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第十七話 美味しいパンと砂糖菓子で癒しのひととき



とにかく私は観光を楽しみたいので、ギルドを後にした。

まだ街の人達は私達を見てるけど気にしない気にしない!

ここで私の影の薄さが働き、しばらくするとヒューゴを見る人はいるけど私を見る人は少なくなっていった。

自分の影の薄さにこの時ばかりは感謝した。

それにしても。


「この街って花をモチーフにした商品がいっぱいあるねー」


花の形をした看板は勿論、花が綺麗に刺繍されたクロスや綺麗な花細工のアクセサリー、食べ物も花の形をしたパン等が売られていた。


「この国は花をとても大切にしているんです。ずっと昔、この土地では雨がめったに降らず作物が育たない荒地だったらしいのですが、一人の魔法使いがある花の種を国の人々に授けたんです。

『この種を植えてください。きっとこの国を救ってくれますから』と言い残して魔法使いは去りました。人々はその種を植えた所、色んな花が荒れた大地を覆いました。しかもその日から雨が定期的に降るようになり、作物が育つようになってこの国は救われたそうです。

それからこの国では花は恵みの花と象徴され、魔法使いへの感謝の意を込めて花を大事に育てているんです」


おー良い話だ!

それで花の国って呼ばれてるんだな。

うんうん素晴らしい。


「わあ良い匂いっ」


ふわんと鼻を擽ったパンの匂い。

このパン屋さんからだ!


「おや、お客さん?」


パン屋さんを覗くと、パンを並べていたおばさんが私に気づいてくれた!

おお、影が薄い私にいち早く気づくなんて、このおばさんやるな!

このパン屋さんは絶対繁盛してるパン屋さんだっ。


影が薄くてお店に入っても店員に中々気づいてもらえなかった私だけど、中にはすぐに気づいてくれる人もいた。

そんな人がいるお店は不思議と必ず繁盛してた。

だからこのパン屋さんもきっと繁盛してるはず。


「美味しそうですね~」

「ありがとう。毎日皆に美味しいって言ってもらえるように心を込めて焼いてるからね。ちょうど新しいパンが焼けたところだけど、どう?」


おばさんは焼きたてのパンをおすすめしてくれた。

これも可愛い花の形をしてる。

ああ、この匂い・・・これはきっと美味しい!!!


私は一個銅貨2枚だったそのパンを3個買った。

私とヒューゴとルルの分。

今度はヒューゴがお金出す前に払ったぞ!えっへん!

ヒューゴは師匠に払わせてしまうなんて・・弟子としてふがいない・・っとか言ってたけど気にしない気にしない。


ちぎってまず一口。

ちょっと硬いけど、焼きたてはやっぱり美味しかった。

花の蜜を練り込んだ生地らしくほんのりとした甘さが口に広がった。

この世界のパンも結構いけるじゃん。


「美味しいです!花の蜜の甘さがちょうどいいです」

「そうそう。蜜の量が大切なのよ」


ヒューゴも中々と言ってるし、ルルもパンを美味しそうに食べてる。


「まさかSランクのヒューゴさんにうちのパンを食べてもらえるなんて光栄だわ。しかもスライムがパンを食べるとは驚きだねぇ」

「ルルは美味しいものを食べるとすっごくご機嫌になるんですよ」


ルルはパンを食べ終えると嬉しそうに肩の上で跳ねた。


「お礼を言っているみたいです」

「へえ~っ!スライムにお礼言われるなんて生まれて初めてだわっでもちゃんと躾けてるみたいようだし。いい子だねぇ」


おばさんはルルを優しい目で見てくれた。

ルルもそれが分かったようで益々跳ねる。


「魔物ってのはおっかないイメージしかなかったけど、こんな子もいるんだねぇ」


まあそうだろうな。

でもルルはとってもいい子ですよ奥さん!


「おばさんのパン、本当に美味しかったです。ね、ヒューゴ」

「はいっ中々いける味でしたっ。しかし、この国には何度も来ていますがここにパン屋は確かなかった筈・・」

「先日オープンしたばかりだからね。小さい頃からパン屋を開くのがずっと夢だったんだけど、資金が溜まってようやくその夢が叶ったのよ」


夢を叶えるなんてすごいなっ。

そうとう頑張ったんだろうなおばさん。

そういう人は素直に尊敬しちゃう。


「いや~ヒューゴさんにうちのパンを気に入ってもらえるなんて本当に嬉しいわっよし!これは宣伝しないとね!あのSランク冒険者!ヒューゴ様にも好評なパンってね」


おお、流石商売人。

抜け目ないな。

何か下町の頼りになるおばさんって感じ。

でもここのパンは本当に美味しかった。

よし、旅に出る時ここのパンいくつか買っていこう。

無限空間に入れておけばいつでも食べられるし。


「また是非買いに来ますね」

「ああ待ってるよ!」


私達がパン屋を後にするとお客さんが続々お店に集まっていた。

オープンしたばかりとは言ってたけど、このお客さんの数は凄いな。

やっぱり繁盛してる店だ。

あの味ならきっとこれからも大丈夫だろう。


次はライリーさんがお勧めしてくれたお菓子屋さんだ。

そこならヒューゴも知っていると言って案内してくれた。


「きっと師匠、驚くと思いますよ」

「?」


驚くって何だ?

