第36話【アズモース渓谷での余暇(前編)】
アズモース渓谷の出口付近。
荒れ果てた大地が続く崖の道を抜けたさきで、討伐軍は陣を敷いていた。
要所を押さえることで背後の憂いをなくす狙いがある。
崖の上からの奇襲に備え、飛行部隊は常日頃からの警備をしなければならない。
ナザック砦から兵糧や水を輸送してもらい、遠征軍としての機能を何とか果たすことに成功している。
「周囲に敵兵の姿はありませんね?」
「はい。今のところは」
ラフェンサは飛龍に跨って警備をしていた。
飛行部隊は彼女の指揮ではなく、セリナの手勢だが、飛行部隊の数が足りないので彼女も参加しているのだ。
セリナとラフェンサが交互に周囲の散策に当たっている。
ナザック砦攻略戦のときの奇襲攻撃を忘れてはいけない、という教訓によるものだった。
「アズモース渓谷を放棄しましたし、やはり兵を伏せている様子もないかと」
「安心しました。油断は禁物ですが、今のところは問題もなさそうね」
キュオオオ、と飛龍が少女を背に乗せて気持ち良さげに鳴く。
オリヴァースの王妹殿下自身が警護の任務につくなど、本来なら有り得ないことだ。
だが奈緒は部隊の指揮を任せた将軍の一人、として扱っている。
ラフェンサ本人も王族として腫れ物に触るような扱われ方はあまりしてほしくないので、ちょうど良いのだった。
「もう少しばかり、警護の量を減らしても良いと思うのですが」
「魔王ギレン。軍師のオルム。それに、ゴブリンの姫も健在です。三千人もの兵力も馬鹿にはできません」
窘めるようにラフェンサは口を尖らせた。
飛行部隊所属のバード族の青年は慌てて頭を下げると、再び警護の任へと戻っていく。
飛龍に跨って風を切りながら、ラフェンサは遠い景色を見下ろした。
雨の降らない大地。クラナカルタという名の国には枯れ果てた砂が、何もかも覆い尽くしてしまっている。
(ナザック砦、アズモース渓谷……となると)
今まではナザック砦すら突破できなかった。
今回の討伐軍には無限の可能性が秘められている、と国益を考えたオリヴァースの王妹殿下は思う。
ひとつ、ふたつと頭の中に浮かべたクラナカルタの地図を思い出す。
(次はやはり、ゴブリン族の集落、ラファールの里ですか)
アズモース渓谷を抜けた先にあるのは、再び命まで乾いた砂漠だ。
ナザック砦周辺と違うのは僅かに水源がある、ということだが、オアシスのようなものはない。
絶望的なまでに枯れていく大地に、必死に根付く集落がある。
「城塞都市メンフィルに住むことのできない、貧困層が集まる村……ですか」
餓死者は一週間に何十人と出る死の砂漠。
厳しい自然環境にもめげず、必死に毎日の飢えと衰えに耐えていく集落。
名はラファールの里。
多くのゴブリン族の故郷にして、クラナカルタで四番目の地位を持つ『ゴブリンの姫』の自治している村だ。
(彼らの多くは兵ではなく、民間人。戦いは必ず避けたいところ……ですが)
ラフェンサは言葉を濁した。
理想を言うなら民間人は全員を保護し、しかるべき食事と水と寝床を与え、保護してやりたい。
いかに戦争状態とはいえ、戦いに巻き込まれる平民たちは護らなければならない存在だ。
その思いにオリヴァースも、クラナカルタも関係ないと思っている。
だが、理想には常に現実が邪魔をする。
(今の討伐軍に、推定三千人を遥かに超すラファールの里の住人を保護する力は、ありません)
クラナカルタは兵力は三千人。これは戦える成人男子の数、とも言える。
逆に言えばそれ以外の存在。女子供や年寄りなどは、三千人を更に超えていると言わざるを得ない。
城塞都市メンフィルに住めるのはオーク族だけだ。
四番目に偉いゴブリンの姫ですら、城塞都市メンフィルに入れるのは大事な会議のときぐらいしかない、らしい。
(それに、蛮族は滅ぼすべし、という意見がオリヴァースにもあがっています……下手をすれば)
それだけの人数を保護する余力は当然、ない。
何しろ討伐軍の水事情は自分たちだけで精一杯、という状況であり、他人にまで回してやる余力がないのだ。
オリヴァース軍の中には蛮族たちに家族を殺された者たちも混ざっている。
悲しい話だが、両者の間にある遺恨は深い。
傭兵たちの中にもクラナカルタからの投降兵が混じっているが、やはり差別を受けている、という報告もある。
(下手をすれば、ラファールの里の民は皆殺しにされる)
どうすればいいのか。
どうすれば助けることができるのか。
飛龍に乗って風を切るラフェンサの表情は、小さく歪んでいた。
(ナオ殿。あなたは、どのようにして乗り切るつもりですか……?)
