第二十八話 ドワーフのアーニーさんはイケメンさんでした
リンベルト山の頂上にアーニーさんは住んでいた。
「ほら、入れよ」
担いでいたシルバーボアを(倍以上の大きさがあるのに)を外に置いて、アーニーさんは家の中に入る。
家の周りはぐるっと囲むように石が壁のように積まれている。
補佐丸はこの石壁そのものに魔物除けの魔法がかけられていると言っていた。
そして家はというと、見た目は完全なログハウスだった。
山の中にある別荘みたいな。
思い出すなぁ。
小学生の時、ログハウス型の貯金箱作ったっけ。
おおっでっかい窯がある!
まさに鍛冶師って感じだぁっ。
・・・・・あちこちに魔物の骨が山のように重ねてあるのは見なかった事にしよう。
「見て見て~」
ルルが角のある頭の骨をお面のように被って遊んでいた。
「ルルちゃん!駄目だよ勝手に弄っちゃ!」
慌ててルルから骨を取り上げ、元の場所に戻す。
「おい、何やってんだよ」
「何でもないですっ」
さあ早く中に入ろう入ろうっ。
ログハウスの中は暖炉もあって広かった。
壁に何かの毛皮とか骨のアクセサリーとか色々飾ってあったけど。
「んで?ライリーとキーランに頼まれて来たってのは本当か?」
テーブルを挟んで椅子に腰を下ろす。
アーニーさんは椅子の上に胡坐をかいて座ってる。
「はい。これがお二人から預かったアーニーさんへの手紙です」
私は無限空間から預かった手紙を出してアーニーさんに渡した。
アーニーさんは手紙の封を口で破って中の手紙を読み始める。
ワイルドだなぁ。
にしても、私の中のドワーフのイメージとだいぶ違うなぁ。
背も低くないし、髭もないし、若いし。
ヒューゴに負けず劣らずの、イケメンさんだし。
野性味があるイケメンさんだな。
「ルル、そとであそびたい」
「もうちょっと待ってろ」
「はーい」
ルルの頭を優しくヒューゴが撫でる。
うーん、イクメンぶりがさらに上がったなぁ。
「・・・・なるほど。話は分かった」
手紙を大事に封に戻したアーニーさんは小さく息を落とした。
「たくオーウェンの奴、どうせまた無茶しやがったんだな。・・まあ、無事で何よりだ」
あ、笑った。
笑った顔は凄く優しい。
「さっきは悪かったな。あのシルバーボアは前から食ってやろうと目を付けていた奴だったんで、横取りされるかと思っちまったんだ」
あ、良いドワーフさんかも。
素直に謝れる人は良い人だよね。
「いや、俺の方こそ失礼した」
ヒューゴも素直に頭を下げた。
うんうん、広い心は大事だよ。
「んじゃ、早速剣を見せてくれ」
私はライリーさん達から預かった剣をテーブルの上に出した。
剣を包んでいた布を取って、アーニーさんが剣を手に取り、ヒビの入った刀身をまじまじと見る。
「・・・かなり深いな。手紙にも書いてあったが、こんなヒビを入れさす魔物と戦って、生き延びれたのが奇跡だぜ」
世界で4番目に硬い鉱石だもんね。
でもアーニーさん、剣を見るとき目が変わった。
職人の目ってやつかな?
「まあ完全に折れた訳でもねーが、何せヒヒイロカネの剣だ。完全に直すにはちと時間がかかる」
「どれくらいですか?」
「普通の剣なら一日でどうにかなるが、こいつは・・五日はかかるな」
「いつか?」
「夜、5回寝たら五日だ」
アーニーさんが指で5を表すと、ルルが真似をして手をパーにした。
可愛いっ。
アーニーさん、意外と子ども好きかな?
「五日か。流石は鍛冶師のアーニーだ。名があるだけの事はあるな」
ん?五日って短い方なの?
『普通の鍛冶師なら、ヒヒイロカネ製の武器を直すとなるとヒビだけでも一ヶ月以上はかかるでござる』
一ヶ月以上!
ヒビだけで・・・それだけ珍しい鉱石の武器は作るのも直すのも難しいという事か。
貴重な金属を扱える鍛冶師は少ないって言ってたしね。
「今日はもうおせーし、明日から作業に取り掛かる。わりーが、待っててくれるか?その間、この家に泊まってもかまわねーから」
「あ、全然大丈夫ですっむしろよろしくお願いします」
「しまーす」
「感謝する」
あ、忘れるとこだった!
ライリーさん達から預かったお金っ。
「あのこれ、修理代として預かってきましたっ」
金貨300枚。
かなり重い袋をアーニーさんはひょい、と軽々持った。
シルバーボアを担げたり、相当な力持ちだな。
「おうあんがと。なあところでお前、イクミっつったな。その腰に差してる剣・・ちっと見せてくんねーか?」
「これ、ですか?」
アーニーさんは忍び刀に興味津々といった様子だ。
私は別に断る理由はないので、鞘に納めたまま忍び刀を渡した。
「どうぞ」
「おう・・。珍しい形の剣だな。見た事ねえ・・・」
す、とアーニーさんは鞘から刀を抜いた。
そしたら目が大きく見開いた。
え、どうしたんだろ?