もしかしてとんでもない外装のお店なんだろうか?

いやもしかしたら店員がとんでもない格好してるとか?

何なんだろう?



「うわあ、可愛いお店」


色々想像したけど、たどり着いたお店はどれも予想が外れた。

花の形をした看板が下げられたこじんまりとしたお店だけれど、お洒落で可愛らしかった。

これはいわゆるインスタ映えするお店だなっ。

でもこれじゃ驚かないぞ?

中に驚くものがあるのかな?


中に入ると、これまた可愛かった。

ショーケースの中の砂糖菓子、色んな色があって綺麗っ。

あ、これ金平糖みたい。

こっちはクリームを絞ったような形をしてる。

見てるだけで楽しいわこれ。

んでも驚く要素はないな・・。


「あ、お姉ちゃんっ」


ん?私?

振り返ると見覚えのあるお下げの女の子・・。


「あ、あの時の猫のっ」


そうだっアマンダさんとのいざこざの時、助けた猫の飼い主だ。


「もしかして、ここ貴方のお家?」

「うんっパパとママがやってるんだよっヒューゴさんこんにちは!」

「ヒューゴ、この子のお家だって知ってたの?というか知り合いだったの?」

「はい。俺はこの店にはよく来てるので」


なるほどっ

これが驚く事だったのか。

まさかここがお家で、知り合いだったとは。

うん、確かに驚いたわ。


「お姉ちゃん、あの時はミシャを助けてくれてありがとう!それと試合見てたよっお姉ちゃんすごく強いんだね!あ、私シュクレっていうのっ」

「いえいえどういたしまして。私はイクミ、こっちはヒューゴ。んでこの子はルルっていうんだよ」


女の子はちょっとそばかすがあるけど、そこが可愛らしい。

頭も下げてお礼もいえて、うんうんいい子だ。

私はヒューゴと頭の上にいたルルを紹介する。

でもルルの事、怖がったりしないかな・・?


「わあっゼリーみたい!」


うん、心配なかったわ。

シュクレちゃん、ルルに触りたそうでうずうずしてる。


「シュクレ、何してるの?」

「あ、ママ、パパ!」


店の奥から優しそうな夫婦が出てきた。


「ママパパ、この人がさっき話したミシャを助けてくれた人だよっ」

「まあ、それはそれはっ」

「娘から聞いております。この度はありがとうございました」


二人に深々と頭を下げられる。

いえいえとんでもない!

この国の人達は、ライリーさん夫婦といいパン屋のおばさんといい、良い人ぞろいだぁっ。


「この店の店主を務めておりますジョージといいます。まさかミシャを助けてくれた方がうちのお店に来てくれるなんて」

「ライリーさんからここはおすすめのお店だって聞いたもので」

「ギルドマスターからっそれはそれは。どうぞゆっくり中を見ていってください」

「妻のミリシュです。ミシャの恩人ですからね、サービスしますわ」

「ヒューゴさんも、新商品がありますので是非っ」


ヒューゴは新商品と聞いて、ショーケースの砂糖菓子をガン見した。

ヒューゴ甘いもの好きだもんね。


「ねえねえお姉ちゃん、そのスライム触ってもいーい?」


くいくい着物の袖をシュクレちゃんが引っ張る。

さっきルルを触りたそうにしてたもんね。


「こらシュクレっお客様を困らせたら駄目だろう?」


ジョージさんがシュクレちゃんを止める。

ミリシュさんも心配げな顔をしてる。

ルルは魔物だから親として心配なんだろうな。

当たり前の反応だ。

ライリーさん夫婦やパン屋のおばさんみたいな人もいるけど、こういう反応が普通だろう。

うーん、ルルは平気だと思うけどここで安易にOKするもの・・。

ああ、シュクレちゃんシュンとしちゃった。

どうしよう。


「そのスライムなら心配はない。人は絶対に襲わないよう師匠がきちんと躾をされた。俺が保障しよう」


ヒューゴが助け舟を出してくれたっ。

ジョージさんもミリシュさんも、それを聞いて安心した顔を見せる。

流石はSランクのヒューゴ!