思い浮かべるのは一人の少年の姿だった。
柔和な笑みを浮かべたり、突然快活的な性格になったりする、とある人間の少年。
彼はいったい、どのような選択をするのか。
警護という己に与えられた役割をこなしながら、ラフェンサは少年の答えを見極めるために思考に入るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
この魔界では、野営には大きな危険が伴う。
それが魔物の存在だ。
彼らは野生の動物のように環境に適応し、生きるために進化を遂げることで成長していく。
適応できなかった魔物は屍となる。砂漠であろうとも魔物の存在は消えることはない。
「ラピスー、あれも魔物か?」
「……そうですね。サンドワーム。砂漠に生息する蛇で、彼らは砂を食べて生活します……」
「平和的だな、うん。砂漠はこいつらの天国みてえなもんだな」
アズモース渓谷の出口付近に陣を構えたのには理由がある。
ひとつが魔物の出現だった。彼らは水や食料を求めて人や魔族を襲うこともしばしばある。
大人数の魔族を従えて進軍する討伐軍でも例外ではない。
砂漠の中で生活をすれば、魔物の存在に怯えながら夜を過ごさなければならないのだ。
「ただし、大好物は血です。砂で生きていけますが、血がとても好きです」
「……あー……砂だけで満足してくれねえかなぁ」
「リュート。一日ずっと水だけで生きていけるとしても、たまには肉や野菜や果物を食べてみたいと思いませんか?」
「やめて! そんな具体的な例はやめて!」
実はこの問題はナザック砦でも、かなり深刻な問題となっていた。
サンドワームを初めとした魔物たちの被害に悩まされていたのだ。前回と同じ轍は踏みたくなかった。
そういうわけで龍斗の実践訓練もかねて、周辺の魔物討伐に乗り出したわけだが。
「で、ざっと見て十体以上に囲まれたわけですが……」
「待て! 待ちやがれ砂蛇! 俺はお前たちのキラキラした願いには応えてやれない!」
龍斗が叫ぶ中、こっそりとラピスは溜息をついた。
実はサンドワームだけではなく、ギアウルフやイルグゥのような魔物たちにさっきから襲撃を受けていたのだ。
既に今回の戦いを含めれば、三十体近い魔物と戦う計算となる。
「さあ、ゴーホーム! 今すぐ帰りなさいお前たち……ってぎゃー! 飛び掛かってきたー!」
「気をつけてくださいよ、ほんとに!」
「ジャンプ力すげえー! 馬鹿にしてたわ、これ! 十メートルぐらい飛んだんじゃね!?」
魔物に愛される男、鎖倉龍斗。
彼が表に出ているあいだ、何故か日頃の三倍くらいの割合で魔物が寄ってくるのだった。
事件を呼び寄せる名探偵と同じくらい迷惑な体質だった。
なまじ天然であるだけに始末に悪いが、龍斗が好奇心のままに行動することもひとつの要因ではないかと思う。
(……何故、それがしはリュートのお守りなどを)
飛び掛かる土色の肌をした蛇を切り捨てながら、こっそりとラピスは溜息をついた。
ちょっと魔物退治も兼ねて訓練してくるわーっ、などと突然叫ぶ総司令官。
ユーリィがぽろり、と眼鏡を落としたのが印象的だった。それくらい、唐突で意味不明な台詞だった。
おかげで護衛としてラピスが同行することになる。
セリナが何だかとってもニヤニヤした笑みを浮かべながらラピスを送り出したのが、更に印象的だったと追記しておく。
「いえーい! ところで魔物って食えねえのかなー? あれだ、魔物を調理して食糧事情も解決!」
「食べられますよ」
「ですよねー……って、え、マジ!? もしかして俺、名案ゲットか!」
「調理を間違えれば落ちるのは味ではなく、命ですが」
「ぎゃー! 誰がうまいことを言えと!」
