第二十一話 この世界の現実
フィオフルルの国を出てから五日ほど経った。
途中でゴブリンや角の生えたウサギ(ホーンラビットという)の魔物に襲われたけど、どれもヒューゴの瞬殺で終わった。
何かヒューゴばかりに戦わせるのも悪いなぁ・・。
ルルはというと、ヒューゴの戦いを見るたびに興奮してぴょんぴょん跳ねている。
もしかしてルルも戦いたいのかな?
「ルル、次はルルが魔法を使う?」
ルルは凄い勢いで私達のまわりを跳ねた。
すごい喜んでるよこれ。
「ヒューゴ、ルルの魔法練習させたいから次に魔物が出たらルルに任せてくれないかな?」
「分かりました!」
なーんて事言ってたら早速ゴブリンが現れた。
6匹ほどいる。
棍棒やらナイフを手にして下品に笑うゴブリン。
ゴブリンが使う武器の殆どは襲った商人や旅人から奪ったものだとヒューゴは言っていた。
にしても多いなゴブリン!
一番遭遇している魔物だぞ!
流石は数で勝負なゴブリンだ・・。
「よしルル!頑張れー!」
ルルは飛び跳ねながらゴブリンへと向かっていった。
Cランクの魔物も倒せたんだから、大丈夫だろう。
結果
ゴブリン6匹、ルルの毒魔法 溶解液によって瞬殺。
「2分もかからなかったですね師匠」
「・・・・・・・・・・・うん。無駄のない動きだったよルルちゃん・・」
ルルは褒められてぴょんぴょんしてる。
ゴブリン達は皮も骨も残っていない。
ルルが口から吐き出した紫色の液体を被った瞬間、瞬く間に溶けていったから。
溶解液こっわ!
哀れゴブリン。
それから1時間ほど歩いた先に村があった。
地図にも書いてる小さな村。
けれど地図ではその村は二重線が引かれていた。
理由はライリーさんから聞いている。
「ここが・・・魔物に襲われた村・・」
村には誰もいなかった。
崩れた家、ぐちゃぐちゃに踏みつぶされた後の残る畑。
地面や瓦礫には血の跡が痛々しく残っている。
壁のいたる所に鋭い爪の跡もあった。
「ライリーさんの言った通りだね・・」
「この爪の跡は、間違いなくブラックウルフの仕業ですね」
この村はブラックウルフという魔物の群れに襲われたのだとライリーさんが言った。
幸い村の人達は大怪我を負いながらも何とか全員逃げる事ができたけど、もうこの村に戻ろうという人は一人もいないらしい。
誰もいない村。
もう誰も戻らない村。
だから地図でこの村に二重線が引かれていたのだ。
いずれ、この村の存在すら忘れられていくだろうとライリーさんは話してた。
「国は魔物に襲われないように門や周辺に魔物避けの魔道具が置かれる事が普通です。しかし、小さな村では高度な魔物避けの魔道具は村中の金を集めても手に入りにくいのです。
この村ではこれが精いっぱいだったようですね」
ヒューゴが村の入り口で拾った、石の首飾りのようなもの。
でも紐は千切れ、石は全てヒビが入っていたり砕けている。
「これが魔物避けの魔道具?」
「安い魔道具です。ゴブリン程度なら効果はありますが、高ランクの魔物には全く効きません。ブラックウルフならこれはおもちゃレベルですね」
国と村の経済力の違いを見てしまった気がする。
「ルル?何してるの?」
ルルが瓦礫の下から何かを持ってきた。
ぬいぐるみだった。
ピンクのウサギのぬいぐるみ。
でも爪で引き裂かれて、ボロボロだった。
私が手に取ると、首が落ちてしまった。
「・・・・・・このぬいぐるみ、大事にされてたんだろうな」
よく見ると、ウサギが着ている服は手作りのようだった。
きっとお母さんが作ったんだろう。
この子の持ち主は、今どうしてるんだろう?
村の人達は皆助かったって言ってるから、きっと無事だろうけど、怪我はしてないだろうか?
「師匠、この村にいた住人達は皆生きています。だからこの村はまだ良い方なんです。師匠が気に病む事はないですよ」
ヒューゴが暗くなった私をはげまそうとしてくれてるのが分かった。
ルルも私の肩に乗ってすりすりしてくる。
確かに、今ここで私が暗くなったってしょうがない。
つくづく、私は運が良いと改めて思った。
だって使える忍術は万能すぎるし、食事には困らないし、ヒューゴやルル、ライリーさんやキーランさん等、良い人達との出会いにも恵まれてる。
もしかしたら、野党や魔物に襲われて毎日がサバイバルな異世界ライフを送る可能性もあったかもしれない。
ライリーさん達は言っていた。
この村のように、魔物に襲われて地図から消えた村や国は少なくないと。
皆殺しもあれば、女は攫われオスの魔物に嬲られ、最悪妊娠させられるとか。
それを聞いた時は体中が凄く寒くなった。
そのような事態をなくす為にも、強い冒険者が増えてほしいとライリーさんとキーランさんも言っていた。
この世界では私はうんと幸せだ。
でも他の人達は皆一生懸命頑張って生きている。
魔物に怯えながらも、生きている人も沢山いる。
「ヒューゴ、次から魔物が襲ってきたら私も戦うよ」
「師匠?」
少なくとも私は、魔物と戦える力がある。
流石にまだ何もしてない魔物に対してはむやみやたらに退治するつもりはないけど、襲ってきたり、これから村や国等を襲おうとする魔物がいたら、なるべく積極的に戦おうと思う。
「戦える力があるんなら、使わないとね」
別に私は正義の味方を目指してる訳じゃない。
ただ、力を持っていてその力でできる事があるのなら、少しは役立てたい。
それだけだ。
その日の夜、ルルに寝る時のお気に入りができた。
「師匠は本当に器用ですねっ」
「見た目はボロくなっちゃったけどね」
枕の上で眠るルルの傍には、ツギハギが目立つウサギのぬいぐるみ。




