小話 自覚したヒューゴ
俺は奇跡など、信じていなかった。
目の前で母を殺されたあの日から。
俺は無力だった。
何もできなかった。
奇跡があるというのなら、母は何故殺されたのだ。
あんなにも強い魔法使いであった母を、虫けらのように殺した奴を俺は絶対許さない。
信じられるのは己の力。
奇跡なんて、ありはしない。
そう思っていた。
あの日までは。
圧倒的な力を、俺は目の当たりにした。
愚かな俺は、力量の差に気づかず戦いを挑んで、簡単に敗北した。
だが悔しさはなかった。
むしろ、求めていた圧倒的な強さが目の前に現れた事に歓喜すらした。
師匠。
貴方に出会えたのは、きっと奇跡だった。
貴方といれば俺はもっともっと強くなれる、そして奴に復讐できる。
そう確信した。
師匠は本当に強い人だった。
異世界から伝説の聖女と共に巻き込まれて召喚されたという話には驚いたけれど、それ以上に師匠が繰り出す見た事のない魔法の数々には見惚れた。
複製魔法も創製魔法もいとも簡単に使いこなす強大な魔力には感服しかない。
師匠は料理の腕も抜群だった。
異世界の料理には驚かされっぱなしだ。
何よりから揚げと塩おむすびっ!
あれは王の城の料理すら足元にも及ばないだろう。
正直、あの料理は一国を簡単に支配だってできるだろう。
断言する。
それだけ美味い。
師匠は俺が師匠の分の入国税等を払おうとすると嫌がる。
弟子として当然だと思うのだけれど、師匠は自分の分は自分で払いたいと強く言われた。
後で気づいたが、きっと自分の事はなるべく自分でするように、と師匠はそう言いたかったのかもしれない。
流石は師匠である。
そして、師匠はとても優しい人だ。
小さな小さなスライムのルルに対して聖母のごとく接する姿は、美しかった。
この時からかもしれない。
俺の中で、師匠に対する感情が変わっていったのは。
初めて師匠の怒りを目の当たりにしたのは、花の国フィオフルルでの事だ。
名前は忘れたが、下品女が師匠にあらぬ疑いをかけ、街中で事もあろうに魔法を使ったのだ。
結界で住民に被害はなかったが、巻き込まれそうになった小動物を庇った師匠は初めて怒りを見せた。
下品女の言動をことごとく、論破されていくその姿に俺は見惚れてしまった。
下品女はおろかにも師匠に決闘を申し込んだが、師匠の完全圧勝だった。
もし師匠が完全に怒り、我を忘れたらどうなるのか・・。
俺は身震いをした。
同時に、やはり師匠に弟子入りして間違いなかったと改めて思った。
あと師匠は甘いものが好きなようだ。
異世界の甘味を食している時や、フィオフルルの砂糖菓子を口にしている時など幸せそうな顔をされる。
そんな時の師匠を見ていると、胸の内が温かくなった。
初めてのギルドの依頼、ギルドマスター直接からの依頼を任される師匠は流石だった。
そして初の依頼に張り切る師匠の姿は、可愛らしかった・・・。
依頼先へ向かう途中で、ルルが人間体になって喋れるようになり、俺の事を父として認識していた事には流石に驚きを隠せなかった。
俺が父で師匠が母・・。
何とも言えない感情が廻った。
「私がママでヒューゴがパパって・・ヒューゴが気の毒だからさ・・」
そんな師匠の言葉に俺は即否定してしまった。
俺はむしろ、嬉しかった。
まるで、俺と師匠が夫婦のようであったから。
そうだ。
もうはっきり言おう。
俺は師匠に、恋情を抱いている。
復讐を忘れた訳ではない。
だが、願わくば師匠とずっと共にいたいと思っている。
強く、美しく優しい師匠。
俺は、貴方に出会えた奇跡を幸運に思います。
・・・・だけれど!
師匠がとんでもない魔獣と従魔契約を交わしてしまった!
何だこいつはっ!
師匠に馴れ馴れしいぞ!!
ええい!師匠に近づくんじゃなあああい!
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