第七十一話 子供達
「師匠、どうぞ」
ヒューゴが紅茶を入れてくれた。
ジャム入りの紅茶だ。
以前私が美味しいと言ってから、よくヒューゴはジャム入りの紅茶を入れてくれるようになった。
私は手紙を書くのをいったん止めて、ヒューゴから紅茶を受け取った。
「ありがとうヒューゴ」
美味しい。
体の内側がぽかぽか暖かくなる。
ルルは、人形を抱きしめてベッドの上で眠っていた。
もうこんな時間か。
外は暗く、星空が見えた。
パテルさんはその星空を見ながらワインを飲んでいた。
クリアネスナイトは・・すっかりお風呂が大好きになりまだお風呂に入っているよう。
・・・・もう2時間ぐらい経つんじゃないだろうか?
「手紙、書き終えられましたか?」
「うん、もうちょっとかな。元の世界ではあまり手紙を書く機会はなかったから中々うまく文章にできなくて」
「師匠の世界では手紙の代わりに“めーる”やら“らいん”などで遠くにいる相手とその場で会話しているように文章のやり取りができるんでしたよね?それこそ魔法のようです」
「まあ確かに、魔法みたいだよね。その変わり手紙のやり取りが少なくなって、私自身も手紙なんて久々だからどう書いたらいいか苦戦してるよ・・・」
最後に書いたのはいつだろう?
小学校低学年の時、おじいちゃんやおばあちゃんに出したくらいかな?
おじいちゃん達もスマホとか使いだしてからは、テレビ電話でちょくちょく話せるようになったから出さなくなったけど。
「差支えなければ、どんな内容なのか聞いてもいいですか?」
「うん。この前の村の事をね、ちょっと・・」
「ああ・・・・あの村ですね・・・」
ヒューゴは少し悲しい目をした。
私は紅茶をまた一口飲む。
何だか、苦みが増した気がした。
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赤い鎖で縛られながらも抵抗し続ける蜂の魔物。
村長をはじめ、村の人達と向かい合うイクミとパテル。
「この村に入った時から違和感を感じてました・・。大人は沢山いるのに、子供が一人もいないから・・」
村の中を歩いていた時、年配者や若い男女は多かった。
身ごもっている女性もいた。
でも、子供や赤ん坊の姿がどこにもいなかった。
「理由はすぐに分かりましたけどね」
暴れる蜂の魔物をうるさいといわんばかりにパテルが踵落としを入れる。
蜂の悲鳴に村長達は目を見開き止めろと叫んだ。
「神様に何て事を!!!」
「煩い」
パテルが村長達を睨む。
彼らはまるで蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「全て聞いたぞ、貴様らがやってきた事を。百年近くも前、この村が飢饉に襲われた時、この魔物が毎月子供を差し出せばこの村を救ってやると。
貴様らは藁にも縋る思いで子供を差し出した。魔物は子供を喰らい、代わりの己の体内で生成した黄金、そして食らった子供の若さを元に生成した寿命を延ばす蜜を、お前達に与えた」
パテルは蜂の魔物の下腹部を踏みつける。
すると蜂は口から黄金の欠片と蜜を吐き出した。
「黄金と蜜によって貴様らの村は救われた。予想以上の金が手に入った貴様らはこれに味を占め、村の子供達を次々に魔物に差し出した。
村を存続させる為には子供は必要不可欠だが、寿命を延ばす蜜を飲み続ける事で、貴様らは死ぬ事もなくなった。
だから生まれてくる子供を全て、魔物へ生贄にし続けても何の支障はなかった。
時には他の街の孤児院から身寄りのない子供を引きとったり、旅の途中で村に来た子連れの旅人からも、親は殺しその子供も生贄にした。殺した旅人の所持金も、まんまと懐に収めてな」
「私達がこの村に来た時、村長喜んでましたね・・。それはルルがいたから」
イクミは思い出す。
この村に来た時、村長がやけに嬉しそうだったのを。
あれは、ルルを見て喜んでいたのだ。
ルルを生贄にすれば、また黄金と蜜が手に入るから。
「しかしSランクのヒューゴがいた事は予想外だったようだな。名のある冒険者に手出しすれば、この村の秘密がばれる恐れがある。だから例え子供がいても、冒険者には手を出さない・・それが貴様らのルールだった」
「な、何故・・・・それを・・・・」
次々とこの村の隠していた事を話す二人に、村長達は驚愕した。
パテルはバカにするかのように鼻で笑い、イクミはきゅっと唇を噛み締める。
「・・・・教えてくれたから」
ざわりと、地下全体の空気が変わった。
温度が急激に下がった。
まるで冬のような寒さに変わる。
「っきゃあああ!」
「ひいい!!?」
「なっ何だこれは!??」
悲鳴が響く。
村人達の足に何かがいた。
それらは村人達に次から次へと群がっていく。
子供達だ。
この村で生贄にされ続けた、子供達の魂だった。
「この子達が、教えてくれたの。この村の秘密を」
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