魔物の中には毒を持っているものもいる。
硬すぎて調理できないものや、食べても味も栄養も手に入らないものもいる。
有体に言ってしまえば、栄養を得られる魔物でなければ意味がないのだ。
サンドワームのように身体を捌いても砂しか出てこないような魔物では、調理しても何の意味もない。
「まあ、少なくとも砂漠で生活する魔物です。栄養のある食材は手に入らないでしょうね」
「ギアウルフ! イルグゥ! あいつらはどうだろう!? 狼に鳥だし!」
「……ええ、食べられますね。調理師がいれば、ですが」
「調理師さんヘルプぅぅぅううううううううう!!!」
地味に従軍料理人の存在の大切さを痛感する龍斗だった。
戦争に料理人を連れて行く、という発想は奈緒にも龍斗にもなかった。当然のことだが。
この世界には魔物がいるため、正しく食材を調理する料理人の存在が、最近世界で認められ始めているらしい。
魔物に食材の可能性を見出す、というのも凄い話ではあるが。
「そもそも、魔物って大小の違いこそあれど、うちのところの『動物』みてえなもんなんだなぁ」
「……動物、ですか。それがしたちの常識での『動物』とは、無害な魔物のことを指しますね」
「ああ、それだ。俺たちの世界じゃ、動物ばっかりだった」
「それは……とても、住みやすい世界なのですね。住民は魔物に怯えなくていい、理想の世界なんですね」
「い、いやー……ははは」
何だか、とても澄んだ瞳で羨ましがられるように言われると、目をそらしたくなる。
政治とカネの問題とか、独裁者の国のミサイルがどうとか、色々ときな臭い問題は目白押しなのだ。
もちろん、それは龍斗のような一般人にとって人事みたいなものだ。
ラピスたちにとっての魔物とは、民間人に身近に感じられる脅威であり、それがないだけで幸せな世界なのだろう。
「つーか、ほんとに不思議な世界だな、ここって」
「そう、ですか?」
「ああ。初めてのことがいっぱいあるくせに、名前とかモノとかが同じだったりさ。何だかなぁ、って感じ」
「はあ……」
不思議な世界の住人であるラピスからすれば、実感の沸かない言葉なのだろう。
小首をかしげるラピスが刀を一閃する。
蛇の胴体が二つに裂かれ、しばらく上下に別れてもがいていた蛇の身体も、やがて動かなくなっていく。
このサンドワームも危険度の高くない魔物で、それなりに戦い慣れた彼女たちの敵ではなかった。
最後の一体を龍斗が蹴り殺したところで、ようやく一息つく。
「……ふう。楽勝楽勝」
「調子に乗らないように。驕りこそが敗北を呼び込みますよ」
「……へーい」
窘められてしょぼん、とする龍斗だった。
砂漠の砂を踏みしめ、大剣を右肩に背負って寝かせている。
片刃の大剣らしい。確定できないのは、そもそも龍斗の大剣が斬るよりも潰すことに特化しているからだ。
つまるところ、ただの撲殺用の鈍器としても十分に使用可能なのだった。
「でも、まぁ……相手はもっと強ええからな」
「…………」
ラピスは無言のまま、肯定した。
現に彼ら二人は結果的に波状攻撃を仕掛けて、ベイグ・ナザックという強敵を撃破している。
そして二人とも、一人の男によって敗北しているのだ。
小柄なオーク族。
目にも留まらぬ速さでラピスも、龍斗も一撃で戦闘不能にしてしまった、クラナカルタ最強の男を思い出す。
「アレが、魔王なんだな」
「あそこまで肉弾戦に特化した魔王、というのも珍しいですが……」
「強い奴が偉い、って国風での王様だからな……そりゃあ、甘やかされて育ったような、生易しいもんじゃねえよ」
奈緒が戦った首長竜、キブロコスよりも。
ラピスと協力して戦ったベイグ・ナザックという巨大な身体のオーク族よりも。
