第三十八話 とあるハイレグコート女の悲劇
イクミ達がリンベルト山から帰還し、フィオフルルの国へ再び入国する為に入国審査を受けている彼らの姿をじっと見つめていた者がいた。
濃いマスカラにつけまつげばっしばし、ファンデーション厚めで真っ赤な口紅。
際どいショッキングピンクのハイレグの上にコートを羽織った、季節感まるでなしのスタイル。
アマンダである。
口紅と同じ真っ赤なマニキュアを塗った長い爪を噛みながら、アマンダは遠くからイクミを睨んでいた。
「ああ忌々しいあの女・・・!!わたくしのヒューゴ様にあんなにくっついて・・!しかも何あの子供は!?(ルルの事)ま、まさかヒューゴ様の隠し子・・?!
い、いいえそんな訳ないわ・・そうよっきっと魔物に襲われて孤児になった子を優しい優しいヒューゴ様が面倒を見てらっしゃるんだわ!
ああ・・なんてお優しいのかしら・・わたくしのヒューゴ様・・」
アマンダはうっとりとヒューゴを見つめる。
目線の先のヒューゴは優しく微笑んでいる。
イクミに向けて。
アマンダの目が吊り上がる。
「許せない・・!ヒューゴ様のあんな甘い微笑みを独り占めするなんて・・!
ヒューゴ様を騙すあの女め・・!あいつの所為でわたくしはいい笑いものにされた・・あんな屈辱ははじめてよ・・っ
お陰であの国にいれなくなったじゃない!!」
アマンダは自分勝手な勘違いからイクミに決闘を申し込んだ。
だが、自分が放った水魔法を跳ね返された挙句、己の水魔法を自ら食らって化粧が剥がれ落ちるという結果で終わったのだ。
街中の者にその姿を見られ大笑いされ、更にはギルドマスターから決闘による器物破損への膨大な修理費を請求された。
お陰で貯めていた金貨は半分ほどなくなる始末。
アマンダにとって、イクミは絶対許せない人物としてランクインされたのだった。
「見てなさいイクミ・・あんたの正体引きずり出してやるわ・・!そしてヒューゴ様の目を覚ましてあげるの・・っそれがヒューゴ様と運命の赤い糸で結ばれたわたくしの宿命・・・」
アマンダはコートから香水を出して、沢山体に振りかけた。
この香水は、魅了効果のある特殊な香水である。
アマンダはこの香水の力を借りて、とある冒険者達と手を組んだ。
Bランクで男だけ5人のパーティーを組んでいる彼らは、かなりの腕を持ちもうじきAランク確実と噂されている。
全員筋肉質で、イクミが見たらむさくるしいヤンキー集団と言いそうな風格だ。
「皆さまぁ~~。さきほどあの女が入国しましたわぁ~」
「おおアマンダ!ついにか!お前をひでー目に合わせたっていうくそ女っ」
「まったくアンタみたいな良い女を陥れようとするなんて許せねぇ!」
アマンダはこの冒険者達に涙ながらに助けて欲しいと願ったのだ。
いかに自分が酷い目に合わされ、あの国で出歩く事すらできなくなったのかを、イクミがどれだけ酷い人間かを誇張して話した。
アマンダは自分の体と香水の力で、男達を見事に落としたのだ。
「安心しなアマンダ。この俺が必ず仇をうってやるからな!」
パーティーのリーダーである男が行くぞ!とメンバーを引き連れてフィオフルルへ向かった。
アマンダはそれを笑顔で見送った。
心の中では馬鹿にしながら。
「ちょろい男達ね。ちょっと胸を腕に当てて甘く囁いただけでこれなんだから。
ま、わたくしの魅力あっての事ですけどね~」
魅了の香水を使った事はすっかり忘れているアマンダである。
「見てなさいイクミ・・アンタこそ、もうその国にいれなくしてやるわ・・!」
おーっほほほほ!とまるで悪役魔女の高笑いをするアマンダ。
数日後。
「・・・・・・な・・な・・・・」
出国してきた男達。
アマンダはずっと外で待っていたのだが、そこでアマンダが見たものは。
ぼっろぼろで半泣き状態の男達の有様である。
アマンダは言葉を失った。
「な、何があったのよあんた達!?」
リーダーの男は青ざめた顔で震えていた。
「アマンダ・・ありゃ駄目だ・・あれは・・手を出しちゃいけねえ・・」
大の男達が皆恐怖に震えている。
一体何があったと言うのか?
それほどまで、あのイクミという女は強いのか?