Sランクの発言は相当な力があるな。

もしヒューゴがいなかったら、入国の時、審査官にあれこれ言われるだろうし、無事に入れたとしても何らかのトラブルがあったかもしれない。

そう思うと、ヒューゴに出会えて本当に良かったかも。


「ありがと、ヒューゴ」


今度いっぱいご馳走作ろうっ。

笑ってお礼を言ったら、ヒューゴは照れたのか少し赤くなった。

おや、意外と可愛いところあるな。


「はい、優しく触ってあげてね」


両手にルルを乗せてシュクレちゃんの身長に合わせてしゃがんだ。

シュクレちゃんはそ、と手のひらでルルを撫でた。

ルルは気持ちよさそうにシュクレちゃんにすりすりした。


「かわいいっ」


シュクレちゃん満面の笑顔っ。

こんな妹いたらよかったなぁ。

ジョージさんもミリシュさんも笑ってる。

ヒューゴも優しい顔をしてた。

何か、いいなこの空気。


「みゃあ~」


どこからかあの虎模様の猫もやってきた。


「お姉ちゃん、ルルちゃんとミシャお友達になれるかな?」

「どうかな?ルル、仲良くできる?悪戯しちゃ駄目だよ」


ルルはじー、とミシャちゃんを見た。

ミシャちゃんもじーとルルを見ている。


見つめ合う事一分。


「おっと!」


突如ルルが手の上から床の上にぽてんと降りた。

ミシャちゃんはルルの匂いを嗅いでいる。

・・・ちょっと緊張。



「みゃああお」


ミシャちゃんは目を細めてルルに頭を擦りつけた。

ルルも抵抗せず、ミシャちゃんの体の上に乗った。

ミシャちゃんはごろごろ喉を鳴らしている。


いやだ何この光景。


「「可愛い~~~っ」」


思わずシュクレちゃんと声が重なった。

いやだってこの光景はやばい。

可愛すぎる。

可愛い同士の組み合わせ、可愛いが半端ない。

私とシュクレちゃんは可愛いを連発してしまった。




「お騒がせしました・・」


我ながらはしたない真似をした。

ああ、ジョージさんとミシュリさん笑ってる。

ヒューゴも顔を背けているけど、笑いをこらえてるの分かるからなっ。


ルルはミシャちゃんと眠ってしまってる。

窓の木漏れ日に当たりながらぐっすりと。

それがまた可愛い。



「はい、できましたよ」


ショーケースの中の砂糖菓子をいくつか選んで包んでもらった。

どれも一口サイズで一個銅貨1枚。

ヒューゴが払っちゃう前に自分の分はさっと払った。

どうもおごられるのは性に合わないもん。



「こちらサービスです」


ジョージさんは子瓶に詰められた金平糖に似たお菓子(星菓子というみたい)を一緒に袋に入れてくれた。


「ありがとうございますっ」

「で、こちらはヒューゴさんのです」


・・・ヒューゴよ。でっかい紙袋の中見は全部砂糖菓子かい?

ショーケースの中ほとんど空になったじゃないか。

だがいつもの事らしい。

ヒューゴは常連で、お得意さんなんだな。


「お姉ちゃんまた来てねっ」

「うん、絶対また来るよ」


ルルを起こさないように抱えて、と。

お店の外に出て、手を振ってくれるシュクレちゃんに手を振り返した。

ジョージさんとミリシュさんも外に出て見送ってくれた。

うん、いいなこの家族。



「わっ口の中ですぐに溶けたっ」


歩きながら砂糖菓子の一つを早速食べてみた。

しつこすぎない甘さで、舌の上ですぐになくなった。


「美味しいっ」

「ここの砂糖菓子は国の評判なんですよ」


そっかそっか。

そういえば、シュクレちゃんもあのご夫婦も私の存在にすぐ気づいてたな。

評判というし、繁盛してるお店に間違いない。

うん、この砂糖菓子、旅に出る時におやつとして買っていこう。


「ジョージさんもミリシュさんも良い人だったね~シュクレちゃんも良い子だったし」

「ええ、俺もあの人達は嫌いじゃないです」


ルルはまだ眠っている。

起きたら場所が変わってて驚くかな?


にしても今日も中々濃い一日だったなぁ・・。

冒険者登録に、女の嫉妬、それによる決闘(だったのかな?)・・。


私はちら、とヒューゴを見た。

ヒューゴも砂糖菓子をつまんでる。


「(人嫌い、か・・。ヒューゴは昔お母さんを殺されてからずっとその仇を討つ為に生きてきたって言ってたっけ。その間、色々あったんだろうな・・・)」


ヒューゴの事、知らない事が多い事に今気づいた。

でも聞こうとは思わない。

あんまり、聞いてはいけないような気がした。

でも


「(いつか、ヒューゴの色んな事、知れたらいいな)」


どうしてかは分からないけど、ぼんやり私はそう思いながら、もう一つ砂糖菓子を口に入れた。


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