自分たちと同じくらいの背丈の魔族が、圧倒的に強大だった。
初めて邂逅を果たしたばかりの龍斗が『アレは勝てない』と思ってしまうほどの、威圧感に満ち溢れた相手が。
「修行、あるのみ……ってな」
「そう、ですね。それがしには、命をかけても護らなければならない人が、います」
「俺にも、強くならなきゃならねえ理由がある」
思いはひとつだった。
どんなに強大な敵が相手だろうと、大切な人の願いを阻む者なら倒すだけ。
似た者同士、と評価された二人は同じタイミングで不敵に笑った。
地響きがして、砂を割るようにして新たな魔物が現れる。
今度はサンドワームのような前座ではない。正真正銘、砂漠の主と表現するに相応しい体躯の持ち主だった。
「……ミミズ?」
「ナーガ、ですね……村ごと人々を飲み込んでいく、砂漠の怪物です。ランクは……キブロコスと同じく、Cランク」
「うはぁ……そりゃあ、やべえな、おい」
ラファールの砂漠に生息する魔物の中では最上位に当たるだろう。
体長三十メートルに届こうか、というほどの巨大ミミズは先端に生えた大きな口をぱっくりと開ける。
狙いは言うまでもなかった。ミミズは呻き声を上げながら龍斗たちへと襲い掛かる。
龍斗は大剣を、ラピスは刀を構えて迎え撃つ。
奈緒は休養を取っている以上、彼らは魔法に頼ることができない。
「やべえな。楽しすぎて、笑えてきやがった……!」
その意気です、とラピスも返す。
強敵を相手にしようとも、この程度を打ち破れないようでは魔王ギレンを倒すことなどできない。
この程度も退けられないようでは、護りたい人を護ることなどできはしない。
一般兵五十人を要して戦わなければならないような怪物を相手にして、二人は一気に踊りかかるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「で、好きなんでしょ、ボウヤが」
「…………も、黙秘するわ」
アズモース渓谷出口に敷かれた陣。
部隊長に与えられた、それなりに大きい天幕の中で二人の女性が向かい合って座っていた。
一人はセリナ。ラキアスを父の仇として敵視する少女だ。
一人はマーニャ。その仇の国から送られてきた援軍の指揮官を務める、大人の女性だった。
「うふふ。隠さなくても分かるわよ。あなた、ボウヤを見るときに熱っぽい視線を向けるもの」
「そ、そんなこと、ないわよ?」
「視界にボウヤがいなくなったことに気づいたら、思わずキョロキョロと捜しちゃって、見つけてホッとしちゃうんでしょ?」
「うぐっ……き、気のせい!」
これが、仇を前にした少女の会話である。
金髪ツインテールの少女は白い顔を真っ赤にしながら、マーニャの言葉ひとつひとつを必死に否定していた。
マーニャはネズミをいたぶる猫のように、的確な言葉でセリナを追い詰めていく。
大人の余裕を感じさせる笑みを浮かべながら、セリナという少女の恋心を暴いていく。
「で、想いは伝えないの? ずっとこのままのつもり?」
「つ、伝えているわよ……伝わっているかどうかは、ともかく」
「ボウヤの反応を見る限り、うーん、って感想ねえ……自分を隠すのがうまい子なのかしら?」
「…………鈍感。バカ」
「うふふ。正直になってきたわね」
「そ、そんなことないのよ、マーニャ! 気のせいなんだから!」
さて、どうしてこんなことになったのかというと。
奈緒にちょっかいをいれるマーニャに痺れを切らし、ついでに奈緒の煮え切らない態度に痺れを切らしたセリナがいた。
彼女が奈緒に近づくと、どういうわけか、胸が苦しくなってざわめくのだ。
むむむ、この想いをどうしてくれようか、と悶々と悩んでいるときにマーニャが尋ねてきて、今に至る。