「・・・・すげえ・・・こんな綺麗な剣、見た事ねぇ・・」
刀を先端から柄までじっくり見つめるアーニーさん。
「いったいどこの鍛冶師が打ったんだこの剣っ?」
「あ、私が作ったんですけど」
「・・・・・・・・・は?」
アーニーさんの口がぽっかり開いた。
あれ?変な事言ったかな?
「我が師匠は自らの魔力を元に、武器を創成する事ができるんだ」
「魔力を元に!!?」
アーニーさんがまた刀を見た。
「確かに魔力を元に、鉱石も何もなしで武器を作りだす奴はいる・・だが、こんなにも何の曇りも穢れもない剣を作れるとは・・・っ」
アーニーさんの息が荒くなっていく。
な、何かちょっと怖い。
「あ、あの・・・」
「あ、ああ・・っわりい・・・。ありがとな、返すぜ」
返してもらった刀を再び腰に差した。
・・・何か凄いアーニーさんが名残惜しそうな顔をしてる。
アーニーさんの目、刀にずっと向いてるし。
うう、欲しいのかな?
「おねーちゃんおにーちゃん、ルル、おなかすいたー」
ルルちゃんナイス!
これで変な空気が変わるかも!!
「もう夕食の時間ですね」
「んじゃ俺がごちそうしてやるよ!今日はシルバーボアの丸焼きだ!!」
良かった。
何とか空気が夕食の方向に変わった。
でも、ま、丸焼き。
何てワイルドな・・。
「ルル、からあげとおむすびがいい~」
「何だそりゃ?」
「からあげ、さくさくしてて、おいしいんだよ~」
「へえ、聞いた事ねえ料理だけど、やっぱ丸焼きが一番だろ!特に魔物は丸焼きが一番だ!」
外に積んである魔物の骨の山。
あれは丸焼きで食べた跡なんだろうか・・。
「師匠の料理を口にすれば、そんな事言えなくなるぞ・・?師匠は料理の天才だからな」
おおおいヒューゴくん!!!
君の過大評価何とかしてくれ!
料理の天才なんかじゃないから!
私はおばあちゃんに教わった料理くらいしか知らないからっできないから!!
「料理の天才・・・そんなにうめえのか?」
「おいしいよ~」
「絶品だ」
アーニーさんの目が私を見る。
凄い期待のこもった、目だ・・・。
うう・・・。
「つ、作りましょうか?」
負けた。
まあ作るのは嫌いじゃないから良いけどさ。
外で夕食を取る事になった。
さて、と・・作り置きのから揚げはもうない。
ここに来るまでに鳥系の魔物も退治したから、その肉を使う事にしよう。
すでにヒューゴが解体済みだから問題ない。
ロックバードとかレッドピジョン(赤い巨大なハトみたいな魔物)とか。
いつもみたいに一口サイズに切って、焼き肉のタレで味付け。
ルルもお手伝いに慣れたようで、無洗米で焚いたご飯を一生懸命おむすびにしていた。
ちっちゃいおむすびが何とも可愛い。
お味噌汁はヒューゴが作ってくれた。
ほうれん草を入れたお味噌汁、もうヒューゴはお味噌汁作りをちゃちゃっとやってくれる。
「何かすっげー美味そうな匂い・・!」
アーニーさんの目が輝いてる。
丸焼き食べるというから、アーニーさんも相当食べるだろう。
だからから揚げはそりゃもう山のように作った。
「完成!」
鍋一杯のお味噌汁に、たくさん並ぶ塩おむすび。
そして山盛りのから揚げ。
アーニーさんがフォークでから揚げを頬張る。
「・・・・っ!!何だこりゃあああ!あつあつさくさくで、柔らかくってすんげーうめえええええ!!!この白いのもうめええええっ!!スープもこんな味初めてだけどうんめええええ!!!」
凄い豪快にアーニーさんは食べてくれた。
から揚げ、山盛りに作ってよかったわ。
ルルもヒューゴも負けじと食べてる。
うーん、このメンバーのカロリー摂取量、合計にしたら凄いだろうな・・。
ん?何か視線を感じる。
「あ・・・スライム?」
辺りを見渡すと、あの大きな窯に隠れるように一匹のスライムが、こちらを伺うように見つめていた。
ルルよりも大きいけど、恐らく標準サイズのスライムだ。
でも色が黒い。
黒いスライムもいるのかな?
スライムは私の持ってる皿を見ているみたいだ。
から揚げとおむすびの乗った皿。
皿をちょっと右に動かすと、それに合わせてスライムも右に動く。
左に動かすと左へ。
何か可愛い。
「食べる?」
皿を持ってそのスライムの傍に行った。
地面に皿を置くと、スライムはすぐにから揚げとおむすびにかぶりついた。
「お腹すいてたんだね」
あれ?でも確か魔物除けがあった筈だけど・・・?
周りの石壁が、魔物除けの筈・・。
そう思って石壁に目を向けた時。
「師匠!!」
ヒューゴが大きな声で私を呼ぶ。
「え・・・」
黒いスライムは赤い光を帯びて、その姿を変えていた。
かつんと蹄の音が固く響く。
私の目の前で、黒いスライムは姿を完全に変えた。
『待っていたぞ・・・紛れ者よ』
水のように透明な長い角。
銀色の瞳。
翼の生えた、大きな大きな黒い馬。
夢で会った、あの黒い馬が目の前に現れた。
ログハウス型の貯金箱は実際作ったことがあります




