第八十四話 崩れた自信と目覚めてはいけないものが目覚めた瞬間
ブルローネはイクミの戦いぶりや力に素直に感服していた。
しかしそれでもただの人間であるイクミに負けるはずがないという絶対の自信があった。
人族と魔族では圧倒的に能力も才能も力にも差がある。
更にブルローネは魔族の中でも最高種の吸血鬼族。
ブルローネ自身は研究に没頭する方が性に合っているけれど、今までどの種族であろうと圧倒的な力でねじ伏せ、敗北した事は一人しかいなかった。
それが、同じ吸血鬼族であっても。
実際ブルローネは同族の中でも天才的な能力と才能と力を持っていた。
それゆえに彼は吸血鬼族の決まりにも縛られる事なく、自由に行動できた。
誰も彼に逆らう事はできなかった。
今日、この時までは。
「僕の・・・羽根が・・・」
ブルローネの白衣が赤く染まっていく。
先ほどまで、自由に動かしていた自分の羽根の片方が今は地面の上で事切れている。
羽根を、切り落とされた。
しかも、ただの人間に。
背中に感じる痛み。
ブルローネは痛みというのを初めて感じた。
自らの血を使用する実験も過去に何度か行ったので、自分の血を見る事に動揺はしない。
けれど、他者からの攻撃によって痛みを知ったのは初めてだった。
「・・・ただの、人間が・・・僕の・・羽根を・・・」
ぐぐぐ・・・・バサァ!!!
「っ羽根が!」
ブルローネの羽根が新しく生えた事にランスロットは驚愕する。
吸血鬼族は再生能力を持っている。
知識としては知っていたけれど、実際にその能力を目の当たりにしたのは初めてだった。
しかしイクミはたいして驚きはしていなかった。
補佐丸による助言があったからだ。
先ほどの攻撃は自ら攻めに入った一方で、吸血鬼族の再生能力がどれだけのものか、試してみただけである。
「(再生の時間はかなり早い・・確実に致命的になるような攻撃じゃないと駄目みたい・・)」
ブルローネは顔に手を当てて俯いている。
イクミはブルローネが次に何を仕掛けてくるか用心した。
だが次の瞬間、予想を遥かに超えた状況が起きた。
「・・・・・あははははははははははは!!!きっもち良い~~~~~!!!!」
目を見開き、頬を赤く染め高らかに笑うブルローネ。
自分で自分を抱きしめ、体を震わす。
格下、虫けら同然だと思っていた人間によってはじめて負わされた傷。
はじめての痛み。
それらが今まで敗北を知らず、他者から傷つけられた事もないブルローネの心の奥底で眠っていた何かを目覚めさせた。
「痛いってぇ~・・こぉ~~~~んなにっ気持ちいい~事だったんだねぇ~~~~!!!!知らなかったよぉおおおお!!!」
体中をぞくぞくと駆け巡る、快楽。
初めての痛みに対しての快感。
それらを痛感させてくれたのは、ただの人間。
ブルローネはかつてないほどの興奮に見舞われた。
「ねぇ~・・もっと、もっとやってよぉ~・・・もっと・・僕を悦ばせてよ・・・」
ブルローネの奥底で眠っていた、マゾ気質が今この時目覚めてしまった。
そしてイクミは。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ドン引きしていた。
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