「女は、駆け引きをしながら男を捕まえなくちゃね」
「駆け引き……?」
「そうよ。女は追うものではなく、追わせるもの。男のほうにあなたを見てもらうように、計算しながらにしなきゃ」
「むぅ……」
なるほど、とセリナは腕組みをしながら頷いた。
彼女はラキアスの人間だが、セリナ自身は彼女やユーリィに対する嫌悪というものはなかった。
警戒はしているのだが、ラキアスの指揮官やら民やら、全てが憎いわけではない。
セリナが本当に憎んでいるのはリーガル侯爵家であり、マーニャは別に好きでも嫌いでもない、という感じだった。
もちろん、奈緒にちょっかいをかけている、という部分もあるので快くは思っていなかったのだが。
「マーニャも、そういうこと、してるの?」
「お姉さんはねー。特定の彼氏さんはいないの。今日はあっちの素敵な殿方、明日はこっちの薄幸の美少年……」
「無節操ね」
「あらん。一言でバッサリと切り捨てられちゃったわねん」
くすくす、と妖艶さを感じさせながらも無邪気な笑みを見せるマーニャ。
本当に典型的な大人のお姉さん、という感じだった。
今回のセリナとの会合も、マーニャがセリナと仲良くしたい、という気持ちから生まれたものだった。
「うふふ。でも、セリナは好きな人がいるのよね? それじゃ、アプローチを頑張りなさいな」
「アプローチ……」
「深夜にボウヤの布団のなかに潜り込んじゃうとか」
「な、なんかそれはダメ! 奈緒と交わした条約違反……なの、かしら。いや、でも……うん……?」
「あらあら。何か面白そうな事情があるみたいねん」
可愛らしくうろたえるセリナを見て、マーニャの表情が柔らかくなる。
「ま、お姉さんとしては、セリナとはお友達になりたいと思ってるわけ。あなたが一番、からかいがいがあるしね」
「……な、納得できないわ、そんな理由」
「だってこの軍、女はセリナとラピスとラフェンサの三人だけでしょ? お姉さんのところもユーリィぐらいしかいないけど」
「……そうね」
「だからぁ、たった五人しかいない女同士、仲良くしたいってわけ。お姉さんなら色々と教えてあげられるわよん?」
この話を聞く限り、ラピスやラフェンサにも同じ話を持っていくつもりらしい。
奈緒の視点から考えてもマーニャと仲良くすることに問題はない。例え、いずれ戦う相手だとしても。
ここで断ってクラナカルタ攻略前から仲を悪くする必要もないに違いない。
それに、きわめて個人的な話だが。
マーニャ・パルマーという女性を、セリナは嫌いにはなれそうになかった。
「……よろしく、マーニャ」
白い手を差し出した。
握手を求めるための手を、恥ずかしげにそっぽを向くようにして差し出す。
マーニャは一瞬ぽかんとした。
差し出された手が握手のためだと気づくまでしばらくの時間を要したらしく、数秒ほど硬直していた。
大人びた彼女の顔が、穢れを知らない少女のように綻んだ。
「ええ、よろしくねん、セリナ」
掴んだ白い手は、心と同じくらい温かかった。
この握手を、この友情を、いずれセリナは自分から打ち砕くことになることを知っていたけど。
今はただ、ぬるま湯のような幻想に浸っていたい、と思うのだった。
申し訳ありません、もう一度この場をお借りして。
イリシュ様、すみません。
やはりホストが見つからない、ということでエラーが出て返信ができませんでした。
もしかしたら私のパソコンのほうがおかしいのかも知れません。
とにかく、お返事のひとつも送れないこと、大変申し訳ありませんorz
こんな私ですが、今後ともお付き合いいただければ幸いです……うう、しっかりしろ、私のパソコンー!