アマンダはごくり、と息を飲み込んだ。
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男達は語った。
まずイクミという女は探すのが困難であった。
噂になっている人物だと言うのに、まるで見つけられない。
【隠密】のスキルで姿を隠しているかのように(ただ影が薄いだけ)。
ようやく見つけたかと思えば、常にSランクのヒューゴがいる状態。
しかも、見た事のないかなり顔の整った男もイクミからずっと離れなかった(良い男情報にアマンダの耳が大きくなった)。
それでもイクミが一人で買い物してるのをようやく見つけ、服屋で服を物色している所を狙って路地裏に引きずり込もうとしたのだが、服屋のおばちゃんに見つかって捕まりあれこれ品物を進められ、イクミの姿を見失った。
おばちゃんを振り切って、探し回ってやっと見つけたけど今度はAランクの『紅の疾風』の女達と和気あいあいとお茶をしてるのを見つけ手が出せなかった(あの有名なパーティー名を聞いてアマンダは目を見開いた)。
それでもようやくチャンスが来た。
イクミが『紅の疾風』の女達と別れ、ようやく一人になったのだ。
しかも都合のいい事に、人気の少ない所へ歩いていく。
男達はイクミが逃げられぬよう二手に分かれてイクミを追い詰めていった。
だが、イクミは急に立ち止まってこう言ったのだ。
「用があるなら言って。ずっとついてこられたら流石に良い気分じゃないんで」
イクミは男達に気づいていた。
気づかれていた事に驚く男達だったが、すぐに余裕のある顔をする。
ここにはヒューゴはいない。
目の前にいるのは、小太りな少女ただ一人。
「恨まれる事、した覚えはないんですけど?」
ていうか誰?というイクミに、男達は答えた。
「お前の非道ぶりに泣かされた女がいるんだよ。その身をもって償えや」
イクミは?と首を傾げた。
どうやら心当たりがまったくないらしい。
それがアマンダの魅了の香水にやられた男達の神経を逆なでする。
「やっちまえ!」
リーダーの男の声を合図に男達がイクミに襲いかかった。
モヒカンヘアの男がナイフを持ってイクミの顔を狙う。
「よく分かんないけど・・これは正当防衛になるよね」
モヒカンヘアの男が倒れた。
イクミが鳩尾に蹴りを入れたのだ。
その蹴り一発で、腹を押え気を失いかけているモヒカンヘア。
眼帯を付けた男が棍棒を振り回してくる。
イクミは軽くジャンプして、眼帯男のうなじに手刀を落とす。
眼帯男も地面に倒れた。
あっという間に二人が戦闘不能になる。
残る三人。
怯みそうになったが、それぞれ武器を手に持ち一斉に飛びかかった。
サングラスの男は剣を、髭がもっさり生えた男はハンマーを、リーダーの男は銃を。
イクミはす、と二本指を立て口元に寄せて呟いた。
「忍法 竹槍無双」
聞いた事のない魔法だ。
しかし次の瞬間、地面から先の鋭くとがった竹が、倒れている彼らも含めて男達全員を襲った。
だがイクミはわざと狙いを外して術を発動させた。
男達は竹槍の中で無様な格好で、腰を抜かしていた。
被害は破れた服と、破壊された武器類。
怪我は皮膚の薄い皮一枚が裂けた程度。
血すら出ていない。
「よく分からないけど、これ以上何かしようとしたらその時は本気でやりますからね」
つまり、これは本気じゃない。
男達は全員血の気が失せていった。
イクミは竹槍を消すと、その場から静かに去った。
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「俺も長年冒険者をやっているから分かるんだ・・!手を出していい奴と出しちゃいけねえ奴の区別が・・!
あれは、絶対手を出しちゃいけねえ類だ・・!!
アマンダ・・どんな事情にしろアレは無理だ!!俺達はこの件から下ろさせてもらう!!」
「ちょ、ちょっと!!」
男達は皆、恐怖でアマンダの香水の効果が完全に消え去っていた。
止めようとするアマンダを振り切って、男達は行ってしまった。
アマンダの思惑は、見事に崩れてしまった。
「な・・何なの・・Aランクの『紅の疾風』のメンバーとお茶会って何?・・あの女どんな人脈があるっていうのよ・・・・・何でこうなるのよおおおおおおお!!!!!」
「何だったんだろうな、さっきのむさくるしいヤンキー集団さん達は」
『ただのいきがった輩達でしょう。しかしさすがは我が主。私が手助けする暇もなかったですね』
「あれくらいなら私一人でも何とかできそうだったもん。ゴブリンより弱そうだったし。
にしても、私が泣かせちゃった人って一体誰の事なんだ・・・?」
イクミはいくら考えても、心当たりが全く浮かばなかった。
アマンダ再登場!
彼女はとにかく自分の体に自信があるからあんな格好をしてます
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