し、真っ直ぐにギレンの持つ紅蓮剣を凝視した。
「…………」
さあ、鎖倉龍斗。今こそ修行の成果を見せるときだ。
身体は震えるか?
炎が怖いか?
身体の隅から隅まで燃やし尽くされ、眼球も脳も熱くて狂いそうになった生前の己を思い起こせ。
あれは、お前を殺した獄炎だ。それを前にしてもなお、戦う覚悟はできているか?
「ははっ、いいじゃねえの。御あつらえ向きの展開だ、ちくしょうめ」
ああ、怖いとも。
殺された恐怖を忘れるなんて、出来るわけがない。
正義のヒーローなんかじゃない。ただの高校生だ。怖いものは怖い、当たり前だ。
だけど、それ以上に。
―――――親友にも同じ苦しみを味わわせてしまうのが、堪らなく怖い。
死ぬわけにはいかない。
恐怖に足を竦ませることも、身体を震わせるのも許されない。
信頼してもらったんだ。命を預けて、身体の所有権を貸してもらったのだ。
死ねないし、怯えてられないし、殺されるわけにもいかないし、負けるわけにもいかない。
「ラフェンサ、テセラ、援軍はいらねえ。俺一人で十分だ」
「止めても、聞かんの?」
「ああ。城塞都市に行け。北のラキアス軍が動いてやがる。あいつらに、好き勝手にさせんな」
「……分かりました」
ラフェンサは城塞都市の方向を見て、神妙に頷いた。
彼女は厳しい瞳を向けながら語る。
「あちらで、ククリ以外の飛龍を見かけました。何かが起こっている気がします。わたくしは、そちらへ」
「……妾も行こう。どの道、お主が負ければ全てが終わりじゃ」
ゲオルグ・バッツが敗北した以上、ラフェンサやテセラが相手にできる相手ではない。
龍斗が魔王を打ち倒さねば戦争は討伐軍の敗北だ。
旗印を失った軍ほど脆いものはない。
討伐軍の総司令と、クラナカルタ軍の魔王。大将同士の一騎打ちが、この戦争の全てを決することになる。
「武運を祈る」
「お前らもな」
挨拶を交わして、いざ死闘へ。
龍斗は飛龍から飛び降りると、鉄塊の大剣を取り出して魔王の眼前に立つ。
ぱちぱち、と音を立てた剣を握りながら、魔王ギレンは無表情のまま、鎖倉龍斗を真っ直ぐに見据えて言った。
「リュート・サグラか。いいぞ、次は貴様か」
「ゲオルグのおっさんが世話になったみてえだな。やっぱ、殺しちまったのか?」
龍斗は大剣を正眼の構えにして、ギレンの瞳と真っ向からぶつけあう。
超えなければならない壁。オーク族最強の戦士を叩き潰して、奈緒の信頼に応えてみせる。
戦争の終結は間近だ。
「トドメは刺していないが、それだけだ」
「そうかよ。そいつはありがてえな。お礼に手加減でもしてやろうか?」
「礼というなら、全力で相手をしろ。それで十分だ」
それ以上の言葉は交わさなかった。
龍斗とギレン。
両雄は同時に地面を蹴って跳躍すると、互いの得物に裂帛の気合を込めてぶつかり合った。
クラナカルタ決戦、最後の戦いが幕を開ける。